君と僕があるべき場所へ
(天使が羽ばたく時番外編)





たまたま通りかかった公園で君の姿が目に入った。

一人棋譜ならべをする君。なのにその表情はくるくる変わって僕の心は

締め付けられる。

見えない相手と碁を打つ君
見えない相手と会話を交わす君 ・・・相手は誰?

君の心に入りたくて、でも楽しそうに碁を打つ君の邪魔もしたくなくてひらい
た距離はまるで今の僕と君との距離のようだ。

やがて僕に気がついて振り向いた君は困ったような顔をして

並べていた棋譜を片付けると慌てて立ち上がった。

「進藤 待って!その・・・」

ようやく話しかけた言葉は君によって遮られる。

「塔矢 俺 まだお前とは打てないんだ。ごめんな。」

違う。僕が言いたかった事はそんなことじゃなかったのに。
すっと僕の横を通り過ぎていく君の背に翼が見える。
目の錯覚などではない。はじめて会った時から見えたのだ。
いつかその翼で僕の知らないところへ飛んでいってしまうではないかと
思うと胸が焼きつくように痛んだ。

君が好きなんだ・・・通り過ぎていく君に言葉に出来なかった想いを僕は
かみ締めた。




ヒカルは広い公園内を逃げるようにその場を急いだ。

「 佐為 びっくりしたな。あいつ、いつからいたんだろう。」

「さあ私も気づきませんでしたね。」

とぼけてみせた佐為だったが本当は彼がじっとヒカルを見つめて
いたことははじめから気づいていた。でもそれを口にするとヒカルは
あの場をすぐ離れただろうと思うと口にはしなかったのだ。
ヒカルは素直じゃないから。

「なあ。佐為 俺変かな。塔矢の背中にさ、たまに真っ白な羽が
見えるんだよな。」

「変じゃありませんよ。私も見えますから。」

「本当?」

「ええ、本当ですよ。ヒカルの背にも見えますけどね。」

そう返すとヒカルがため息をついた。

「なんだよ。俺の背に羽なんかあるわけないだろう。やっぱ俺がおかしいんだな。」

本当に見えるのですがねえ・・・佐為の心の中の呟きはヒカルには届かない。
ふと立ち止まったヒカルに私も足を止めた。

「なあ 佐為俺と塔矢に本当に羽があって飛べないんだとしたらさ、
それは重力のせいかな?」

「重力?ああ、今日学校でならったあの。さあ、平安時代ではそのような
考え方はしませんでしたから・・・。ですが人と人が惹きつけあうのは
その重力とやらが関係しているのかもしれませんね。
私の魂が1000年もの間ここにあるのも。」

両手を広げたヒカルが枯葉の中を踊るように走りまわる。

「この枯葉も空気も全て引き寄せられてるんだな。」

「ええ そうですね。 」



木枯らしが舞う中並んで二人で歩き出すと公園の入り口に佇む少年に
俺は足を止めた。

「またあいつか。ホントにお前と打つためならどこまでも懲りない奴だよな。」

私でなく少なくともヒカルと同じ時間を共有したいだけだろうに・・
そう思っても佐為は口は出さない。ヒカルだって本当は
わかっているはずだから。

ヒカルの姿を見つけて駆け寄ってきた彼に今度は何を言い訳しようか
考えるヒカル・・・

「なんだよ塔矢まだ・・・・・」

「進藤よかったら一緒に帰らないか?」

今度はヒカルの言葉が彼に遮られる番。

「えっ あ うん。」

ヒカルは鳩が豆鉄砲を食らったようにうなずくと、
肩を並べていた佐為がそっとその場所を譲った。

並んで歩き出す二人・・・惹かれあう二人の魂が重力によるものなのかは

それは佐為にもわからないが、その背に見える翼は確かにそこにあって二人が

互いに出会うためにここに存在しているのだと思う。


長い道のりを共に歩むために・・・・






以前のサイトでこのお話を掲示板に貼り付けたんですよ。あまりにBBSに書き込みがないので寂しくて(笑)
でも今は掲示板に書き込みがなくてもお客様が読んでくださってるのがわかるのでそれで
満足です。ありがとうございます。



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