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GS美神 リターン?

 Report File.0083 「お嬢様危険注意報!! その12」
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「特にその後はベスト4までは印象深いことは無かったわ〜。アジラとサンチラががんばってくれたし〜」

 冥子はさらっと流した。

(それは冥子さんの主観でって事なんだよな…)

 短い間ながら六道冥子の人となりが世間一般とは大分ズレがあると感じていた横島は素直に冥子の言葉を信じることはできなかった。

「でも〜、エミちゃんの時は大変だったわ〜」

「へ、へぇー、そんなに大変だったんすか?」

 冥子をして大変とはどんな事態だったのだろうかという疑問がよぎった。どちらかというと相手のエミって人の方が大変だったとしか思えない。そうでないなら冥子とってのみ大変と感じる事だろうか。

「んーとね〜」


     *


「…冗談じゃないワケ」

 冥子との対戦を控えて、戦力分析を行った結果、導き出された答えに小笠原エミは呆然と呟いた。どうあがいても勝てないのだ。今のエミには。

 それほど、六道家の式神12鬼は強力だった。例え、術者たる冥子がボケボケでも。

「となると、奥の手を使うしかないか…」

 しかし、奥の手を行使するには余りにも厳しい状況下にある。それをどうクリアするかが問題であった。衆人環視の下では公に行使するわけにはいかないのだ。なんせ、奥の手とは悪魔なのだから。

 だが、手が無い訳ではない。

 エミにとっての切り札、それは師匠から引き継いだ遺産というか厄介というか封じてある悪魔ベリアルであった。そのまま封印を解き、ベリアルを使役すればその発散させる魔力…それだけでなく漂う雰囲気から魔族であることがほとんど霊能力の無いものにさえ分かってしまうだろう。それでは勝てたとしても悪魔を使役したという事で不合格になってしまうし、この国のオカルト犯罪事情を考えれば逮捕される事は無くとも、永久に資格取得の権利剥奪ぐらいはされるだろう。

 しかし、うまく使えるならばこれ以上ない手となる。

「幸い、結界への細工自体はうまく出来ていたのは確認できている…後はあいつの見た目をどうするかね…」

 もしかしたら必要になるかもしれないと昔のコネを利用して、結界から外に魔力が漏れないようにしてもらっていた。もともと結界自身が外に対して被害を出さないようにする為のものなのでほんの少し手を加えるだけでできた。

「封印解除」

「キキ、エミ、てめぇ、よくもオレを封印しやがったな」

「…仕方ないワケ。GS試験を受けているのにあんたの存在がばれちゃ拙いんだから」

「キィ、殺し屋が表へ出ようってか? 笑わせてくれるぜ」

「黙るワケ」

「キキ、まあ別にいいか。オレの契約ももう直ぐ切れるわけだしな。少しだけ夢を見るってのもいいか」

 契約が切れれば先ほどの封印など紙切れのごとく破る事が出来たのでベリアルは言うほどには気にもしていなかった。

「ふん、何時までもあんたが知っている小娘じゃないわよ」

「キキ、ホウ、オレが封印されている間に未通女じゃなくなったってか? 誰が相手だ。公安のオクムラか? キキ」

「なっ!?」

「キィ、その反応じゃ、未だ処女だな。最期に好い思いさせてやるから楽しみにしてなっ!!」

 キシシシ、と笑うべリアルをエミはねめつけるが効果がなく、それどころか心地よいと笑うに辺り、無駄とわかり辞めた。

「本当は最後まであんたなんかに頼るつもりはなかったけど、事情が変わったわ」

 どうしても勝ちたい奴がいるというエミにベリアルは強い興味を持った。若年とはいえ己を曲がりなりにも使役できるエミの力は生半可なGS等よりも実力があることを認めていたのだから。

そのエミが己の力を頼るしかないと判断した相手に興味が出てきた。

「キィ、最近は余程の事がない限り、オレの出番はなかったのにな」

「相手は六道。規格外が相手なのよ」

「キキキィ、六道、六道かぁ…いいぜ、キキィ」

 ベリアルはニヤニヤと笑い出した。そう、ベリアルは六道と聞いて心が躍ったのだ。六道の血は強力であり、もしその魂を喰う事ができれば今の境遇からすぐさま抜け出せるのだ。

「………」

 エミはベリアルの態度が今までなら不満などで文句を一つ二つつけるのが常だったのに微妙に協力的に見えたことに違和感を感じていた。

(こいつ…何か悪巧みを考えているわね…悪魔なんだから油断は禁物なワケね)

