ランスの冒険 第一話 〜光を求めて〜

第2章 捜索2日目 〜盗賊退治(前編)〜


 翌朝になり、すっきりとした目覚めをむかえたランスは風呂に入った後、JAPAN風の朝飯を食べてご満悦だった。ちなみに夕食は部屋で、朝食は一階にある広間で他の客と一緒に食べるようになっている。

「ああ、うまい。味噌汁を吸うのも久しぶりだ。うむ、グッドだ」

最初、朝の挨拶にしに来たランスを見て不機嫌そうだった奈美も、そのランスの言葉に機嫌を直したようで

「喜んでくれてこちらも用意した甲斐があります」

と笑顔で答える。

(機嫌は良くなったようだな。挨拶のとき、不機嫌そうだったのはやっぱり昨日のことかな。いきなり、強引に迫ったのは失敗だった。じっくりと、攻略することにしよう)

奈美に対する攻略方針を決めつつ、食事を堪能した。

食事を終えて、どうせ、後2,3には確実にとまるのだと考え予約しておく事を考えたランス。

「それじゃ、奈美さん。あと、2,3日ぐらい続けて泊まるから部屋の予約を」

「わかりました。ではいってらっしゃいませ」

ランスは宿屋[あいすくりーむ]をでると晴れた空を見上げつつ

(とりあえず、盗賊の情報を集めるか。あの酒場の親父は後回しにしてまずはパティちゃんとこからいくか)

目的地であるアイテム屋へランスは向かった。

「おう、パティちゃん」

「あ、いらっしゃーーい。買いに来てくれたのね」

「ああ、いや、聞きたいことがあるんだが」

「ねえねえ、これなんかどうですか?」

(全然、話を聞いてねえ)

と思いつつも律儀に返事を返す。

「それはなんだ?」

「うさぎさんのパンティ」

「そんな布切れより、中身のほうがいい」

すげなく答えるランス。

「そうか、残念」

(なんだ、そんなにうさぎさんのパンティを売りたかったのか?)

ちょっと疑問に思いながらランスは

「ところでな、最近、ここらで暴れているっていう盗賊の事、知らないか?」

と聞いた。

「盗賊?恐いですね。でも、私は知りませんよ。そうだ、南に情報屋さんがあるからそこで聞いたらわかるんじゃないかな」

「情報屋?」

「はい、中央公園の南に墓場へ行く道があるんですけどその道の途中にあります。私は利用したことないんですけど最新の[こんぴた]を使って情報を売ってくれるそうですよ」

([こんぴた]? ひょっとして[コンピュータ]の事か?あんまり、[コンピュータ]にはいい思いではないんだがな。便利な道具であるのは確かだが。・・まあ、[コンピュータ]だとしたらとりあえず期待できるかも)

そうランスは思い礼を言うのだった。

「うむ、そうか、ありがとう」

「いえいえ」

(情報屋か、いい事を聞いた早速行ってみよう)

そう思ったランスは早速、聞いた情報屋に向かった。

聞いた道順を進んでいくと情報屋[NET]の前まできた。店の前で子供達がちゃんばらをしている。

(お、前のほうにはLEVEL屋があるじゃないか。まだ、俺様にはレベル神がついてないからあそこでレベルアップしなくちゃな。でも、そろそろ俺様にもレベル神が就いてもおかしくないはずなんだがな)

 余談であるがこの世界にはレベルと呼ばれるものがある。冒険者ならモンスター等の戦いを通して経験値をえて、レベル毎に定まる経験値を得ることでレベルアップという、レベルが1段上昇する作業を行うことができるのである。レベルアップを行うと体力や魔力といった能力がアップするのである。なので当然レベルが高いほど優秀な者となる。このレベルは職業ごとにある。

 そして、一流と呼ばれるものにはレベル神という神が就き、いつでも、どこでも呼び出してレベルアップを行うことが出来るのである。だが、レベル神が就かない一般の場合はLEVEL屋と言うところでレベル神の巫女によりレベルアップを行うことになる。そう、レベルアップは神が行う神聖なる儀式なのでそれを代行するLEVEL屋も聖職業となる。

情報屋[NET]にはいると女の子が端末のキーボードをうっていた。

「あっ、いらっしゃいませ」

とランスの方に声をかけた後、また熱心に作業を始めた。

(おお、このオペレータの女の子もかわいいじゃないか。俺様より絶対年上だが)

