ラバーズ




12





     
名残惜しそうに離れた唇。
塔矢は俺の髪に触れてゆっくりと体を起こした

体が離された途端俺の心にぽっかりと穴があいたように
胸が疼いた。

湧き上がってくる想いを俺は無理に押さえ込みなんとか
ベットから起き上がると塔矢が立ちすくんでいた。




塔矢が見つめる先は先ほどまで二人がゲーム
していたパソコンの画面だった。



画面は暗い闇の中・・・
ジェット機が飛行していた。
暗闇の中でも確かにある目的地を目指すようにまっすぐと。

やがて東の空から光が差し込んできてジェット機はきらきらと輝きだす。
雲の上を・・・やがては海の上を・・。



それはパソコンの画面とは思えないほどにきれいで、リアルで。
俺はいつの間にか塔矢と肩を並べて画面に釘付けになっていた。




「これすげえきれいだな。」

「スクリーンセイバーだ。画面を焼き付かせないようにする
ために入れてる・・・。」

塔矢の語尾は震えていた。

俺はこのときになってようやく塔矢の様子がおかしいことに気付いた。

「塔矢どうした?」

返事はなく何かに耐えるように震えている塔矢に俺はどうしていい
のかわからなくて腕をつかんでいた。


「塔矢!」

「なんでもない。」

「なんでもないってことないだろ。だってお前震えて・・」



塔矢が必死に押さえ込もうとしてる感情。
それはベットで見せたものと同じものなのだろうか?

あの時塔矢は俺に欲情していた。

だが、それを必死に耐えて・・・。




「進藤・・僕は両親からアメリカに来るように勧められてる。」

「え??」

予想外の塔矢の言葉に俺は掴んでいた手を離していた。



「いや、本当の事をいうと僕自身が留学を望んでいた。
大学はMIT(マサチューセッツ工科大学)に進学する
のを目標にしていたし。

小さなころからパイロットになるのが夢で、技師としても
どうしても学びたいものがあった。
でも僕は今悩んでる。それは日本にいたって学べるんじゃ
ないかって・・・日本を離れたくないって。」


「塔矢・・・?!」



それは俺が好きだから、俺と離れたくないからアメリカに
行くことを悩んでいると言うことだろうか。

もしそうだとすれば俺はとんでもない過ちをしてしまったん
じゃないかと思う。


「それは俺が原因なのか。俺がいるから悩んでるのか?」

「何言ってるんだ。僕は君が好きだ。だけど君のせいなん
かじゃない。これは僕の問題であって僕の弱さであって君
のせいのはずなんてないんだ。」

確信へと変わっていく俺の過ち。

「ごめん 塔矢・・・俺が・・。」



それだけ言うのが精一杯で鞄を手にマンションを出る時に塔矢
に大声で呼びかけられたけれど振るかえることは出来なかった。



マンションの1階に下りて傘を忘れた事に気づいたけれど
俺は雨の中ただひたすら駅までの道を走った。



溢れでる涙と雨が混ざってしまうまで。










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