「キキィ! わかっているぜぇ、エミィ! オレを使うにあたって悪魔である事がバレなきゃいいんだな、キィ」

「その通りよ。今その方策を立てているところよ」

 やっぱり何か謀っていそうだとエミは確信した。これほどまでに素直に積極的になったことは数えるほどしかない。

「キキィ、まかしときな、エミ。悪魔は擬態が得意なんだぜ?」

 ベリアルの言う事はもっともであった。悪魔が人に近づき甘い言葉で囁く時、主に天使の姿をとるのだ。人は大概、見た目に囚われてしまう事が多く意志の弱いものはそれで引っかかって契約してしまうのだ。

「…姿を変えるのはいいとして途中でその擬態は解けないでしょうね?」

「キキィ、数ある姿の中で人に知られておらず、使い魔っぽい姿になれば良いだけだからな問題ない。キキィ」

 さらりととんでもない事をエミは聞いたような気がするが、こいつを受け継いだ時の事を考えればそういうこともありえるかと納得する事にした。

「じゃあ、早速その姿になって見せて」

「なら、一時、封を解け、キキィ。一秒もいらないキィ」

「………」

 相手が悪魔ゆえに油断できないとエミは睨み身構えた。

「心配要らないキィ、別に襲ったりしない、キィ。信用できないならこの試験が終わるまでは襲わないと契約してもいいキィ」
 その言葉でようやくエミはベリアルが本気でいっていると理解した。悪魔にとっても契約というのは重要だ。結べばその内容が己の行動を縛ることになる。反故にするようなことがあれば大きく力を減衰させ、下手をすれば存在そのものが消滅しかねない結果を招くことになるのだ。

 それだけならば悪魔には不利益でしかない事になるが、当然ながら利益もあるのだ。

 労働の結果に報酬があるように悪魔にも契約により得るものがある。契約者の目的に沿った対価である。大抵は悪魔との契約といえば魂とイメージがあるがそれは仕方がない。

 本来なら、ちょっとした使役や、秘薬の原料の提供などであれば、新鮮な生肉や血で済んだりする。

 だが、現代には悪魔に対する正しい知識をもつ魔法使いや魔術師などはほぼ存在しない為、悪魔と契約しようなどと考えるのは大概はとことんまで追い詰められた者なのだ。そんな者達が望むものは通常では実現不可能なものだ。そうなってくると対価も大きくなり、必然的にもっとも価値のある魂が代償となるのだ。

 そんな訳である意味、悪魔にとって現代は非常に魅力的な市場であった。呼び出す者は正しい知識がないので大抵、悪魔の甘言にのせられて、かもられ、魂を差し出す事になり、ぼろい儲けとなるのだ。

 これが魔法使いや魔術師相手では魂を手に入れる事などそう滅多にできない。それどころか、しばし、悪魔の方が涙をのむ結果になるのだ。いわば、値切り倒すおばちゃん達だ。

 生肉などは通常、悪魔というよりは魔物といっていいオークやゴブリン等の最下級の者達へのもので、ちょっとした見張り番などを頼むのに使われた。最下級といっても、人間から見れば熟練の戦士と互角に戦える者達であるので侮れない。

 血などはその中に生命力とでもいうものが内包されており僅かながら、魔力に変換できるのだ。まあ、お金でいうと小銭といったところだ。

 魂ともなると魔力に変換できる大きさもさることながら、僅かながら存在力…地力を上昇させる事が出来る為、力こそ正義といった弱肉強食にいきる下級悪魔達は力を得る為にこぞって魂を得ようと躍起になる。が、ある程度、力のある悪魔であれば魂を躍起に集めるような事はなくなり、量よりも質を求めるようになる。当然、質がいいと地力を上昇させる効果も高いのである。同じ時間と手間を考えるなら効率よくである。

 質の高い魂とはなにかといえば、聖者を誘惑する悪魔という話があるように徳のある、もしくは清らかな魂を思い浮かべるだろうが、それだけだと半分しか正解ではない。もう半分は? というと悪人の魂である。通常、人というのは正も負も等しくもっている。徳のある、もしくは清らかな魂とは正に偏るという事であり、悪人の魂とは負に偏っているということでどちらでもいいから偏っていればそれだけ純度が増しているということになる。ただ、徳のある、もしくは清らかな魂というのは中々手に入れることは出来ず、手間が係るため、もっぱら悪人の魂を手に入れようとする。それもただ手に入れるのではなく色々と甘言を尽くして悪の限りをつくさせて純度を高めてやるのである。

 なら、下級悪魔も同じようにするかというとある程度はする、というかできない。力不足というのもあるが悪人としての純度が高まるという事は狡猾になるということでもあり、しばし、出し抜かれて今までの労力が水の泡となることがあるため、やらないというか出来ない。

 そんなわけで悪魔にとっては契約とは慎重にやるものだ。その悪魔から契約を言い出すという事は無償で行うということであり、無償で行うということは自身の力の低下を招く恐れがあるのだ。

