絆 3






     
僕が部屋に入ると並べて引かれた布団がすぐに目に入った。



進藤とここで・・・先ほど見た彼の肌の色、タオル越しに感じた感触が
リアルによみがえった。


体中が熱くなる感覚を払拭するため僕はテーブルの上に置いてあった
碁笥の石をつかんだ。こんな事のために棋譜を並べるなんて。




必死に冷静さを取り戻すために石を打ちこみながら自分を取り戻せて
いない自分がそこにいた。




「塔矢。ただいま!おっもう布団引いてんじゃん。」

うれしそうに入ってきた進藤に僕の理性がまた揺り動かされる。

「進藤それで戻って来たのか?」

彼が羽織った浴衣は完全に着崩れていた。

「うん。慌てて走って来たからかな。なんかずれてきて。」


結びなおしてあげた方がいいのだろうかと思って立ち上がろうとした途端
進藤が崩れた紐を解いた。はらはらと落ちる浴衣に僕の理性が
切れそうになる。


目線を外しても裾が畳をする音や彼の気配は耳に入ってくる。
自分自身のもどかしい感情をコントロールするためになんとか
目をつぶってその場を抑えた。

ふと見上げると進藤が今打っていた僕の棋譜を覗き込んでいた。



「おっ!この間お前と打った棋譜じゃん。リベンジといくか。
付き合うぜ。」


飛びそうになった理性を押し留めて僕は進藤の向かいにもう1度腰を
下ろした。

「お願いします。」

「お願いします。」



普段は対局中は別の思考は入ってこないのに今日に限って
進藤に意識がいってしまう。

進藤の動きが大きくてそのたびに胸元や足元が
はだけるのだ。集中できない僕を見透かすように進藤が
言った。



「塔矢お前そこでいいの。右上全滅しちゃうぜ。」

指摘されて僕はようやく自分が打った手が失着だった事に気づいた。

「あっ!」

「塔矢どうかしたのか?なんかいつもと違うような気がするけど。」


こういう時だけ進藤は妙に勘がいい。

「すまない。ちょっと、調子が出ないんだ。」



そういうと進藤がテーブル越しに顔を近づけてきた。
僕の心臓が進藤にまで聞こえてしまうんじゃないかと思うほどにドクン
と大きな音を立てた。進藤が額をくっつけて来たのだ。


「熱はねえみたいだけど、お前顔赤いぜ。ひょっとして俺にキス
されると思った?」


けたけた冗談ぽくいう進藤を心底妬ましくおもう。



「塔矢寝ようか。お前調子悪そうだし。明日も仕事あるしな。」

碁石を片付け始めた進藤に僕は力なく応えた。

「ごめん。進藤そうさせてもらうよ。」


電気を消してお互い布団に入ると夜の暗さと静けさがそこに訪れる。



目を閉じてもそこに浮かぶのは進藤の顔ばかりで、僕は手に入りそうで
入らない進藤へのもどかしさと苛立ちに葛藤する。




それからどれぐらいたったわからなかったが、
不意に隣の進藤がふ〜とため息をついて起き上がった。



「進藤眠れないのか。」

「うん。塔矢も?時間が早すぎるからかな。まだ9時回ったところだもんな。」

僕はドキドキする心臓を抱えながら進藤に尋ねた。


「君の布団に入っていい?」

「ええ!それって一緒にねるって事」

彼がわかって言ってるのかどうかはわからなかったが僕は頷いた。

「いいけど。」



戸惑いながらも布団の端っこを持ち上げて僕を招きいれた彼の横に
横になると進藤もそれに習って横になった。



「俺兄弟っていないからこんな風に誰かと同じ布団で寝るのなんて
はじめてでちょっと照れくさいな。」

僕は天井にむけていた顔を彼に向けた。本当にまじかにある彼の
顔を吐息をかんじながら僕は聞いた。



「僕は君の兄弟なのか?」

「ち 違うよ。」

「だったら進藤にとって僕は何?」

「塔矢は・・・その 俺の恋人。」

おそらく顔を真っ赤にしながらもそう返した進藤の
返事に満足して僕は彼の背に手を回しきつく抱き寄せた。



おずおずと僕の背にも手を回す進藤に気をよくすると
僕は全身を密着させるように進藤の体に自分の体を強く
押し付けた。



浴衣越しに感じる進藤の肌のやわらかさ 温かさ 早い心臓の音 
が僕の全てにダイレクトに伝わってくる。


僕はもっと進藤を感じたくて背中に回した手を腰に這わした。
その瞬間進藤の体がびくっと震えた。



「塔矢 あのさ・・その俺 何か変だ。」

微かに震える彼の耳元に僕は告白する。

「僕は君とフロに入った時からとっくにおかしかった。」

そういうと僕は腕に捕らえていた進藤の唇を荒々しく吸った。
それはそれほど長いキスではなかったのに離した唇から荒い吐息が
お互い漏れた。



「と・・塔矢・・・」

「進藤!」

お互いの名を呼び合った瞬間自分の中にあった理性は飛んでしまっていた。
僕はすばやく進藤の腰に這わせていた指を下肢へと滑らせると浴衣の裾を割って
太腿に直接触れた。
熱くてやわらかいその感触に欲望が増幅されていくような感覚が沸き上がる。




だが、進藤は僕の侵入にビクッと体を跳ねさせて布団から
逃げるように飛びだした。

僕が慌てて布団から起き上がると進藤は部屋の電気を間髪入れず
につけた。


まるでそこにいる僕を確かめようとするように。
僕を見つめる進藤のその瞳は不安に揺れていた。



僕自身も不安に駆られながら進藤に近づく。



そうすると進藤の体ががくがくと震えている事に気がついた。
怖い思いをさせてしまったのだ。

「進藤・・・ 」  

 ・・・怖がらないで、もう何もしないから。だがそう続けようとした言葉は
口から出なかった。
怯えて震える進藤ですら僕は無理やり自分のものにしてしまいたいと思っている。


はじめて対面する残虐な自分の本心。
進藤は一体どんな声で喘いでなくのだろう。

僕に許しを請うのだろう。

そう思うとぞくぞくする。まるで飢えた獣が獲物を
追い詰めるように僕は進藤を追い詰める。


きっとこの時の自分はさぞかし醜くて滑稽だったに違いない。


進藤を隅まで追い詰めると僕は渾身の力を込めて彼の体を壁に押し
付けた。

「と 塔矢・・・・なぜ」



大きく見開いた瞳が恐怖で潤んでいた。


一瞬の怯みは僕に残った良心だろうか。腕の力を緩めた途端
進藤は思いっきり僕を跳ね除けると振り返ることなく部屋から
飛び出していた。




僕は彼を追いかける事すら出来ずその場に立ちすくんでいた。
     
      





W&Bお部屋へ

4話へ