ほんとに余談だがまだ、ランスは未成年である。

ちなみにこの世界の[コンピュータ]は生体脳をつかったバイオコンピュターである。

「で、なにかようかな」

女の子がデータを入力するのに合わせてどっくん、どっくんと[コンピュータ]が動いている。

(うげ、いつ見ても気持ち悪いぜ)

[コンピュータ]を見ていたのをなにか誤解したのか女の子はうれしそうに言った。

「あなたもこのマリオットが気に入ったの?」

「マリオット?」

「このコンピュータの名前よ。ねえ、マリオット」

それに答えるように

「がしゃん、がしゃん、ピー、ピー」

と音を立てる[コンピュータ]。

「うげっ」

「ほら、かわいいでしょう?」

(信じられん感性だぜ。美人なのにもったいない。このような女には関わらんほうがいいな)

と珍しくランスは判断し押し黙った。

「コンピュータは万能です。なんでも出来ますよ」

「・・・・・・・・・・・・」
(ふん、[ぷろぐらむ]とかいうのがないと何も出来ない事を俺様は知っているぞ)

そんな事を思っていると女の子は説明モードに入ったのか

「なんせ最新モデルのXX−88Aというモデルなんです。補助記憶のメモリとして猿の脳みそが5つ付属しています。データとしてはかなりの量を扱えるんですよ。すごいでしょう」

ランスの様子なんか気にせずしゃべり続けていた。

「ああ、もっとメモリが欲しいな。今度、お金が入ったら増設メモリ「猿の脳味噌」でも買おうかな。それよりも、スピードを早くするために、数値演算プロセッサ[イルカの脳]にしようかしら」

(な、何がそんなに楽しいのか、わからん)

「お客さん、知ってます。最高のメモリとして人間の子供の脳を売っているって」

(ああ、よーく知ってるぜ。あれは、後味が悪い仕事だったな)

前にかかわった事件を思い出すランス。以前に[コンピュータ]に係わる仕事をしたので[コンピュータ]というものにある程度、精通しているのだ。

「さあ・・(こんなところでアレを思い出すとは)」

「本当は、そんな人道に反した事は出来ないのだけど・・猿の脳より200倍能力があるんだって」

(だから、あんな事件がおきるんよな。あーやめやめ。これ以上考えたら気分が悪くなる)

その間もしゃべり続けていた女の子も満足したのかこの店の常套句を述べた。

「ふふ、当店はこの街始まって以来の情報屋です。最新のコンピュータを使って貴方様の知りたい情報をたちどころに捜し当てます」

「じゃあ、ヒカリって娘を知らないか?」

「さあ、マリオットを使えばわかるかも。料金先払いです。代金は10GOLDです」

「じゃ、調べてくれ」

「本名はヒカリ・ミ・ブラン、ブラン家の次女です・今年16歳でパリス学園に通っていましたが、約2週間前に行方不明になっています。えーと、後はシークレットですね」

(ちっ、俺様がつかんでる情報と同じじゃねえか。はずれだな)

「ふう、最近にこの付近を暴れている盗賊については?」

「ふふーん、それでしたらお客さん、とっておきの情報があるんですけど知りたいですか?」

「おう、知りたいぞ。すぐ話してくれ」

「ここは情報屋です。情報は買ってくださいね」

「少しくらい教えてくれてもいいだろ?」

「ふふ、それが、私の仕事ですから。代金は10GOLDです」

「買う。だから教えろ」

「わかりました。ちょっと待ってくださいね」

「うむ」

「ええーとこの付近の盗賊っと。あ、これですね。えーと、盗賊団の呼称は[かぎりない明日戦闘団]となっていますね、変な名前ですね。それから、ボスは[ライハルト]という名前です。主な仕事は、盗みに誘拐ですね。また、むやみやたらに人を殺していますね、ボスはかわいい娘を見つけたらさらったりしていますね」

「むむ、俺様以外の男がかわいい娘とうはうはしようとは許せん!で、奴らの拠点は?」

「えーと、そこまではわかりませんね。もう少ししたらわかるかもしれませんが」

「ちっ、使えん情報だな。何がとっておきだ。他にどんなのがあるんだ」

ランスはメニューを覗き込む。

「お、この<俺の宿命>てのは何だ?」

「さあ? 買いますか? 代金は10GOLDですよ」

「わかった」

「えーと、貴方の宿命はこの世の乱世を統一して世界を平和にする事です」

「それは、本当か?」

「嘘ですよ。貴方にそんな重大な宿命はありません」

(ううーん。こんな情報私知らないよ。どこで紛れ込んだんだろ)

