いつか 2



アキラの生まれ育った故郷青龍城は王国の東の端に位置した。

アキラは馬を走らせながらどうしても一つ気になる事に
行き当たっていた。

それはわれた碁盤がなぜ青龍と朱雀のものであったかということだ。

東(青龍)と南(朱雀)に位置するこの二つの間には
この国の1/4をしめる碁森海と言われる森が広がっていた。
碁森海には いにしえより 囲碁の神様が住んでいたとされる伝説
があり、王国の7つの宝碁盤もその神が創ったものだと語り
継がれてる。

もっともこれはただの言い伝えにすぎぬとアキラは思っている・・・が、
とりわけ碁盤に接する機会が多いアキラは宝碁盤には不思議な力が宿って
いると感じる事があった。

割れた宝碁盤と碁森海との関係が何らかの因果関係になって
いるのではないか・・・バカバカしいとは思いながらもアキラは
それを否定出来ないでいた。






山々を抜けると真っ白に輝く 青龍城が視界にはいった。


美しく静かな湖畔に囲まれた城も南の裾野に広がる碁森海も、古びた城下街の佇みも、アキラの今住む城に比べれば青龍城はあまりにも小さく辺境の城で
はあったがアキラにはなにもかもが美しい故郷であった。

先導する伊角の後を追うと以前の家来たちとすれ違う。
その中に幼少からアキラと一緒に育った芦原と目が合ったが無言のまま
頭を下げる芦原には戸惑いの表情が浮かんでいた。

青龍城の一番東 塔の天に碁盤は保管されていた。
青龍の宝碁盤は深い碧のクリスタル製だ。

ガラスのケースに守られたそれを覗くと
伊角の言うように天元から切り裂かれたような割れ目が盤全体に入っていた。

だが それだけではなかった。
碁盤は以前の輝きを失っていたのだ。
アキラは繭を潜めた。


「こりゃ ひでえな。朱雀の碁盤よりもひでえ割れ方してやがる。」
 
「やはりな。和谷の割れ方を聞い時に青龍の方がひどそうだ
と思ったんだ。」

伊角がガラスケースに手をかけて碁盤からそれを外した。
アキラは天元の裂け目を撫でるように碁盤に手をあてた。

ひんやりとした碁盤、だがその冷たさからも以前は熱い息吹を
感じたはずだった。だが・・・
まるで碁盤そのものが死んでしまったのではないかというように
何も感じない碁盤にアキラは耐えられなくなって触れていた手を
離した。

無言のままのアキラに伊角が戸惑いがちに声をかけた。

「アキラ様 大丈夫ですか。」

だが、アキラの返事はない。
和谷も気になってアキラを覗き込む。


だが、アキラはその時もっと別の場所で 別の声を聞いていた。

城の窓に広がる碁森海・・・天気が悪いわけでもないのに
どんよりよどんだ空気、生ぬるい風。

『アキラ・・・・』

誰かに呼ばれている気がしてアキラは遥か森の奥に視線を凝らした。
懐かしい声、いつかどこかで聞いたことがある声。


アキラはなぜだかそれが碁盤の主のような気がした。

「碁森海へいってくる!!」


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