交差点5

 



オレは塔矢の家の前まで来たものの躊躇っていた。

先週告白されてからオレは明らか塔矢を意識しちまってる。
それがどういうことか、理解できないわけじゃなかったし、
どう塔矢と接していいのかわからなくなってた。

それに先日から絡んでくる緒方先生のこともひっかかってる。
塔矢はまだオレを佐為だと思っているのかもしれない。


あいつは「君の打つ碁が君の全てだ。」と言ってくれた。
もちろん以前佐為と打った碁もあいつにとっては
幻でなくオレが打った碁なのだろうが。

塔矢のことだから佐為と初めて打ったときの棋譜もきっと覚えてる。

偽りのオレでも塔矢の中にそうやって佐為の碁が生きてくれたらいいと
思う。塔矢は佐為を見る事も話すことも出来なかったけれど、碁を打つことで
佐為と同じ時間を共有したんだ。


『だからいつかは塔矢に話したいし知っていて欲しいと思う』

でもまだそれはもっと先のことだ。

何度も考えたことを今またオレは思い巡らせて深くため息をついた。



けどそれとは別に塔矢のことをオレどう思ってるんだ?
自身に問うた答えなんてとっくに出ていた気がした。




夢の中で見た佐為は微笑んでいた。オレに託された扇子。
あれは前に進めってことだよな?囲碁のことだけじゃねえよな?

それは自分の勝手な解釈のようで、でもあの夢だけはただの夢だと
思いたくはなかった。

「なあ、佐為。オレいいのかな?あいつと前に進んでも。」

そう心の中で問うたヒカルは背後に近づいてきた気配に振り返った。

「さ・・・!?」

丁度いつも佐為がたっていたオレの右斜め後ろ。
そこにスーパーの袋を片手に息を切らした塔矢がたっていた。

「と・・・と・・う矢?!」

「すまない。待たせてしまっただろうか?」

「えっいや、今来たばっかだけど・・・。」

驚きすぎて心臓が飛び出すかと言うほどバクバクしてる。
ホントにこいつって突然すぎだ。



鍵を通しながら塔矢はもう1度オレに詫びた。

「すまなかった。僕が時間をきちんと言わなかったばかりに。
それに今日はまだ何も用意してなくて。」

塔矢のもつ袋から用意してないのは夕飯のことだと察した。中からねぎやごぼうが覗いてる。
オレが来るから出先から塔矢が慌てて帰ってきたんだってことも察しがついた。

「いいや、オレも電話で確認とればよかったんだし。」

確認も何も俺はあそこで迷っていただけだった。
もし塔矢が声を掛けてなければ今だってまだ考えこんでいただろう。

「そうだ。お袋がお前と食べろって弁当作ってくれたんだ。けどお前
買い物したのに無駄足になるか?」

オレは持っていた紙袋を示した。袋はまだ生温かくて少し照れくさくなった。

「いい匂いがすると思った。食材は明日使えばいいし、もちろん君のお母さんの料理をご馳
走になるよ。」

「まあお前の口に合うかどうかわかんねえけどな。」





飯を食って、他愛もない話をして、そういうのもなんか悪くないなって思う。
たまには囲碁じゃない話だっていい。

「そうだ。塔矢、今度はさ、お前がオレんちに来る?お袋うるさくってさ。」

「やはり外泊はご両親に心配をかけるだろうか?」

「違う、違う。そういうわけじゃねんだ。」

オレは中学生といえプロだし、そういう意味では両親ともに
一人前と思ってはくれてるようだった。河合さんと無断で外泊をした
時は流石に怒られたが。
オレが不戦敗をしたときだって心配はしていても何も言わなかった。
それに少し感謝してる。


「塔矢はオレと同じ年で1人暮らししてるって言ったら、驚いてさ。今度はうちに誘えって、」

それで塔矢も納得したようだった。

「そういうことだったらお邪魔するけど本当に構わないの?」

「ああ。なんもない所だけどな。」

次に会う約束を交わしたことにオレはなぜか安堵してる。碁会所や研究会じゃない。
またこうやって二人で会うのだ。
もちろん今度はオレの家だから二人ってわけじゃないが。

そこまで考えて俺は無意識のうちに顔を赤くした。
意識しないようにしていてもふとした感情で気づかされてしまう。

オレやっぱり塔矢のこと・・・・?

佐為が以前オレに指摘したこと。
『ヒカルは塔矢くんの事がすきなのでしょう』って。

あれは結構言い当たっていたのかもしれないなって思う。
塔矢に告白されるまで気づかなかっただけで。

「進藤?」

1人で赤面したり考え込んでいたオレを塔矢は見ていたようで目が合って
オレは照れくささに慌てて碁盤を示した。

「腹ごなしに打とうぜ。」

「ああ。」




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更新お待たせしてすみません。
この5話目ランプに陥ってかなりてこずりました。
何度書き直してもイメージどおり運ばずで。
文章の形式も変わったので読みにくいかもですが
そのあたりはテキトーに読み進めてもらえれば
ありがたいです。




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