となやむオペレータ。

「・・・・・・金返せ」

「ははは、」

「これは情報じゃないんだろ・・・金返せ」

剣呑な様子を見せ始めたランスに身の危険を感じてしぶしぶ、オペレータの女の子はお金を返す。

(これ以上は、ここでは収穫できないか)

「じゃあな」

「またのご利用お待ちしてまーす」

ランスは情報屋[NET]をでて次は酒場に向かった。消去法であとは酒場ぐらいしか当てがなかったのだ。

酒場に向かう途中で商店街を通るのだがそこで買い物をしているシィルと会った。

「あっ、ランス様・・こんにちは」

「何をしてるんだ?」

「お買い物です。ほら、おいしそうなフランスパンです」

フランスパンは焼きたてのようで食欲をそそるにおいを漂わせている。

「シィル、お前の仕事は確か、学園内での情報を集める事じゃなかったか?」

「ええとですね。これは、ミンミン先生が買ってきなさいって」

「言い訳は、聞きたくない。それにその格好は、何だ。いつもの格好じゃないか、制服はどうしたんだ?」

シィルはパリス学園の制服ではなく、ランスと共にいるときに着る水着のビキニに極めて近い服、ランスいわく奴隷服を着ていた。

「だって、あの制服着たらかわいくないもん」

「えーい、口答えをするな」

そういってシィルの頭にチョップをかます。

「ひーん、痛いです」

「もういい、さっさと学園に戻れ」

「えーん、わかりました。ランス様」

シィルは早足で学園に戻っていった。

「パリス学園の制服も十分似合ってるんだぞ。まったく」

とポツリとつぶやく。素直に本人の前で言えばいいのにそこがこの男の複雑な性格ゆえか。

「さて、気分を取り直していくか」

ランスは酒場に向かって移動した。

酒場[ぱとらっしゅ]に入ろうとするとタイミングよく扉が開き、酒場の親父が出てきた。

「おう、どうしたんだ」

「おや、昨日の兄さんじゃないか。いや、ちょっと私事で問題がおこってな。どうしようかと思っていたんだ。そうだ、兄さんあんたその雰囲気からみても強い戦士だろ。俺も昔、かじっていたからわかる。それで少し頼みがあるんだが」

「言っておくが俺様は、安くないぜ」

「謝礼は、通行手形でどうだ?大金を積んでも手に入らないもんだぜ」

「少し、ものたりないがまあいいだろう。(へへへ・・・しめしめ通行手形かラッキー!渡りに船だぜ!)で、仕事の内容は?」

「俺の娘パルプテンクスが盗賊に攫われてしまったんだ。救いだして欲しい」

「そのパルプなんとかって娘は美人か?(まあ、攫われるんだからそれなりにだろうが)」

「親の俺が言うのもなんだが美人だ」

「で、その盗賊とやらはどこにいるんだ」

「わからん」

「(どうせ、俺様が調べている盗賊だろ)よし、わかった大船に乗ったつもりでいてくれ。娘は俺様が必ず救い出してやるよ」

(どうせ、貞操は手遅れだろう。娘の受けた心の傷は俺様が慰めてやろう)

勝手に決めつけニヤリと笑うランス。

「ありがとう。頼んだぞ。それとこれは、少ないが費用にしてくれ」

そういって親父は袋を棚から取り出し、ランスに渡す。

そのずっしりとした重みが袋を通してランスの手に伝わる。

「800GOLD入っている。使ってくれ」

「800か。少ないがまあいいか」

ランスはそのセリフとは逆にほくほく顔で金貨を財布に入れた。

「くそ、なんで、盗賊は俺の娘をさらったんだ」

「美人なんだろ、何のために誘拐されたなんてアレしかないじゃないか」

「うっ・・・・娘が不憫じゃ。くそーにっくき盗賊どもめ・・・俺が男親一人で苦心して育てた娘を・・」

涙を滝のように流し始める親父。

(いい加減にしろよ。まったく、暑苦しい親父だぜ)

「とにかく、待ってろ。すぐに連れ戻してやる」

「頼むぞー」

親父の声援を背にランスは酒場から立ち去った。

(まずは、装備を整えるか。確か武器屋は宿屋の向かいにあったな。よし、レッツゴーだ!)

