愛しい想い




     
今日はオレの誕生日で七海先生のマンションで廉がオレの為にご馳走
してくれたんだ。もちろん七海ちゃんや水都も一緒にだぜ。

なんで七海ちゃん家かっていうとオレには両親がいねえ事を
廉が気遣ってくれたんだ。
廉もオレと同じように両親がいなかったんだけど今は
七海ちゃんと水都っていうお父さんがいて家族ができたんだ。

そしたら今日七海ちゃんに「学くんもうちの家族ですよ。」

なんて言われてちょっと照れくさかった。

今まで親がいないことをひがんだり羨ましいなんてあんまし
思った事なかったけどこんな風に祝ってもらえるのってやっぱいいよな。

オレはそんな事を考えながら時計を見上げた。
8時を過ぎてる。楽しい時間なんてあっという間だ。

芥がそろそろ戻ってくる時間でも・・・。
オレが悩んでると廉が立ち上がった。

「学、もう時間でしょ?」

「へっ?あっ、ええ。」

歯切れの悪い返事に廉は苦笑してオレはぎゅっと胸の奥が
痛くなるような気がした。

「気にしなくていいよ。学はオレだけの学じゃないから。」

「廉・・・」

その後の言葉がみつからない。

「れん・・・」

もう1度廉の名を呼ぶと、いきなり水都に後ろから羽交い絞めされた。

「いててて。っていきなり何すんだよ。」

「たく・・・んな事では廉に嫌われるって。」

うっ。一番気にしてることをズケズケと言われてオレはうな垂れた。

「男ってのはこういう時は押して押して押し捲ってそれでダメなら相手を
押し倒す。わかるだろ?」

「ええ?押し倒すのか?」

「水都先生!!」

廉は真っ赤な顔をして視線を泳がせてる。流石のオレもこれには
どう切り替えしたらいいかわからなくて笑って誤魔化そうとしたら
いつの間にかキッチンにいたはずの七海ちゃんが
フライパンを片手に水都の頭をおもいっきり殴ったんだ。

「カーン」

すげえ音が響いたあと水都は頭を両手で抱えてた。

「なな、ひでえ〜。」

「当たり前です。なにくださらないこと言ってるんですか。
学くん、そろそろ時間なんでしょう?またいつでも遊びに
きてくださいね。私も廉くんもいつでも待ってますから。」

「七海先生サンキュな。」

名残惜しさはあったけど七海ちゃんが背中を押してくれて
オレが帰り支度を始めると廉が玄関まで見送ってくれた。

「ここまでしか見送れなくてごめん。」

わかってる。これが廉なりの優しさだって事は、
オレがその優しさに甘えてる事も。

「廉、今日はありがとうな。」

オレは廉にチュっとキスをした。
本当はもっとずっと廉といたいという気持ちが少しは伝わると
いいな。

唇を外した瞬間俺たちは背後からなんとも言えない嫌な視線を感じて振り返ると
ニヤニヤと鼻の下を伸ばした水都と目が合った。

「んな所でキスするなんてお前らもやるな。」

「真一郎、あなたって人は・・。」

七海ちゃんが水都の耳を引っ張って部屋へと引き戻す。

「イタいって七海、オレたちの息子の恋の行方が気になるだろ?」

「そんな事真一郎が気にしなくてもいいんです。」

オレたちは顔を見合わせたあと、2人で噴出した。






寮に戻ると部屋は真っ暗だった。ちょっと期待してたオレは
『そんなの都合よすぎだろ?』と自分に言い聞かせた。

電気をつけて、入ると4月だというのにヒヤりと部屋が冷たく感じる。
七海ちゃんの家とは大違いだ。

オレはそのまま上着を脱いでオレの机の上に置こうとしたとき
それに気づいた。
小さな箱がぽつんと置いてあったのだ。

「これ・・・ひょっとして?」

箱を開けると腕時計が入ってた。ブランドに興味のない
学でもしってる有名ブランドのものだ。

【時間ぐらいきちんと守れ・・・。】

見覚えある綺麗な字が並んでる。
『芥・・・。』

きっと芥の事だ。面と向かって言う事ができないから
ここに置いてったんだ。
オレはもうここにじっとしてることなんか出来なくなって芥の部屋へと
走ってた。



鍵もかかってなかった芥の部屋に飛び込むとオレは机に向かう
芥の背に向かって言った。

「芥・・・時計ありがとうな。」

けどオレがそういったのに芥は振り向こうともしねえんだ。
それって別にオレが嫌いでしてるわけじゃねえ
って事をオレは知ってる。
芥はこういう時どうしていいかわかんねえんだ。だかららしくなく鍵も
開けっぱなしにして、オレのこと待ってたんだって思う。

だからオレは芥の後ろからぎゅっとしがみついた。

「学・・いきなり何をする。」

「オレ・・芥の事好きだから・・。」

先程廉とキスした同じ口でオレは芥に想いを告白する。
それに抵抗がないわけじゃねえ。けど・・そうせずにはいられなかったんだ。

「いいのか、そんな事を言って。」

「本当のことだぜ。」

「後悔してもしらないぞ。」

「後悔なんてしねーよ。」

後悔なんてしない。後ろめたさはあるけどこれが
オレの今の精一杯の芥への想いだから。

「学。」

しがみつくオレの腕を取ると芥はオレをその大き胸の中へと導く。

「ガク・・。」

もう1度搾り出すように芥はオレの名を呼ぶと何かに耐えるようにぎゅっと
オレを抱きしめた

芥はいつも何も言ってくれない。けど想いは伝わってくるから、
胸が張り裂けそうなぐらい芥の想いを感じてるから、だから
芥がいいてえ事オレが代わりに言ってやるからな。


「芥、愛してるぜ。」

一瞬目線をそらした芥にオレは苦笑すると
うろたえる芥の口元が僅かに開く。

「学、オレもお前をあい・・してる。」

つぶやくほどに芥の声は小さかったけど学の胸は震えていた。

「うん。」

まるで初めて想いを告げたようにオレと芥はぎこちなくて
スローモーションのように芥の動きがゆっくりとオレに合わさっていく。
二人の想いを重ねて・・・。






最近「も待て!」もやってみたいな〜と思う緋色です(笑)
このお話以前書いたネタとちとかぶっちゃってます。
しかも頓挫してるのフラスコの続編ともかぶってます(汗)
そろそろフラスコも再起動させないといけないのですが・・。