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GS美神 リターン?
Report File.0059 「海から来た者 その12」
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「美神さん、時間です」
「…そう」
ナミコが令子の方を揺らす事で令子は瞑想を解き立ち上がった。昔にもやって相性が良くないなと放り出した方法だったので、期待したほどには霊力は回復しなかったがやらないよりはマシだった。
(でも、これってうまく使いこなせるようになれば、随分、除霊が楽になるわね。経費も浮くし)
令子は今後のためにもこの方法をモノにしようと考えた。無意識に追いついてくる横島の事を考えたからかもしれない。
<さあ、試合の再開です。さあどんな対策を見せてくれるんでしょうか? 厄珍さん>
<ボウズ達の…>
<みぃ…〜…>
ガジッ、ガジッ!
<あ…ダ…です……リ…ち…ん!>
突然、厄珍の解説が途切れ、その後、声が途切れ途切れながらもグリンとキヌの声が聞こえた。
はは、まさかなと冷や汗を垂らしながら、解説席を見ると厄珍の使っていたマイクにかじりつくグリンとそれを止めようとしているキヌ達の姿が見えた。時折、折角の出番がとか厄珍が叫んでいるのが聞こえたがどうしようもなかった。
ギギっと令子の方を向くと令子は眉を吊り上げていた。令子は横島と視線が合うと青筋を浮かべながらニッコリと一言いった。
「あれ、給料天引きね!」
「ド畜生ーーっ!!」
それを聞いた瞬間、横島は言い知れぬ怒りをウニボールにぶつけサービスした。横目ではマイクの残骸をくわえたグリンを胸に抱いてキヌが横島に謝っていた。
横島の怒りに応えてかウニボールは勢い良く令子の方へ向かった。
「むっ! 結構のびがある!?」
これまでの中でも一番、鋭いサービスだがスパイクに比べればどうって事はないと霊力を高めてレシーブした。
「はいっ! 美神さんっ!」
ナミコが絶妙のトスを上げた。
「いただきっ!」
これまでの中でも3本には入るだろう強烈なスパイクを放った。
『いまだべっ!』
カクはえらを震わせて霊波を放出した。
「なっ!?」
霊波で操ろうとした令子はできない事に動揺した。打ち下ろされたウニボールは待ち構えていた横島が素早くレシーブをした。それをカクはトスで短くあげ、横島は素早くスパイクした。令子の動揺が収まらないのを狙ってである。
「ちょあっ!」
ズバシュッ!!
ピピィーーーッ!
カク・横島組の得点を告げる笛が鳴った。
「はっ、はっ、はっ、美神さんの秘策! 破れたりっ!!」
ビシッとVサインを出して横島は勝ち誇るように言い放った。
「くっ」
令子は横島が見破っていたという予想外の出来事に悔しさを感じた。
(しまった…こいつは普通じゃないんだった)
彼には霊波の応用をまだ教えていなかったので、見破る事は無いだろうと高を括っていたのだ。思えば、栄光の手とかサイキック・ソーサーを自力で使えるようにした奴なのである。霊波によるコントロールを思いつくかもしれない可能性はあったのだ。しかし、悔やんでばかりではいられない。
二度同じ過ちを繰り返さなければいいのだと令子は気持ちを切り替えた。
「くすっ、見破ったからって、それで勝てると思っているの? 甘いわよ」
令子は横島にプレッシャーを掛けた。調子に乗れば厄介な相手であることは、これまでの事でも熟知している。ならば、萎縮させて少しでも調子を下げる事に努めた。いわゆる心理戦だ。
「ぬぉ!」
令子の作戦は見事に的中し、威圧感に弱い横島はひるんだ。だが…
「いいぞーー! 忠夫くーーん! 勝ったらご褒美あげるねーー!」
「私もご褒美あげるわよーーっ!」
という観客からの声に令子の作戦は粉砕された。その声に外の観客もどよめいた。
「な、何ですとーーーっ!!」
声のする方を振り向くと忍や澪、沙希たちが手を振ったり、ばちっとウィンクしたりしていた。
「い、いいんですか!?」
忍達の行動に朝美達は目を丸くした。
「今更、キスの一つや二つで大騒ぎするような歳じゃないもの」
法子が麻美たちのほうに振り向いてクスっと笑った。
「「「お、大人の女だ」」」
それが朝美達には女の顔に見えて今の自分たちには出せない魅力だと思った。
「でも、安売りするつもりはないけどね」
暗に横島は買いだからと忍は言っているのだが、鏡子達にその意が汲み取れたかはわからない。
「よし! 私もやーろおっと」
「えっ!? 翔子ぉ?」
「私たち女子高なんだから、そうそう男の子となんて知合えないわよ」
実際はそんな事はない。翔子達のようなお嬢の学校であれば、歩いていればその辺の若い男から声がかかってくるのだ。ただ、翔子の場合はそう言った男はなんか目がギラギラしているようで好きにはなれなかった。横島も似たようなもののはずだが女の子を無碍に傷つけるような奴じゃないと感じていた。
