番外編 
一緒に暮らそう 12




※ヒカル視点で1度書いてみたんですがどうもしっくりこなかったのでアキラくん視点で
書き直しました。読みづらかったら申し訳ないです。






あれから3週間、進藤とは仕事ですれ違った程度で会っていない。


あの時感じた手ごたえも今はすり抜けて行ったような気がする。
君を求める気持ちはますます募っていく。

それも仕事や対局となればめまぐるしさに忘れてしまえるのだが。


1週間の遠征から帰ってきた僕は玄関の郵便受けの中の溜まった新聞に心を
沈ませた。


部屋に帰っても一人・・・。そんな生活をずっとしてきたはずなのに。

溜まった新聞とダイレクトメールを取り上げた時するりと一つの
封筒が床に落ちた。

拾い上げた僕ははっとした。
封筒には宛名も差出人の名も住所もない。
誰かがここまで来て入れたものなのだ。
それにはある程度の重量があった。

僕は慌てて部屋に入った。

暗闇の玄関に電気をつける間さえ惜しかった。
持っていたものをすべて投げ出してその封を切った。

その中には鍵と小さなメモ用紙が入っていた。
広げると見おぼえある癖字が広がっていた。


「塔矢へ
隣の501に越してきた。いつでも部屋に来ていいぜ。」

名前がなくても僕はこの手紙の差出人を知ってる。

メモを持つ指が心が震えていた。
とめどなくあふれ出してくる感情を抑えることができない。


「君は・・・。」


僕は玄関の引き出しからそれを握りしめると
荷物も新聞もそのままにして飛び出していた。
そして隣の501の部屋前で立ち止まった。

確かここは3か月ぐらい前から空き部屋になっていた。
先ほど前を通った時には気づかなかったが、表札が『進藤』となってる。

ドキドキなる胸の高まりが収まらない。

僕はノックもせずそのノブに手をかけた。
鍵はかかっていなかった。

玄関からちょうど僕の部屋と左右対称の配置に
そのままリビングに入ると進藤が真新しいソファに座っていた。

「よお、帰ってきたか。」

進藤は満面に笑みを浮かべいたずらが成功した子供のように照れ臭そうに
頭を掻いた。

「君は・・・。」

夢でも幻でもない本当の進藤だ。

「ちっとは驚いたか。お前豆鉄砲食らったような顔してるぜ?」

ソファから立ち上がった進藤の腕を僕は掴んで引き寄せた。
進藤は抵抗しなかった。

「進藤、」

僕は彼を抱きしめた。男性としては華奢な進藤の肩、体温、匂い
そのすべてをぎゅっと抱きしめた。
それでも苦しくて、胸が痛くて、張り裂けそうで力の限り彼を抱いた。

「塔矢、苦しいって」

腕の中でもがく進藤に僕は腕をゆるめた。

「すまない。感情が抑えられそうにない。これは君が僕の気持ちに応えてくれたと
取っていいのか?」

進藤は困ったように笑った。


「えっと、その。オレ
考えたけどやっぱよくわからなくてさ。」

その返事に僕は少し呆れた。

「でもこの間のことではっきりしたこともある。
オレがお前に・・・」

進藤は目線を彷徨わせた。

「惚れてるってことだけは・・・・」

顔を赤く染めて口ごもった彼に僕も少し照れ臭さを感じた。
今更のようだが彼の口から聞くことなんて滅多にできないセリフだ。

「迷っててお前をあんまし待たせんのもって思ったしな。
もしそれでお前が誰かと結婚でもしちまったら後悔しちまうだろなって。
そんなことを考えたらなんかもう行動してた。
そのまずかったか?」

不味かったもなにももう引っ越してきてしまってる。
それに・・・。

「いいや、嬉しかった。」

僕はポケットの中に入れていたものを取り出した。

「僕も君に渡しておく。」

手渡された鍵に見覚えがあったのだろう。
受け取った進藤の手は震えていた。

「この鍵、」

「ああ、君があの日置いていったものだ。」

「未練がましかったろうか?」

何度も引っ越しを考えた。部屋には短くも進藤との思い出が詰まっていたから。
でもどうしてもできなかった。
もしかしたらこんな日が来ることを・・・予感していたのかもしれないが。

「いや、お前ってホント・・・一途だよな。
ごめん、オレその、お前を待たせちまって、
あはは、オレ何言ってんだかよくわかんねえや、」

泣き出しそうな進藤を僕は抱きしめたいと思ったしキスしたいと思った。
あの日君が出て行った日、僕はそうすることが出来なかった。

「キスしてもいい。」

進藤は返事の代わりに頬を染め身を固くした。
そんな彼がたまらなく愛おしい。

唇が触れた瞬間、体が心がもっともっとと彼を乞うた。
おそらく君も受け入れてくれるだろう。
けれど僕はそれを必死にとどめた。


「君もいつでも僕の部屋に来ていい。けれど僕の部屋に来るときは
それなりの覚悟はして欲しい。」

彼の顔がますます赤く染まる。

「お前・・・。」

「僕は部屋に帰るよ。」

部屋に戻ろうとしたら進藤に呼び止められた。

「待てよ塔矢、あのオレ飯作ってる最中でさ。一緒に食わねえ?」

「君が作ったの?」

「オレだってちっとは上達したんだぜ。」

ムキになる進藤に僕は苦笑した。

「だったら、喜んでご馳走になるよ。でも一旦部屋に戻ってくる。
遠征から帰ってきて荷物も着替えもそのままなんだ。」

「1時間後ぐらいなら大丈夫か?」

「ああ、楽しみにしてる。」





進藤の部屋を退出して高鳴る鼓動を抑えた。
こんなサプライズは知らない。

本当に夢ではないのだろうか?

つねってみた頬の痛みに苦笑した。

まだ彼から返事をもらったわけじゃない。
でも・・・帰宅した時には沈んでいた気持ちが今はこれ以上ないほど高揚していた。




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