この空のむこうに







     
飛行機に乗ってもう3時間にもなるという頃。

まぶしい程の明るい日差しが目をつぶっても
飛び込んで来た。

それでも直哉がカーテンを閉じる気にならないのはなんとなく
こうしてるのが気持ちいいからだ。


大きく伸びをすると俺 桐原 直哉の親友であり
パートナーでもある椎名 彰人が雑誌から目をあげた。


「直哉 退屈になってきたんだろ。」

「退屈ていうかさ。なんかこんなのんびりすんの
久しぶりじゃねえ?」

「のんびりって言ってもな・・」

彰人は小さくため息をつくと機内を見回した。

機内のファーストクラスにはまばらとはいえ乗客がいて
こちらの様子を興味しんしんに伺っている若い女性グループ
と目が合った。

搭乗する時にサインを頼みに来たお姉さんたちだ。

駆け出しとはいえアイドルの二人にはなかなか
休まる場所も時間もないようだ。


「作詞も書かなきゃならないんだけどな。」

彰人は人事のようにそういってまた雑誌に視線を
戻す。


相棒の俺がいうのもなんだが彰人は 見惚れるほどに
カッコいい。

細そうに見えてがっちりした体格 すらりと伸びた足を
組んだ姿勢はモデルさながらだ。

それに彰人は見た目もさることながらしぐさというか天性の
ものなのか自然に人を引き寄せる魅力があった。



それに比べ俺は背も165センチと低くてカッコいいと
いう容姿とはほど遠い。



ファンからもらうファンレターでもかわいいだのナチュラルだの。
これじゃあ割りにあわないよな。


彰人の整った顔を見ながら直哉は盛大にため息をついて
もう1度目を閉じた時だった。

いきなり何の前触れもなく飛行機が大きく傾いた。

その直後俺たちの真後ろで爆発音がして 乗客の
悲鳴が機内に響いた。

「なにがあったんだ!」

立ち上がろうとした直哉を彰人が手で制した。

「動かない方がいい!」

「でも・・・」

なんの説明もないままに
がくがくと飛行機は左右に大きく揺れだした。

乗客のシートベルト着用を
手伝っていたアテンダントが突然後方にとばされて
子供の泣き叫ぶ声が機内をさらに緊迫させた。

窓の外をみた直哉は愕然とした。
あきらかに高度が下がってる。

「彰人。飛行機・・落ちてる。」


彰人が直哉をかばうように身をかがめて震える直哉の指を
ぎゅっと握りしめた。



体がぐらりと落ちていく。





直哉の脳裏に走馬灯のようにいろいろな出来事
が駆け抜けた。





・・・・・・・・まだ小学校の俺がランドセル背負って帰りを急いでる。

俺これからレッスンにいくんだ。

ダンスレッスンに発声練習 舞台稽古を終えたあとは
腹ペコでいつもくたくただった。
当時は事務所の社長に、ここにいる奴らはライバルだなんて
言われたけどみんなすげえ仲良しで。
先にデビューした先輩たちに憧れて、まねしたりしてさ。

でもそんな先輩たちとの競演がきまったりする仲間がいると
うらやましく思ったりもした。

そんな中 彰人は俺と同じ年なのに大人っ
ぽくっていつも仲間内でもリードしてるかんじだった。

すでにあの頃から彰人には熱狂的なファンも追っかけもい
たし。


社長に呼び出されて俺と彰人がデュオデビューする事が
決まった時はほんと夢じゃないのかと思ってさ。
頬をつねって抱き合って名前を二人で考えたんだ。

いつまでも今の熱い想いを忘れないでいよう。
「Hearts」(ハーツ)


それからは歌もダンスも今まで以上に彰人と一緒だった。


デビュー曲の振り付けで何度練習しても
ステップがうまく踏めない俺に彰人は出来るまで
付き合ってくれたっけ。


それから・・・。



ドーン!!


マジかで起こった大きな爆発音が直哉の逃避した
意識と現実を交差した。


踏ん張っていた床が抜け落ちて、体が投げ出される。

冷たい空気が全身を包みこみ直哉は目を閉じた



俺ここで死ぬんだな・・。

死ぬ時ってホントあっけないんだ。
まだやりたい事いっぱいあったのに・・。





真っ白な世界で俺にむかって彰人が必死に
何か言ってる。


「直哉・・・俺はずっと、おまえの事・・・。」


肩までのびた黒い彰人の髪がみだれ空を
舞う。

こんな時にも彰人はカッコいいと思うなんて、俺へんだよな。

でも彰人と一緒だったら死ぬのも怖くないかな。


絡められた指に力を入れると彰人がぎゅっと
握り返す。



爆発音と悲鳴が俺たちとはどこか別の世界の
出来事のように響いていた。


 
     
      


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