交差点6

 





何局も打ってオレたちは二人そろってバタンと畳の上に伏した。
時計は日時を越え2時を回っていた。

「進藤徹夜っていうのは無理かもしれないね。」

確かに塔矢の言うとおりで思考がかなり落ちていたし、疲れも
感じていた。でも碁を打てば余計な思考は入ってこなくなる。
オレは塔矢ともっと打ちたかった。


「せっかく時間があるのに。なんか勿体ねえっていうか。」

それに塔矢が笑った。

「そんなに慌てなくてもこれから何局だって打てるだろう。」

「そうだけど・・。」

塔矢は立ち上がると布団を敷きはじめた。

「進藤、君を見てると急いているように見えるんだ。」

「せく・・?」

オレはよくわからなくて塔矢に聞き返した。

「焦ってるっとでもいうかな。前に進もう、進もうとして必死になってる。」

それは自覚があった。

「うん、人間の人生なんて短いもんだろ。足なんか止めてられねえんだ。」

「それは君が不戦敗で棋戦を休んだこととも関係してるのか?」

ぎくっとしてオレは布団を敷き終えた塔矢を見た。

「それは・・・」

関係ないと言えたらよかったが、そういうことは出来なかった。

「神の一手はオレが極めるって言ったろ。」

強い口調でそれだけいうとオレは並べて敷かれた布団にもぐって塔矢に背を向けた。

「おやすみ」




その後、すぐ電気が消され塔矢も布団に入ったようだった。。

「進藤・・・」

暗がりで名を呼ばれてドキッとした。

「なんだよ。」

なるたけそっけなく返事を返してやり過ごそうと思ったが、
塔矢は追い討ちをかけた。

「この間のこと少しは考えてくれたろうか?」

なんと応えたらいいかわからなくてオレは思考をめぐらした。

しばらく沈黙が続いて、オレはもう寝たふりを決め込みたくなった。
けど、気配で塔矢がずっと待ってるってことはわかった。

「塔矢、あのさ・・・。」

息の詰まりそうな沈黙が流れる。

「オレお前のこと、あんま知らねえし・・・だから付き合ってもいいかなって」

自分で何を口走ったのか、何が言いたいのかもわからなかった。
ずるい言い方だ。
まして消え入りそうな声を布団の中から発したのだから塔矢に伝わったかどうか
なんてわからない。

背後で塔矢が起きがった気配がして、オレはますます布団に顔を沈めた。
出来ればこれ以上は聞かねえで欲しいうのが本音だった。

「進藤、付き合ってもいいっていうのは?」

「それは・・・。」

オレはこの時になって『付き合う』って言葉が失言だったんじゃねえかって思った。
よく考えてみたら塔矢から付き合いたいと言われたわけじゃない。
ただ「好きだった。」と告白を受けただけで。

だから慌てて自分の失言を否定した。

「いや、あの・・・付き合ってもいいってのはなし。忘れろよ。」

もう頼むから勘弁して欲しいと思ったのにあろう事か塔矢の手が布団の中に進入して
オレの腕をつかんだ。

「な、なんだよ?」

「進藤、こちらを向いてくれないか?」

つかまれた腕からオレの心音が塔矢に伝わってしまうんじゃねえかって思うほど
心臓が音を立ててる。

「わかったから、腕放せよ。」

オレが寝返って塔矢の方を向くと、腕が解放された。
思った以上に塔矢との距離は近かった。

「僕と付き合ってもいいというのは、恋人としてと言うことなのか?」

改めて言われるとこれ以上にこっ恥ずかしいものはなかった。

「だからそれは忘れてくれって。」

「忘れないよ。今まで君が僕に言ったことは僕は全部覚えてる。
それにそんな大事なことなかったことにしたくない。」

オレは顔から火が噴出しそうなほど赤くなった。
暗闇で塔矢に見えなかったのは幸いだったと思うが。

「あのな、お前よくそんなこっ恥ずかしいこと平気でいえるよな。」

「恥ずかしいこと?」

さっぱりわからないらしい塔矢にオレはどっと疲れたと言うか、なんと言うか。

「大体お前だってこの間、オレに告った後、忘れてくれって言ったじゃねえか。」

オレはもうやけくそ気味だった。
それに塔矢が苦笑した。なんか塔矢のやつが急に余裕を持ったような
気がして癪だった。

「確かに言った。君にあんなことを知られて嫌われてしまうかもしれないと
思ったんだ。」

「だったらオレもだ・・し。おやすみ」

もうこの会話はさっさと終わらせてしまいたいと思ったのに塔矢は許してはくれなかった。

「僕は君を嫌いになったりはしない。
君が好きだ。だからその、改めて言うけれど・・僕と恋人として付き合ってくれないか?」

オレはあまりのことに口をパクパクあけた。

でも言葉に窮して何をどう返事していいかわからなかった。

もう1度塔矢に腕を掴まれる。
オレの腕も震えていたけれど、塔矢の指も微かに震えていた。
お互いそれに耐えられなくなる。

「進藤、」

オレの布団に進入してきた塔矢に心臓が止まってしまうんじゃないかと言うほど
悲鳴を上げた。

塔矢の髪が頬に触れてオレは期待してる自分が恥ずかしくて至近距離の視線を外した。

「キスしてもいい?」

そんなことをこの状況で聞くなんて。

「この間は聞かなかったくせに・・・。」

完敗だと思った。オレはやっぱりこいつのが事が好きだ。
塔矢の顔が近づいて、オレはそれを受け入れるために目を閉じた。


                      
                                              7話


こんな所で次に行きますがHの期待はしないでくださいね(苦笑)
5話目よりはスランプが解消しました。このまま前進したいですね。









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