 そんなことを申し出たべリアルにエミはその件については信用することにした。

 ただし、契約はしっかりと結んでからであったが。不用意に隙を見せるわけにはいかない。相手は常に出し抜こうとする存在なのだ。



「さてと、これでベリアルを活用する問題については解決したわね」

 姿を変えたベリアルをちらりとエミは見つめた。そこには白い豹が優雅に寝そべり、エミを見つめていた。

「ふむ、我が主殿は他に手立てがあるようだな。頼もしいことだ」

 姿だけでなく口調や身に纏っていた雰囲気まで変わっており、エミはこいつ本当に悪魔か?と疑問をもつくらいだった。

「何だかさっきから凄く違和感感じるわね。いつも通りにでいいワケ」

「いつも通りとな? 主殿、普段どおりなのだがね?」

「はぁ?」

「正確にいうならば、この姿の場合はというべきか。主殿が良く知るあの姿も、今の姿もその正確もベリアルという悪魔の一側面なのだ」

「そ、そう」

「ふふ、とはいえこんな事が出来るような者はそうは居ないがね」

「後はベリアル、おたくがあの式神達を押えてくれればいいわ。あとはあの娘、冥子と私とで決着をつける」

「力の解放を許可してくれるならばね(全く不便なものだ。なぜ、こんな内容で契約を承諾したのか…)」

 力の行使の許可は最初の契約者から連なる不文律のきまりだった。ベリアルにとっては自由に出来ない原因であり、契約者にとっては安全弁であった。

「ある程度はね(やりすぎは困るワケ)」

 そう一番のネックはベリアルの力の解放の加減であった。少なくともベリアルは強力な力を持つ悪魔であり、エミはあの冥子の式神達12体分よりも強いと思っている。

 その為、弱すぎれば式神達に押し切られ、自分が決着をつける前にこちらがやられる。逆に強すぎればこのベリアルのこと、こちらの指示を無視して冥子に対して攻撃し、その命を、魂を奪おうとするだろう。

 そうなればエミ自身がまずい立場になる。そうなれば六道家からの報復が待っているはずだから。

「ふふ、久しぶりに大暴れが出来そうで楽しみだよ」

(頭痛い…資格とっているんだし、ベリアルに頼らずにやって負けるって選択肢もありなんだけど…)

 GSとしてのスタートは厳しくなるかもしれないが安全といえば安全なのだ。

 しかし、エミはその選択をするつもりは無かった。

(チャンスがあるならそれにかけて掴み取る。今までの私の人生のように…)

 エミはぐっと拳を握り締め、決意を新たにした。


     *


「ってことがあったの〜」

「ちょ、ちょっと、待ってください。何で冥子さんがえーとエミって人の内情を知っているんですか!?」

「え〜とぉ、試合の後に〜エミちゃんの使い魔がなんで〜悪魔だったの〜?って聞いたら、快く教えてくれたわ〜」

 色々と話を聞く限り、そう素直に話してくれるようには思えないのだが冥子がいうのだから話したのだろう。快くという点は限りなく怪しいが。

「そ、それで試合の方は?」

 当然目の前に冥子がいるのだから無事だったのだろうがさっきの話からするとエミの使い魔がかなり強力であったのは間違いなくどう勝利したのか気になる横島は聞いた。

「え〜とぉ、簡単に言うとエミちゃんのが自滅よ〜」

「自滅っすか?」

「そうなのよ〜。バサラちゃん達とエミちゃんの使い魔ちゃんが勝負している時に〜、エミちゃんの霊体撃滅波っていうのを私に撃とうとしたみたいなんだけど〜、運悪くエミちゃんの使い魔ちゃんが〜、私とエミちゃんの間に入っちゃって〜背後からまともに喰らっちゃってポンって消えちゃったの〜。それでぇ、相手の居なくなったバサラちゃん達がエミちゃんにじゃれかかって終わっちゃったの〜」

「そ、そうっすか…」

 式神達にたかられて死に目に会った横島は腰が引け、どうやら予想通りの目に遭ってしまったエミに同情を禁じえなかった。と同時に大変だったと言っていたのに結果をほぼ一言で片付けてしまった冥子に何処が大変だったんすか!?と突っ込みたかったが、式神達の反応が怖くて出来なかった。

 この時、横島が記憶を失っていない状態だったなら、話の前振りが長くシリアスであったのに試合は一言で終わるという、なんとなく目立てない所は弟子も弟子なら師も師なんだなぁと別の感想をもっただろう。

「うん、そうなの〜。バサラちゃん達がじゃれつき過ぎてエミちゃんがぴくぴくして気絶しちゃったもの〜」

「大変ってそれかーーっ!!」

 ぴくぴくってそれ絶対、気絶じゃないと横島は思い叫んでいた。突っ込まずには居れなかったのだ。

「その後、エミちゃん、暫くの間、私を見るなり顔引きつったりしてたんだけどなぜかしら〜?」

 おっとりと首をかしげて言う冥子の天然ぶりに横島は戦慄したのだった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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