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Daydreamin




     
「俺 藤守にあやまんねえといけないことが
あるんだ。」



腕の中の藤守はかすかに震えながら俺を見あげていて
俺はその手をぎゅっと握りしめた。


「もう 俺の中に 夜はいねえんだ・・」

藤守の紫の瞳の色が濃くなって大きく見開かれる。

「なんで・・・!?どうして、まさか よる・・を」


そう返したのは藤守でなくて ゛らん "だった。
握りしめていた手がパンと払いのけられ俺はらんに
胸ぐらを捕まえられていた。

「夜がいないってどういうこと。わかんない。夜を出してよ。
空 なんていらない。」

取り乱したらんは俺の胸ぐらを ドンドンと何度もたたいてくる。

「夜 出てきてよ。夜 お願いだから。
いないなんてウソでしょ?ねえ・・・僕の声聞こえてるんでしょ。
夜ってば、早くでてきてよ。夜 よるぅ・・・」

涙をうかべながら必死に夜に呼びかける らん は
藤守と同じ顔 同じ体で その泣き顔は胸が締め付けら
れるほどに痛んだ。

だけどそれは らん だって一緒だよな。

夜と同じ体 同じ顔 の俺だからどうしようもないほど
苦しいんだ。

そんならんを抱きしめてやりたいと思うけどそれはもっとらんを
傷つけてしまいそうで俺はこうやって らんに叩かれてる
しかないような気がした。


「僕に名前をくれたのも僕をはじめて抱きしめて
くれたのも夜だったんだよ。僕のすべては夜だったのに。
あんたは必要な時だけ夜を利用して、辛いこと全部
夜に押し付けて・・いらなくなったからって捨てたの・・・。
あんた最低だよ 空なんていらない。かえしてよ。
僕の夜をかえして・・・。」

やがて力なく俺を叩いていた腕がだらりと落ちて、
それでもらんの瞳から涙が止まることはなかった。

何かを口にしようとした時、俺の意志とは別に言葉が
勝手について出ていた。



『 らん もう泣くな。』

らんは驚いたように俺の顔を覗き込んでいた。
それで俺はようやく自分が口にした言葉にはっとした。

「よ・・る!?」


突然に胸に飛び込んできたらんを俺はあわてて抱きしめた。

夜に体を取られた感覚はない。でもらんが 俺と夜を
見間違えた事はいままでに一度だってなかったんだぜ?

らんは今まで泣いていた事さえ忘れたようにうれしそうに俺の
背に手をのばした。

「夜どこにもいかないよね。僕を置いていかないよね。」

『ああ、もうらんを一人にしない。約束するぜ。』

それを聞いたらんが安心しきった顔で俺の胸にその華奢な
体を預けてくる。



「ねえ〜夜 覚えてる?僕が生まれてきた日の事。」

『忘れるはずないだろ?』



俺の中に忘れていたはずの研究所の景色が流れ込んでくる。
そう・・・たしかあの日は鉄格子の窓の向こうにらん 
と同じ瞳の色をした満月がでてたんだ。



『君は誰?』

『オレは夜だ。』

『よる・・・?じゃあ僕は?』

『お前の名は・・・らんだ。』

『らん?』

『そう らん だ。直を守るために生まれてきたんだ。』

『すなおをまもるために僕は生まれてきたの?』

『ああ。』

『じゃあ 僕を守ってくれる人はいないの?」

『らんは俺が守ってやるよ。』

『よるが僕を守ってくれるの?』

『お前は俺が守ってやる。何があってもな・・・』

そういって夜はらんを抱きしめたんだ。
だけど守ってやれなかったんだよな。俺も夜も。

研究員におもちゃのようにされて部屋に戻って
きたらん。

立ち向かっていこうとした夜をらんは必死になって
止めたんだ。


「行かないで、僕を一人ぼっちにしないで」って。

「僕は何をされても平気だよ。夜が傍にいてくれたら
夜が抱きしめてくれたら・・・それだけでいいんだ・・。」って


その晩 夜はらんをはじめて抱いたんだ。
らんは傷ついてたのに なのに幸せそうに笑ってた。

あの時夜は心の中で泣いてたんだ。

しらなかった。お前が泣く事だってあるんだな?
いつも余裕でクールで ぜってえ俺にはそんなとこ
みせねえくせに。

でもお前ってらんのことになると見境なく子供っぽいとこ
あったよな?

そういつものくせで心の中にいる夜に話しかけても夜の返事
はない。





『らん・・・俺と一緒にこい。』

「うん。」

らんはまるでそう言われるのを待っていたように笑って
胸にしがみついてきた。
けっして夜にしか見せない蕩けそうな笑顔で・・。

「うれしい。夜 ねえ僕 ナオの事ちゃんと守れた?」

『ああ。良くがんばったぜ。らんは・・・。』

「よかった。僕ね夜とだったらどこに行っても幸せだよ。」

『ら・・ん・・・』

見つめ合ってしっとりとらんの唇にそれを落とすと
愛しい想いで胸の中でいっぱいになっていく。


『らん 愛してるぜ。』

「うん。僕も・・・」




その言葉を最後に魔法は消えちまった。

胸の中のらんがちいさく身じろいで
その瞳にはいっぱいの涙が溢れていた。

「らん・・?」

「ちがうオレは・・・」

そう口にしたのは藤守?

「くうちゃん。らんがね。らんが、さよならって・・・」

藤守は取り乱したままぎゅっと俺の胸を掴んで泣き出した。

「藤守・・・」

俺は藤守の肩を抱きしめた。


「もうおれナオのこと離さねえから。
お前のこと忘れたりしないから、幸せにするから。」

よるとらんの気持ち絶対わすれねえんだからな。

そう言葉にすると夜が心の中で当たり前だろ?
と笑った気がした。


ああもう絶対手放したりしない。

ナオを。
藤守を愛してることも。


俺の一番大切な真実だから。


「藤守好きだぜ。」

そういうと藤守は急に真っ赤な顔をして困ったように
うつむいて。
やっぱりまだ言ってくれねえんだ。

でもいいよ。俺ホントの藤守の気持ち知ってるから。
お前が言うまで俺がかわりにいってやるんだからな。


「ナオ 愛してる・・・。」



                                   
     




あとがき

   空と夜の気持ちが同じになった事で夜が消えてしまうっていうのは
ストーリー的にはありだと思ってます。でもラストらんの事が描かれなかったアニメの
すきしょ!はらんファンの私としても勝平さんファンの私としても
かなり不服でして〜。というわけで書いてみたわけです(笑)
                      

                  緋色