ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 

4章 正体5



 

ヒカルからの度重なる連絡にアキラが気づいたのは
飛び乗ってしまった特急中で、受信時間から半時以上は過ぎていた。
連絡をいれたがすでにアキラの声は届かなかった。

情報機関内部に立ち入った事は、すぐに察しがついた。
胸騒ぎを覚え、引き戻し支社にたどり着いたアキラは、片っ端に職員に当たったが
誰も申し合わせたように『知らない』と首を振る。

だがそれが打ち合わせされたものであることをアキラは確信近く感じていた。
隠す必要があるのだろう。

ヒカルがここに呼び出された理由は?
もし、隠す必要があるとしたら?

今回の任務の事が過ぎる。
『空と直』の正体、あるいわ、『芥と学』二人の人狼。

それともヒカルが内にもっているかもしれない何か?

夜がアキラに忠告したあの言葉はずっとつっかえを抱えてる。
ヒカルはただの人ではないかもしれない。

アキラがロビーで立ちすくんでいると、背後からバタバタと大きな足音がして
振り返る。

「アキラくんどうしたの?久しぶりだね」

やけに明るい声で話し掛けてきたのは芦原だった。
芦原はアキラをここに推薦した人であり、上層部にも顔が利いた。

「芦原さん、あの」

芦原なら何か知っているかもしれなかった。
アキラはロビーの職員の目を避けるように芦原に目配せする。

芦原はすぐに察して、アキラの肩をポンポンと抱いた。

「アキラくん久しぶりだし、ご飯でも食べに行くか?」

わざとらしいくらいの声にアキラは冷や汗も感じたが、これぐらいの
方がいいのかもしれない。

「ええ」と頷き外に出て、芦原と肩を並べしばらく歩く。
芦原はわざと人混みのあるところを選んでいる。
それでいてアキラに聞いてきた。

「何かあったんじゃないのか?」

人混みの中だからこそそんな話はしないだろうという所だろう。
しかも芦原は思い切りの笑顔を浮かべている。
アキラは短く事情を説明する。その間、笑顔でふるまう芦原は不謹慎
のようで、そうではない。プロフェッショナルなのだ。

「相方?」

頷いたアキラに芦原は少し考えてアキラに小声でつぶやいた。

「緒方さんだろうな」

「支部長ですか?」

「でなければ、もっと上のものかもしれないが、職員に根回し出来るのは
それぐらいだろ、それに皆居場所も概ねわかってるんじゃないのか?」

「見当が付きますか?」

「違うかもしれないけど」

芦原はこれ以上なく笑顔だった。
だがその笑顔がわずかにひきつっていた。

「この近くにあの人のプライベートルームがあるんだ」

「この筋の道路隔てて右手、30メートルほどの先に〇〇の看板あるだろ?
あの隣のマンション1105」

支部からそう遠くない。

「わかりました」

「でどうする?つけられてるように思う」

アキラの動向は探られてる。しかもそこに向かって今歩いてい
るのならだ。
場所は近いがこのままそこにたどり着くのは難しそうだ。
それと同時にアキラはヒカルがそこにいることを確信した。

「そうですね」

「だったら」

芦原は目配せした。

「ちょっと遠回りになるけど付き合わない?」

芦原に手があるならと、アキラは頷いた。

芦原に連れていかれたのは緒方のプライベートマンションか僅か数メートル
程の小さな喫茶店だった。
昼下がりで客は少なく、芦原は一番奥を選んだ。

「ここからだと表から見えない。流石に店内に入っては来ないだろうし」

芦原は手話でアキラに話し掛けた。

「実はここ厨房を抜けると裏口があってマンションの裏口と繋がってる」

なぜ芦原がそんなことを知っていたのかわからなかったが。
芦原が喫茶店亭主に掛け合ってくれた。

「オレが出来るのはここまでだから」

「十分です。ありがとうございます」

「あと、これがあの人の常套手段だってこと覚えておいて欲しい」

そうつぶやくように言った芦原の表情は取り繕ってはいなかった。

アキラは喫茶店の奥に進み教えられた裏口から出たが、マンション内部に
入るには暗証番号が必要だった。
目を凝らす。

わずかだが、手垢と擦れの多い個所がある。
深呼吸すると番号が浮かび上がる。
押した番号はドンピシャだった。
よもやアキラにも勘なのか、能力なのかもわからない。


解除したあと、裏口から階段を掛けかがったのは、
表からだと職員に見つかる可能性を考えたからだ。
階段を駆け上がると上層からも響く音が降りてくる。


いっきに駆け上がるつもりが、その上から降りてきた音の主と出くわし、
足が止まる。対峙したその男の目をアキラはまじまじと見た。
緒方も目をそらさなかった

「ここまで来たのか?」

「ヒカルはいるのですか?」

「ああ、オレの部屋にいる。ちょうど部屋も開いてる。
だが、忠告しといてやる。行かないほうがいい、いや行くべきじゃない」

緒方に何を言われても、引き返す気などアキラにはない。
けれどわずかに足がすくむ。

「と言ってもお前は行くのだろう。たとえヒカルを傷つけても」

アキラは唇を噛み手をぐうに握る。
僅かに緒方からヒカルの匂いがしたからだ。

「失礼します」

アキラは緒方を追い越し、階段を駆け上がる。
何があったのか、予測できた。でも抑えることが出来なかった。


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