ヒカルの碁パラレル 暗闇の中で 暗闇の中で12 アキラは用心しながら、空を船に案内する。
「すげえな。これクルーザーだろ?寝室にキッチンまであるんだな」 『世界一周も出来るんじゃねえのか?』と空は目を輝かせていた。 何か仕掛けてくるとすれば、このタイミングだろうと、 アキラには見えないが佐為がいることも解っており敢えて空に船室に 入れた。 二人で地下の倉庫に降り、食料を選ぶと空がしみじみと言った。 「アキラがスパゲティって提案してくれた時ホントすげえ嬉しかったんだ」 「どうして?」 「直の好物なんだ。それでもし、あればなんだけど、甘い菓子類とかも・・・。」 言葉を濁した空にアキラは苦笑した。 「チョコレートとキャンディとクッキーなら」 「おお、本当か?よかったら少し譲ってもらえねえかな」 「ヒカルが保存食になると持ってきただけだから、遠慮なく持って行って いいよ」 「ありがとう、助かるぜ?直甘いもんに目えなくて、あいつの寮の部屋 菓子ばっかなんだ。けどここに連れてこられてからは、そういうのは食べて ないし。もちろんそんな事一言も言わねえんだけどな」 アキラはそれを聞いて空への警戒心を解いた。 空がアキラに付いてきたのは純粋に直の為なのだろう。表情から見ても 隙をみてアキラをどうするという気はなさそうだった。 「直君の事が本当に大切なんだ」 「えっと」 空は照れくさそうに笑いながら『まあな』と言った表情は満更ではなさそうだった。 「お前らも付き合ってんだろ?」 「ひょっとして僕とヒカルの事?」 「ああっ、て違うのか?」 アキラは苦笑いを噛みしめた。 「僕とヒカルはそういう関係じゃないよ」 佐為がおそらく傍にいるだろうしと、アキラは少なからず言葉を選んだ。 「ああ、そうなんだ。オレも直もてっきりそうかと思ってたからさ。 変なことを聞いて悪かったな」 「いや、別に構わない」 アキラは必要そうな食材と菓子類をバケツに入れると空に渡した。 「本当にお前たちに会えなかったらオレたちどうなってたか」 「まだ君たちはこの島から出られたわけじゃないし。どこかで監視されてたりする 可能性はあるんじゃないのか?」 「オレもその警戒はずっとしてる。 ただオレは探偵やってて結構これでも観察力と行動力はあるって 思ってんだ。監禁されてた時と違って今は視線とか感じねえし 監視されてたりはしねえと思うんだ。 ただ今後の事を考えるとあいつらの目的がわかんねえし。 もちろんお前たちの事を信用してるから、助けを求めたんだぜ?」 「すまない。すぐにでも君たちを救助してあげられたらいいんだけど」 空が『いいや』と首を横に振る。 「いいんだ。いつまでここに二人でいるのか?それが不安で怖くてしょうがなかったんだ。 直だけでも助けられないかってずっと考えてた。 けど今はもう少しだと思うと、ここで直と二人だったからオレはオレでいられたんだって思う」 アキラは空が強いな、と思う。恋人の直と一緒だったからなのか。彼らの生い立ちがそう させたのか。いずれにせよ二人の絆なのだろうが。 「空、二人が待ってる。戻ろうか」 「そうだな」 空は嬉しそうにバケツを抱えた。 アキラと空が一緒に戻ると、ヒカルたちの下ごしらえが終わっていた。 空が抱えたバケツのお菓子に直が目を丸くする。 「それどうしたの?」 「アキラが直にくれるってさ」 「本当にいいの?」 「ああ、ただ僕がというよりヒカルが船に持ち込んだものなんだけど」 苦笑するアキラに佐為がヒカルに事情を耳打ちする。 ヒカルが船に菓子類を持ち込んだ時 アキラにそんなものを持ってきたことを笑われたからだ。 直がアキラからヒカルに視線を移し、その瞳には涙まで潤んでいた。 「アキラのやつ、そんなもの持ってきたのかってオレの事笑ったんだぜ? 自分はわけのわからないものんばっか、船に詰め込んでんのにさ」 「失敬だな」 口を尖らせたアキラだが、本当に怒ってるわけじゃない事はヒカルも わかった。 「けど役にたってよかった」 そうヒカルが言うと、突然すぎるほど唐突に直がヒカルの胸に飛び込んだ。 直の温かさ、柔らかな体躯、髪は仄かにいい匂いがして、その突然の事実に ヒカルは硬直した。 まさかそんな事をされるなんて思ってもみなかったのだ。 しかも恋人の『空』の前なのだ。 「ありがとう ヒカル!!」 「えっと、大したことねえし」 ヒカルが困ってすごすご直から離れると空が笑った。やきもちを焼いたり 怒っていないかと思ったが空の方がすまなさそうだった。 「悪いな。オレたち人との距離の取り方がちょっと下手でさ」 「あっごめん ヒカル」 直もすぐに謝って離れ、顔を染める。 「別にちょっと驚いただけだし、直も空も気にすんなよ」 両親が亡くなって施設に預けられたという情報を得ていたし、それは二人を見ていて なんとなくわかる気がした。 4人で少し早めの夕食を取り、片付けをしている間に、アキラと空が紅茶を 入れてくれた。 甘めのミルクティはやはり直の好みらしく、直は嬉しそうで、そんな直をみつめる空も 幸せそうだった。 夕暮れの海を眺め、 水平線を行く夕日はまるでこの海がどこまでも続いているようにさえ思う。 ふとヒカルが見上げた先に立っていた直の髪が陽に染まり赤く透けた。 『えっ』 と思いもう1度見上げると直がヒカルに気がつき振り返った。 濃い赤い瞳がすっと引いていったように見えた。 「ヒカルくんどうかした?」 「いや、なんでもねえぜ」 気のせいだと思い、佐為を見る。佐為はヒカルの様子がさっぱりわからないという表情をしており やっぱり気のせいなのだろうと思った。 →暗闇の中で13話へ 追記。 直は人に触れられたりすることを極力嫌うのですが。施設でのトラウマで、 でもここでは『らん』の性格が少し出ています。次回ようやく核心に迫れると 思ってます。なかなか進まず申し訳ないです。
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