ランスは武器屋に向かった。

     *

ランスは武器屋[PONN]の前まで来た。ショーウィンドウには色々と物騒な武器が飾られている。

(品揃えは良さそうだな。よし、入るか)

「いらっしゃいませ。当店では、危ない武器、無意味な武器など色々品多く取り寄せています。どのような物がご入用ですか?」

(おお、かわいい娘じゃないか)

「ずばり、君だ!」

「やめて下さい。それ以上近づくとこの爆弾を爆発させますよ。私と一緒に逝きますか?」

そう言うと彼女はポケットからポータブル爆弾を取り出した。

(・・おっかない娘だ。自殺願望でもあるのか?)

ランスは内心冷汗をかきつつ、

「冗談だ」

(なんか雰囲気が暗い子だな)

とランスが思っていると、女の子がランスの方をみてにっこりとほほえんだ。

(おお、ちょっと影があるがはかなりいい感じがしてグッドだ。是非、攻略したいな)

と先ほどの感想をあっさりとかえた。

「俺様の名はランス。君の名は?」

「ミリー、ミリー・リンクルっていいます」

「ミリー、いい名だ」

「ありがとうございます」

ランスは当初の目的どおりに周りの武器を見て回る。

(確かに品揃えは豊富だな)

周りの武器を眺めていると

「時々、死にたいなんて思いません? 私たまにそこの武器で一思いになんて、考えたりするんです」
(おい、やっぱり自殺願望か?)

「・・・友達に暗いって、いわれないか?」

「お友達はいません」

(それじゃ、ますます暗くなるぜ)

「迷っておられるようでしたら説明いたしますが?」

「じゃ、頼む」

「では、まずは武器からですね。当店では現在、3種類の武器を販売しています」

「ちょっと待て。周りにはこんなに種類があるのにか?」

「ええ、ほとんどはお父さんが趣味で集めてたりしたものですので売るとうるさいんです」

ちょっと苦笑するミリー。

(おいおい、それじゃ、商売ならんのじゃないか?)

疑問符が浮かぶランス。

「続けますね」

「ああ、続けてくれ」

「まず、[ぷるぷるの剣]です。これはぷるぷる震えて怪物に打撃を与えます。手軽に誰でも扱える剣です。お値段もお求め安い20GOLDです」

「ふむ。珍しい剣だ」

「次が[マルガリータ]は魔力がこもっており、相手には貴方が3人に見えます。これを使えば防御力が上がります。低レベルの金持ちのぼんぼんが良く使います。お値段は100GOLDです」

「ふむ。まあ、使えそうだな」

「最後は[えくすかりば]伝説の聖なる剣の量産品です。この剣は本物同様最高の材質を使用しています。魔力がない事以外は本物並です。本物志向の貴方には見逃せない逸品です。お値段は200GOLDです」

(言外にこれを買えといってるような。それにしても、なんか変わった武器ばかりだな)

「なあ、普通、武器ってロングソードとかアックスとかじゃないのか?」

「当店ではそのような武器を扱うなというのがお父さんの方針なんです」

(なんか、違うような気がするぞ)

「・・・鎧の説明もしてくれ」

「それでは、鎧の説明をしますね。当店では現在、3種類の鎧を販売しています」

「ふむ」

「一つ目はお手ごろな[皮の鎧」です。えーと、お値段は20GOLDとなっています」

「お、鎧はまともそうだな」

「二つ目は[魅力的な鎧]。有名な芸術の先生がデザインされています。あまりにも美しいこの鎧に怪物たちも攻撃するのを忘れるかもしれません。お値段は120GOLDです」

(なわけないだろ、命のやり取りに。とはいえ、外見はジョークの類でも機能面はなかなか良さそうだ)

と感想を持つランス。

「最後は[ごっずアーマー]。特殊な金属で作られた高級な鎧です。当店では現在最高の鎧です。旅のお供にぜひこの鎧をお奨めします。お値段は200GOLDです」

(まあ、鎧はまともそうだな)

「最後に盾の説明です。当店では現在、3種類の盾を販売しています」

「ふむ」

「まず、今、若者に人気のあるかわいい盾。どうです、かわいいでしょ」

「それより肝心な防御効果は?」

「えっ、防御効果ですか?かわいいだけで余りありません。無いよりましですが。お値段は20GOLDです」

「それじゃ、役に立たないな」

あくまでも実用本意なランス。

「えーと、次ぎいきますね。二つ目は狂った建築家が設計した[奇怪な盾]です。マニア向けで一般の人には・・・お値段は80GOLDです」

「じゃ、すすめるなよ」

段々突込みがはげしくなるランス。

「う、でもこれはお父さんが・・・」

「わかった・・いいから、続けてくれ・・」

涙ぐむミリーを見てたまらず話を即すランス。

「はい、えーと最後は[めでうさの盾]強力カガミで出来た優秀な盾です。ただし、いえ・・・なんでもありません・お値段は180GOLDです」

「おい、今言おうとしたのは何だ。すごく気になるぞ」

「え、大丈夫ですよ。何でもありません」

「本当だろうな?」

「本当です」

「なにか、あったらお仕置きするぞ」

「だ、大丈夫です」

「まあ、いいか(もしものときはお仕置き決定。なにもなくてもでっち上げてやろう)」

とりあえず納得する振りをする事にしたランス。

(ぞくっ。なんか鳥肌がたっちゃった。何なの?)