「そうそう、横島君と仲良くしておけば、芋づる式に横島君の友達の男の子と知合えるかもよ?」
にまぁと澪が笑い、鏡子達に言った。実に現実的なお言葉である。ああいう男の子の友達なら、そうそう悪い奴らではないだろうと。
「はは、来た。来た来た来た、来たーーっ! 好機到来、前代未聞、人生最良、生涯最後のラッキイイイイイッ!!」
何だかこれを始めた時にも似たような事を言っていたように思えるが、しかも運用を間違えてるような気もするが横島は叫び、目をらんらんと輝かせた。
「あ、あの女ら〜〜〜」
それとは逆に折角、うまくいきかけたのに忍達にぶち壊された令子が頭を俯かせ肩をぶるぶると震わせていた。
その様子に千恵はクスっと笑った。いわばこれは彼女達の令子に対するちょっとした意趣返しでもあった。なぜなら。令子と関わった事件で彼女達はえらい損害を被り、被害にあっていたお金は令子が密かに回収していた事が判明した。気が付いた時には後の祭りである。そんなわけでボーナス査定に響いてしまったのである。
「横島く〜ん、がんばんなさいよ〜! お礼もしたいし〜!」
そんな令子に追い討ちを掛ける様に翔子が横島に声を掛け、投げキッスまでかました。
「おおっ!! うぉーーーーーーっ! やるっ! やってやるぞーーっ!!」
翔子や忍達の応援が横島を後押ししたのか、それを切っ掛に横島はピキーンと目を輝かせた。その様は霊能がある者にはオーラを纏いつかせて輝いて見えた。横島の周囲に風が渦巻き、足元の砂が巻き上がった。
『すごいだべ、横島どんっ!!』
『おおっ!!』
『まぶしい』
”よ、横島さんが光ってる!?”
「みぃ〜〜っ!!」
「ふふ、すばらしいですわ」
それぞれ、霊能を備えたものは輝ける横島に驚いた。
「………」
「れ、令子さ…ん?」
いや、約2名ほどは違った。
「…つぶす」
令子はポツリと呟いたが一番近くにいたナミコにも何かを言った事はわかったが聞き取れなかった。
「えっ!? はうっ!?」
令子から滲み始めた怒気にナミコは思わず引いた。
「ぶっつぶすっ!!!」
ゴゴゴーーッと令子からも横島のように目に見える輝くオーラは出はなく目に見えないものの何かが吹き出て、足元の砂が巻き上がった。。
「ひぃ!」
ナミコは令子の様子に自分に向けられたものでは無いにも関わらず、悲鳴をあげた。
<あう、試合は8対3と、い、依然、ナミコ・令子組が有利です!>
<りょ、両方共にぃ、た、大変なぁ気合の入りようですぅーー!!>
一般人でもオーラのようなものは見えなくとも起きている現象は見えており、今二人がただならぬ状態にあることは一目でわかった。
<ふう、凄まじいあるな。令子ちゃんはわかるとしても、ボウズも令子ちゃんに匹敵するか超えているような感じあるよ>
先ほど齧られたマイクとは違うものを用意してもらったのを使って解説し始めたが、厄珍でも令子たちの様に驚きを禁じえなかった。
「ふふふ、いくぜ! 美神さん。俺の桃色人生の礎になってくれーーっ!」
普段なら令子に対して絶対言えないだろう事を暴走中の横島は口にしてキェーー!と奇声を発して、サービスを行った。
「いい度胸じゃないその言葉、後悔させてあげるわ!」
ギタンギタンにして土下座で泣きながら平謝りするまで追い詰めてやると令子は心の中で誓った。横島の放ったサービスは横島の霊力が急上昇した事に合わせてかスピードがえらく速かった。
ギュウンと唸りをあげて、飛来するウニボールに令子は慌てる事無くレシーブをする為にステップを踏む。令子もまた怒りによって霊力が上昇し、それに伴って身体能力も向上している為、難なく跳んでくるウニボールのスピードに対応できたのだ。
「!」
だが、令子がレシーブしようとした時、ウニボールの軌道が変化した。
「くっ!」
慌てて構えを修正しようとしたが間に合わなず、ウニボールは砂浜を叩いた。
ピピィーーーッ!
<ああっと! カク・横島組、またもや得点です! 得点は8対4となりましたが、流れはカク・横島組に傾いて来ているのか!?>
<さっきのタイムでボウズは何かを掴んだのかもしれないね(…令子ちゃんを見れば一目瞭然あるね)>
解説しながらチラッと厄珍は令子の方を見やった。そこには肩をフルフルと震わせて怒りを抑えている令子の様子を窺えた。
<依然、カク・横島組は崖っぷちといえますが、先は見えなくなってきました!!>
<横島選手はぁ、先ほどの得点を決めた事にぃガッツポーズですぅ。余程嬉しかったのでしょうかぁ?>
横島の方は嬉しいからか、飛び跳ねガッツポーズで走り回るというパフォーマンスを見せていた。令子とは正反対である。
令子は怒り心頭で外野の勝手な解説なんて聞いちゃいなかった。
(横島の奴…生意気に私と同じ方法をしてくるとわっ!)
