続・フラスコの中の真実2






芥は化学室へと向かう途中、綾野と出くわし目を潜めた。

「一体こんな時間になんの用だ?」

綾野の顔を見ただけで顔をしかめた芥に綾野は苦笑した。

「まあそう不機嫌にならずに。」

芥は綾野を無視すると化学室へと歩き出した。
すると綾野も芥の肩を並べて歩き出した。

「なんのつもりだ!?」

「私もこれから化学室に用事なんですよ。教授をあなたの
お父さんを迎えにきたのです。」

芥はますます目を細めて綾野を睨みつけた。
あいつののことは羽柴空から聞いていた。
その時には学も一緒にいてお互い大方の事情はわかったつもりでいた。

が、芥にとって空はともかく綾野は胡散臭い存在だった。

表面上は笑顔をまとってはいるが、その表情からは感情は読み取れない。
あの水都や奏司の兄といいながら「あいつ」についていた事でも察しがつく。
芥にとって綾野ほど付き合いにくく不愉快にさせるものはそうない。

とはいえ芥の方がよほど周囲の人からすると付き合いにくいのだが。

二人は丁度化学室の前で申し合わせたように足を止めた。



「それで、あいつはこんな時間にここで何をしている?」

「ここに来ると失くした記憶を思い出せそうだと言って
時間があればここに通ってますよ。」

芥はそれに冷笑した。

「思い出さない方がいいのだろう?」

それまで笑っていた綾野の表情が真顔になった。

「そうかもしれませんね、でも・・・。」

綾乃が言葉を濁した時、準備室の方からドサっと大きな音が廊下に響いたあと教授の
くぐもった声が聞こえた。

慌てて準備室に走った綾野は目の前の光景を信じられない思いで見つめた。

教授が学を抱きしめていたのだ。

「教授、学くん一体?」

教授は綾野の台詞など耳に入らなかったように高揚していた。

「綾野ようやく見つけた。芥だ、私の息子だ。」と。




綾野より少し遅れて準備室に駆けつけた芥は一瞬にして自分の血が沸騰するほどの
怒りを覚えた。

「そこで何をしている!!」

「か、か・・い!!」

真っ赤になった学は慌てて教授の腕から逃れると、
教授は我に返ったように、学が芥と呼んだ人物をまじまじと見つめた。

「かい!彼もかい?」

しばらくの沈黙のあと綾野は今までの事など何もなかったように教授に言った。

「教授迎えにきましたよ。」

「だが、芥が・・。」

名残惜しそうに学をみつめる教授に綾野は微笑んだ。

「教授、彼にはいつでも会えますよ。」

それだけ言うと綾野は学に向かっていった。

「芥くん、いつでも会えるね?」

「へっ?」

学は綾野の顔と芥の顔を見合わせてから半信半疑に自分を指で示した。
それに綾野は笑うと学に片目をつむって頼むという仕草をしてみせた。

「えっ?お、おういいぜ。教授いつでも遊びにこいよ!!」


それを聞いてようやくほっとしたのか教授と綾野は化学室を後にした。

後ろ髪惹かれるようにもう1度振り返った教授に学が手を振ると
教授は少しはにかんだように微笑んだ。

その笑顔は綾野がはじめて見た彼の笑顔だった。









綾野と教授が去ったあと学は困ったように頭を掻いた。

「芥、空先輩が言ってたこと本当だったんだな。でも何で教授オレと
芥を間違えたんだろ。全然似てねえのに・・・」

「もういい、学今日はもう帰るぞ、」

不愉快極まりないと言うように芥は踵を返すと学に背を向けた。

「えええっ、今来たばっかなのに!!」

学が上目遣いで芥を見上げたが芥は背向けたままだった。

「ダメだ。」

ぴしゃりと締め出されて学はううっと低く唸った。
芥は少し大人気ないとは思ったが自分の感情をどうすることも
できなかった。

芥が準備室から出ようとすると学が芥の白衣を掴んだ。

「芥!!」

縋るように学が芥の背にもたれる。

「離せ、」

「・・やだ。芥」

必死に芥の白衣を握り締めたその腕に小さな頃の学と重ね合わせてしまった
芥はつい振り返ってしまった。

「ガ・・ク、」

学はまるで見捨てられた子犬のように瞳を潤ませて芥を見つめていた。

「芥、オレのこと抱きしめて、。」

抱きしめる・・?
芥はその言葉を心の中で繰り返すと先刻見た所業を思い出し怒りがまたこみ上げてきた。
あの男は学を抱きしめたのだ。オレの学を、

芥は荒々しく学を抱き寄せると首筋を噛むようにきつく吸った。


「学、・・・それだけじゃすまなくなるぞ。いいのか?」

「あっ、か・・い、」

耳に息を吹きかけられてブルっと体を震わせたあと、学は芥の瞳を見つめてゆっくりと
頷いた。


芥の手が学の白衣に手をかけたのはその直後のことだった。


                                       
    
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今回は芥と学のHシーンは飛ばします。期待した方がおられたかなあ(汗)