本能か、危険を察知するミリーだが何が原因かはわからないミリー。

「お決まりになりましたか?」

「ああ、あれとそれとこれだ」

「[聖剣えくすかりば]、[ごっずアーマー]に、[めでうさの盾]ですね。わかりました。全部で580GOLDです」

「おう」

「じゃ、用意してきますのでお待ちください」

そういって、ミリーは奥の部屋に消えていった。

手持ちぶたさになったランスは周りを見渡した。

(うーん。変わったのばかりだ。そういえば、ミリーちゃんは危ない武器、無意味な武器等なんていっていたしな・・・。ん、なんだあれは?)

ランスは見渡していて目に付いた品へ近づいた。それは、台座に置かれた頭蓋骨だった。

その頭蓋骨の口に当たる部分には鋭い牙があり、何より、両側面には大きな角が一対生えていて凶悪そうに見え、かつ禍々しい。

(うーん、モンスター何かの頭蓋骨か?)

おもむろにぺしぺしと頭蓋骨をたたいてみるランス。

ピキッ

「へっ」

バカッと真っ二つに分かれる頭蓋骨。そして、中に入っていたのか黒い霧状の塊が武器屋を飛び出していった。

「うぉ、な、なんだ?」

まさか、軽くたたいただけで割れるとは思わず珍しく驚くランス。

「どうかしましたかー」

さきほどのランスの声に反応したミリーが部屋の置くから声をかけてきた。

「いや、なんでもない。大丈夫だ(見なかったことにしよ)」

そういいつつ、頭蓋骨をあわせてみるがくっつかず再び割れた状態に戻る頭蓋骨。

「ちっ、まいったな・・・」

考えあぐねているランスの視界にふと、鎧修繕用の接着剤が目に付いた。

「がはは、俺様、ナーイス。グッドだ」

すばやく、接着剤を手に取り、それを使って頭蓋骨をくっつける。急いでたので継ぎ目から若干、接着剤がはみ出ていたが。

丁度、ランスがごまかす事が出来た時、ミリーが奥の部屋から出てきた。

「お待たせしました」

ミリーが来る気配を察知して振り返りさっと手に持っていた接着剤を後ろ手に隠すランス。

「おう、待たされたぞ」

「あら、その頭蓋骨に興味があるんですか?」

「いや、まあ、目立っていたからな、武器屋にはそぐわんような気がするしな。まさか、兜とか言うんじゃないよな?」

そう会話をしつつ、接着剤をさりげなく元のところに戻す。

「それは、お父さんがそれは悪魔の頭蓋骨だから店の厄除けになるっていって置いてるんです。でも、私はなんか気味悪くて置いておきたくないんですけど」

「厄除けか・・(なんか厄除けより呪いの品のような気がするんだが)」

 実際にランスの感想が正しかった。この頭蓋骨は店の厄除けなんぞではなくミリーを溺愛する父親がミリーに近づく悪い虫を払うための呪いがかかっていたのだ。

だがその呪いはこの頭蓋骨にかけることによって増幅され極めて強力になっており、ミリーに近づく男を短期間に死に至らしめるほどで、その強力な呪力の近くに常にいる影響か、ミリーは自殺願望を抱くほどに影響を与えていたのである。

 ランスの行動を鑑みれば当然、ミリーに近づこうとするであろうから当然この呪いにかかるはずであった。しかし、頭蓋骨が破壊(真っ二つ)されたので呪いは破られており、知らずのうちに自分の命を拾ったことになる。

もうひとつ、余談であるが、呪いは破られた場合、かけた本人にゆく。この場合はミリーの父親に。よって、近日、ミリーは父親の訃報を受けることになる。哀れ。ランスは知らずに一人の少女を救い、男を地獄へ叩き落したのである。