ぐぐっと拳を握り、胸の辺りまであげてた。悔しいことに先ほどのウニボールの操作から、自分よりも強力であることがわかった。
なぜなら令子にはサービスから操作する事などできないのだ。こっちは2度触って何とかウニボールを操作できるだけの霊波をまとわせることができるのに、よりにもよって横島は1度でそれができるのだ。
(これというのも何もかも、あの女共のせいだ!)
キッ、と令子は忍たちを睨み付けるものの彼女たちは気づかなかった。いや、二人だけ気づいたようだが、令子の睨み等、どこ吹く風とさらりと受け流していた。
(とにかく、こっちも対抗策を立てなくちゃ、このままだと追いつかれてしまうわ…))
とはいえ、カクのような真似を今の姿のナミコができるはずもなく、かといって本来の姿である人魚形態に戻ってもらっても、機動力という点で無理があると彼らのような対策はとれず、別の方法を考えねばならなかった。
令子の目に真珠が羽根を生やして遠ざかっていくのが目に映り、目眩がした。
*
<ああっ、とうとう追いつきぃ、追い越しましたぁ! すごいですぅ!!>
<8対9! サドンデスは2点を勝ち越しですから、次にカク・横島組が点を取れば決着です!>
<ボウズはすごいあるね。時を追う毎に身体能力が向上しているあるよ。さっきの決めのスパイクなんて8メートルは跳んでたあるね。無茶苦茶あるよ>
<無茶苦茶ですかぁ?>
言われてみれば確かにそうである。だが、花音達が外の観衆達に比べて、それ程驚かなかったのはやはり、前に幽体離脱による宇宙飛行を行った横島たちだからという事があった。それは翔子達も似たような理由で驚いては居ない。沙希達に至っては自分達もできることであったからだ。
<そうあるよ。幾ら、霊能で身体能力を強化できるといっても限度があるね! 霊能の一流で知られている令子ちゃんでさえ5メートルがせいぜいね。でも、それだって、一般の人間から見ればすごい事あるよ>
<確かにそうですね。2メートル跳べば十分驚きだと思いますから>
厄珍に指摘されて始めて確かにそうだと安奈は思い、令子や横島に僅かながらしか会っていなかったが毒されていたことに気が付いた。
<そうよ! でその令子ちゃんより、1.5倍強よ。もう異常あるね! 本当に人間あるかと疑いたくなるあるよ!>
厄珍も商売柄でピンからキリまでと数々の霊能者を見てきたが横島ほどの身体能力を発揮するものは知らなかった。
<でもぉ、横島さんはぁ幽体離脱でぇ、宇宙にまで行った人ですからぁ>
<おおっ! あれはあのボウズだったあるか!? 無謀な事する馬鹿が居た者だと思っていたあるが>
厄珍は花音の発言にほぅと感心なのか呆れたのか分からない視線で横島を見やった。サングラス越しなので外の人間には分からなかった。
(あのボウズなら確かにあの無謀な幽体離脱ができたとしても不思議ではないかもしれないね)
横島自身はぶれていて正確にはテレビに映らなかった為、厄珍は、いや、その場に居た観衆は気づいていなかった。美神と聞いてああ、確か番組に出ていたなとは思っても、あの勇退離脱したのが横島だということにまでは繋がらなかった。
<無謀ですかぁ!?><無謀!?>
厄珍の言葉に花音達は反応し、その時の事を思い浮かべた。
ピキーン、ピキーン
静かに心電図の音が響く。
「生命反応が弱まっています!」
横島の顔が見る見るうちに土気色になっていく…
((……確かにそうかも))
その時の事を思い出して二人は冷や汗を流した。横島は助平な心によって生命力を取り戻し、無事帰還したのだ。普通の人間ならお亡くなりになっていてもおかしくない事に気が付いた。
(ある意味、しぶとさは折り紙つきか…)
(ちょっとぉ、助平な所はあるけど顔は言うほど悪くは無いしぃ)
((将来GSになるっていうから、お買い得!?))
横島の知らぬ所でまたもや横島株は上昇した。
一方、令子に対する問題発言っぽいのが行われたのであるが、逆に追い込まれた令子は心に余裕を持てず、彼らのやり取りを聴いちゃいなかった。
(はっ、はははは……、流石にこれはまずい! まずすぎるわっ!)
令子は横島が波に乗ると、ここまで厄介になるとは予想だにしていなかった。いや、それなりには予想していたがその上を行ったというべきだろう。お陰で、今この状況になるまでにも具体的な手を打つことができずに来てしまった。
ピ、ピィ!
無常にもサービスを行うよう笛が鳴った。
(できる限り、この手は使いたくなかったけど…)
令子は口元を引き締め、覚悟を決めた。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。