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決別の時
 






     
部屋には羽柴はいない。

狭い部屋を確認するまでもないのにぐるりと見回してから
直はそっと空の布団に顔を埋めた。

少し汗臭い匂いと温かい空の匂い・・・ずっとこうやってこの匂いに抱かれて
いたいと思う。

ずっと羽柴や祭ちゃんやみんなの傍にいられたらいいのにって
ホントは思ってる。

でもじゃあ誰があいつを止めるの?
誰があいつをやっつけるの?

今の幸せはただの幻。
この匂いと同じようにいつか消えてしまう。

流されちゃいけない。
迷っちゃだめなんだ。

この気持ちに気づいちゃいけない。

直は自分にそう言い聞かせて埋めた布団から顔を上げようとすると
心の中へらんが話しかけてきた。

『本当にナオはそれでいいの?そんな誤魔化しでいいの?
ナオがここに来たのは空や祭に会うためだったじゃない。
だったら一人で背負い込まないで相談しよ?』

「それは絶対にダメ!!」

ナオはらんに大声を上げていた。

『何で・・・どうして・・』

らんは今にも泣き崩れおちそうだった。
大好きな夜と離れ離れになる日がそう遠くなく来てしまう。

もう2度と互いに交わる事の出来ない所へ自分からナオは行こうと
しているのだ。

『僕はヤダよ。絶対ヤダ。夜と離れるなんて嫌なんだから・・。
そんぐらいなら死んだ方がましなんだから・・・』

「らん・・・死んだ方がましなんていわないで。俺たちが相沢の元へ
いくことで皆を・・・夜を守れるんだよ。
それにはじめからこうなる事はわかっていたはずだろ!」

そう。それはここに来る事への条件だった。
空に夜に会わせてやる・・って。


自分の気持ちもらんの気持ちも抑えきれなかった。
こんな日が来るとわかっていても会いたかったんだ。



らんは嫌だと首を大きく振ってナオの言葉を拒絶した。
ナオはらんに優しく言い聞かせるように言葉を続けた。

「ねえ。らん今はオレの言う事をきいて。
約束するから。相沢のことが片付いたら、そしたらこの体をらんにあげる。」

らんはナオの言葉に耳を疑った。
この体をあげるって僕に譲ってくれるって言うの?

らんがそう聞くと直はうんと頷いた。

ナオの体・・・それはらんにとってずっと願っていたはずのものだった。

自分だけの体が欲しかった。誰にも気兼ねしなくていい
肉体が欲しかった。この小さな体に二つの精神は狭いんだ。

でもいいんだろうか?ナオのこの体をもらって?
自問したらんの答えはNOだった。

もしナオの体を自分のものにするならもっと前にやってた。

こんな事になる前に・・・ナオの精神を傷つけてでも手にいれてた。
でもらんはそれ以上我侭は言わなかった。
いえなかったんだ。

ナオの気持ちは本物だから・・。らんに体をあげると言った
気持ちも夜を守りたいといった気持ちも本物だから・・。

「わかった。ナオの体もらうの僕楽しみにしてる。絶対に絶対だからね。」

らんの返事を聞いてナオはほっとしていた。

これでいいんだ。ナオが僕と約束した事でこれから先
無茶をしないなら。
少なくとも命を落とすような軽はずみなことは自分からはしないって思う。

だってこの体には二人分の重さがあるんだから。

「ねえナオ今日だけはいいでしょ?」

らんのお願いにナオは微笑んだ。

「うん。いいよ。朝まで夜と過ごしていいから・・・」

「ありがとう。」










「夜・・・起きてよ・・・夜・・・よるぅ〜!!」

らんは必死で夜を呼んだ。空を叩いてわめいて掴んで我を忘れるぐらい。


強く体を抱きしめられてらんはようやくその人を見上げた。

いつの間にか空が夜にかわってる。それさえ気づかないぐらい取り乱して
たんだ。

夜の頬にはらんが今しがた暴れて出来たキズがあった。

「ごめんなさい。」

「構わねえよ。らん・・・・それよりどうかしたのか?」

傷つけてしまった事にじゃないの。これから僕がすることを、
夜は許してくれる?わかってくれる?

返事を返さないらんに夜はらんの髪をかき上げて頬を撫でた。


「らん、何かあったのか?」


いつもと変わりない優しい夜、夜の声。
でも明日にはもうこの笑顔も声にも会えないんだ。


「よるぅ。」

らんは愛しい人の名を呼んでぎゅっとその背に手を回す。
締め付けられる胸の痛みを埋めるように・・・
この温かさを忘れないように。

ずっと僕を愛してるって言ってくれた事忘れないから。
僕もずっと夜だけを愛してるから・・・。


絡めた指が離れてしまっても・・・。



夜がらんの様子がおかしいと気づいたのはもうすぐ朝にもなろうと
する時だった。

薄れていく意識でらんが儚く笑っていた。



「さよなら・・夜」と言う言葉を残して。





すきしょ!のRAINで夜をたたき起したらんは一体夜とどんな会話を
したんだろ〜っなどという想像しながらお話を書いてみました。

この頃のお話を書くと悲しいですね(泣)