ランスは買った武装をもらい、装備すると

「じゃ、ミリーちゃんまたな」

と挨拶し出てゆく。

「またの、ご来店 心よりお待ちしております」

と背後から聞こえてきたので

(おう、ミリーちゃん今度会ったときはうはうはしてやるぜ)

と思いつつ立ち去るランスだった。

(さて、とりあえず、もう一度、情報屋にいってみるか。おう、そうだ、ついでに途中でシィルにも会っておこう)

ランスはパリス学園に向かうことにした。

いつものようにシィルを呼び出すランス。

「はい、何でしょうか?」

とシィルが呼び出されてから2,3分後で現れた。

     *

「遅いわ。(ぺし)待たせるな」

そういってシィルの頭にチョップをかます。

「ひーん、痛いです」

「呼んだら、一瞬で来い」

「そんなの無理ですよ」

涙目になるシィル。

「まあ、いい。で、ヒカリについて何か分かったか?」

「そうです、ランス様、調べてみた所大変な事がわかりました」

とランスに身を乗り出すようにするシィル。

「早く、話せ」

「この学校では、過去4年間毎年ヒカリさんみたいに行方不明になった生徒が4人くらいいるみたいなんです」

「なんだって?」

「それも、美人でかわいい子ばかりのようです。ほぼ、1年毎に行方不明の事件が起きているようです」

「わかった、よく調べてくれた。でかしたぞシィル」

「えへ!」

めったに褒めないランスに褒められて嬉しそうにするシィル。だが、

「先生があやしいな、魔法を使って先生達の心を調べろ」

との次のランスの言葉にシィルは青くなる。

「でも、心を勝手に覗くのはプライバシーに・・・」

というが話途中でランスにさえぎられる。

「デモもストもないわ。かまわん。やれ」

「でも・・・」

「俺様がかまわんといったら、かまわんのだ。調べておけ。俺様はやらねばならん事があるから行くぞ」

「・・わかりました。ランス様。ランス様もお気をつけて」

ランスは次の目的地である情報屋に向かった。

「おう、また来たぜ」

「あー、いらっしゃい。丁度、貴方が調べていた情報について新しいのが入ったんだけど」

「がはは、ナイス。早速聞かせてくれ」

「代金は200GOLDです」

「わかった(高いな、その代わりに期待できそうだ)」

「情報とはズバリ盗賊のアジトのある場所です。ここです、この場所の洞窟にアジトがあります」

オペレータの女の子はディスプレイに写った地図を見せた。

「なるほど、ここの外れか。結構近いな。その地図は紙にしてくれ」

「この地図にある辺りは、恐ろしいモンスターがうようよしていますから用心していないと危険ですよ」

「俺様の身を心配してくれるのか?」

「いえ、お得意様が減ると困るからよ」

「ちっ、そんなところだと思ったぜ(ちぇ)」

「そうそう、とっておきの情報があるんだけど、聞きたい?」

「聞きたい。聞きたいけど前みたいにいい加減じゃないだろうな?」

「ははは・・・(冷汗)。大丈夫よ、その代わり追加でもう100GOLDね」

「げっ、サービスしてくれよ」

「ダッメッ。どうします、買いますか?」

(うーん、重要な情報か・・・また・後で手に入るかもしんねえしな・・?)

しばらく、熟考するランス。

(まあ、こんな冒険家業。情報を得るのにケチケチしてちゃ大事なもん見逃すかも知れんからな。仕方がないか)

「よし、教えてくれ。でも、ガセだったりしたときは承知しないぜ(そんときは体で贖ってもらうからな)」

「盗賊の砦の入口には結界が張られているの。その結界を破るには、入口で[クシャミ]をすればいいのよ」

「くしゃみだって」

「おかしいでしょ。でも、本当よ。ソースは信頼できるわ」

オペレータの女の子はニコニコしながら言った。

「わかった。ありがとよ」

ランスは盗賊に対する必要な情報を手にいれたので、早速盗賊のアジトへと向かった。

その途中、行きがけの駄賃とばかりにモンスターを蹴散らし、情報にあった盗賊のアジトの入口まできた。

「ふん、結界があるから見張りはいないようだな」

あたりに気を配りながら、様子を調べるランス。

「確か、結界解除は[クシャミ]だったな」

(えーと、ここに落ちている小枝を使うか・・)

小枝を使って鼻をこそばゆくするランス

クシュヨ クシュョ クシュョ

「は・はっくっしょん!!!!!!!!」

その瞬間、結界が解けた。

「おお、情報どおり。これで、洞窟には入れるな」

ランスは洞窟に入っていった。


 <続く>






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