この空のむこうに



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ザザって波の音が耳元でなってる。

焼け付くようにあつい体に
心地いい水の感触が包み込んで直哉は
目を覚ました。

直哉の目に飛び込んできたのはどこまでも広がる海と空。

見上げた空は雲ひとつなくて直哉はまぶしさにそ
れを手で遮った。

あれ・・俺なにしてたっけ・・・?

朦朧とした意識が覚醒していくうちに直哉は機内
での事を思い出し飛び起きた。

俺死んだのか?

手の甲にあたるリアルな砂の感触を握りしめると
ドクンドクンと早い心音が伝わってくる。

生きてる?

ひょっとしてお化けにでもなってしまったんじゃない
かと思ったが地に足はついてるようだった。


それにしてもここどこだろう?

振り返るとうっそうと茂る森があった。



それ以外に目のつく所に人影はなく何も見当たらない。

誰もいないんだろうか?

ふと目線を落とした腕時計の日付は200X年9月5日 
午後1時を指していた。

飛行機に乗ったのは5日の早朝だったから・・・。

直哉の腕時計はハーツがあるコマーシャルに出演した時に
応募賞品として出されたものを記念にともらったものだった。

今流行の電波時計というやつで時刻は狂う事は
ないらしい。

でもロサンゼルスに向かってる最中だったから時刻も
場所もあてにはならない。


そうだ彰人は?他の乗客たちは?

直哉は立ち上がるとくらっと眩暈がしてふらついたが
森を目指して歩き出した。




森に入ると冷たいほどひんやりとした空気が
まとわりついてきた。


額に嫌な汗が流れ落ちてきても直哉はただひたすら
何かを求めるように森を進んだ。


突然背後に気配を感じて振り向こうとした瞬間走り寄ってきた誰かに
肩を捕まえられた。


「わ〜!!」

「直哉っ!」

聞きなれた声に恐る恐る振り返った直哉の目の前には彰人
が立っていた。


「彰人!!」

恐怖でひきつった直哉の表情が涙声にかわる。

「彰人・・・よかった 俺・・・」

直哉は張り詰めていた緊張がきれたように力つきて
その場に座り込んだ。

「わるかった驚かせて。大声をあげたのに気づかないし・・。」
直哉がすごい勢いで森の中に入って
行くもんだから。」

「ううん。」

彰人がそっと直哉の肩を抱き寄せると直哉は彰人の肩に
頭を預けた。

「本当に怖かったんだな。」

「・・・ごめん オレ。・・・」

「いいよ。直哉俺に遠慮なくてするな。」

「うん。」


しばらく彰人の肩を借りていた直哉はようやく落ち着くと
急に照れくさくなって彰人から離れた。


「ところで彰人 俺たちの乗ってた飛行機は 
乗客たちは何か知ってる?」

彰人は顔を曇らせるとわからないと顔を横に振った。

「そっか。でも俺たちが助かったんだから他の
人達だって生きてるかもしれないよな。」

「直哉実はお前を追って来る途中、海岸沿いに
飛行機の機体の一部だと思うものをみたんだ。」

「本当?」

「ああ。生存者がいるかもしれない。」

「わかった。行こう。」

彰人についていくと直哉が倒れてた場所から幾度と
離れていない場所にジャンボ機の胴体部分のドーム
の一部が横たわっていた。


近づいた直哉の足がすくんだ。
機体からは少なからず焼けた匂いがしたからだ。


もしこの中に人が残っていたとしても・・・。

傍にいた彰人が直哉の手をぎゅっと握った。


「直哉、俺たちは今こうして生きてるんだ。
できる事 やらなきゃいけない事をしないとな。」

直哉はそんな風に思える彰人が心底強いと思った。





機体には大きな穴が開いていて二人は
そこから機内に入った。

思ったほど機内には損傷は見られないが・・・。

彰人が用心深くシートの下や散乱した荷物の下を
探すが人の姿はない。

この惨状を前に直哉は
あの一瞬の出来事の様子を思い出し胸が
つぶれるような想いに駆られた。

あの時小さな子供の悲鳴が聞こえた。
あの子はどうしたのだろう。
俺たちのサインをねだった女の子たちは・・・。

機内での出来事が声が頭に響いて直哉は
戦慄いて震えだした時
彰人が直哉の手を引いた。

「直哉外でよう。」

外はうそのように静かな海辺でそれが余計現実を
感じさせた。


彰人がほらっとポケットからペットボトルを投げた。

「これは?」

「機内にあったものだ。・・・直哉喉かわいてるだろ?」

彰人に言われるまで気づかなかったが
確かに喉はからからに渇いてた。

「うん」

それを受け取ると直哉はごくりと飲み込んだ。

それは五臓六腑に染み渡っていくように直哉の
心に体の隅々まで流れていく。


これは夢でないんだというように。


泣きそうになるのを堪えて直哉はペットボトルを
彰人に手渡した。


「ごめん。俺ばっか飲んで。彰人も飲めよ。」


彰人はそれを受け取ると少し困ったような表情で
水を口に含んだ。

「彰人?」

「なあ 直哉。もしすぐ助けが来なかったらの事なんだが・・。
俺はあの機体で夜をすごした方がいいと思ってる。」

「えっ?」

「この島を少し歩いてみたが人はおそらく住んでは
いない。
森の中にも何があるかわからないし。
でもあの中なら
少なくとも雨風はしのげるしシーツもある。それに
助けが来た時にすぐ見つけてもらえると思うんだ。」

あの中で夜を過ごす?

さっき機内に少し入っただけでも事故の時の事を思い出して
足がすくんだのにそんな事できるとはとても思えなかった。


「彰人は強いよな。そんな風に思えるなんて・・。」

「そんな事ないさ。俺だって直哉を見るまでは
心細くてダメなんじゃないかって・・・思った。」

そういって彰人はいいや 今もかな。って小さくわらう。

「でも、直哉が生きてたから・・・・
やれることがんばってみたい。諦めたくないだろ?」

触れた指先が熱くなる。

「うん。お 俺もさ、彰人がいたからだから・・」

照れくさそうに直哉はそういって取って置きの秘密を
いうように小声で言った。

「本当の事いうとさ、機内でもうだめだって思ったとき 
彰人が一緒なら死んでもいいかなって思った・・・」

「なら俺と一緒なら機内で夜を過ごすのも大丈夫
だよな。」

死ぬ気になればそれぐらいどうって事ないだろうと彰人は
笑った。

たしかにそうだよ。俺と彰人は今ここに生きてる。
きっと二人なら何とかなる。


彰人は励ますように直哉の指をぎゅっと握り締めた。


 
  


ちょいっと一言
飛行機は普通 海の上に落ちると言うことがないよう出来るだけ
陸地を飛ぶのが一般的です。(ハワイなどの島国を除いては )
まあそんな事をいってたら話にならないんで見逃して下さいませ。
  
 
      


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