--------------------------------------------------------------------------------
GS美神 リターン?

 Report File.0050 「海から来た者 その3」
--------------------------------------------------------------------------------


「うーーん! はっ! 氷雅さんがっ!!」

 横島は気がつくとがばっ!と起き上がった。

「あれっ!? ここはどこ? 氷雅さんは? 女の子は?」

「あら? 気がついて第一声が私の名前なんてうれしいこと言ってくれますわね」

 おほほほ、と笑いながら起き上がった横島の背後から氷雅が話しかけた。

「やっぱり、あれは氷雅さんだったのか…って女の子は無事かっ!?」

 横島はがしっと氷雅の両肩をつかみガクガク揺らした。

「あら、積極的」

「氷雅さん、あまりふざけるのは良くないわよ。大丈夫よ、横島君、あなたが助けた女の子三人とも大事にならず無事よ。一番危なかった子もさっき気がついたわ」

「あ、あなた…ぶはっ! ぢべさん!?」

 横島は千恵のセクシーな水着に若さ爆発で慌てて鼻を押さえた。しかし、指の間からだらだらと鼻血がたれていた。それでも千恵の水着姿に目は釘付けだった。千恵はいわゆるクロスワンピースと言われるものを着ており、胸の谷間が強調されていた。

スッ

 妖岩が横島にティッシュを差し出した。

「あ、すまん」

 横島が受け取ると妖岩は恐縮するようにすすっと後ろに下がった。横島の反応に引くものがあったが千恵は自分のプロポーションでそうなったのだから悪い気はしなかった。極端な反応だけど、それだけ魅力的に見えているということだからだ。ある意味、横島の反応は初心なのである。

「横島君も大丈夫そうね。氷雅さんに聞いたけどおぼれた女の子たち悪霊に襲われていたんだって?」

「そうなんです。悲鳴がしたから夢中で…?」

(はて? 俺はどうやって女の子達の所へたどり着いたんだ?)

 横島は疑問にぶち当たり首をかしげた。あのマッチョな男から逃げ出すことが出来ると夢中で行動したので自分が何をやったのか覚えていない。

「どうかしたの?」

「いえ、色々考えさせられることがあったもので…」

「落ち着いたようですわね? なら女の子の様子をみる?」

 氷雅が横島に声を掛けてきた。先程まで横島は心の余裕が無かったと、氷雅の水着姿を見ていなかったなとすかさず見た。

(あれ、意外におとなしいワンピースだ)

 スクール水着のように布面積が大きく肌の露出が少なかった。もっとも出るところは出てるのでそれなりにぐっと来るものがある。

「お願いするっス」

 なんとなく氷雅に苦手意識を持っている横島は答えるときも緊張をはらみ警戒してしまう。そんな様子を見て取ってクスリと氷雅はわらった。その笑みに横島はびくっと反応する。

「じゃ、ついて来て」

「は、ぶはっ!!」

 ほとんど不意打ちに近かっただろう。氷雅がくるりと背を向け、横島がその後に続こうとした時に氷雅の後姿を間近でまともに見たのだ。氷雅は確かに前面は大人しかったが背面は逆だった。ほとんど露出していたのだ。所謂Tバックモノキニワンピースというものであった。

(し…尻が…背中が…ほとんど丸見え…)

 またも若さ爆発で鼻血がでる。ほとんど不意打ちだったので、慌てて鼻を押さえても少し間に合わず、先ほどより派手に鼻血を噴いた。思わず横島は膝をついてしまった。

 そんな様子にしてやったりと氷雅はニヤリと笑った。

スッ

「か、重ね重ねすまない…」

 またもや氷雅の弟である妖岩がティッシュを差し出した。横島の言葉にふるふると首を振り、姉の不始末だとばかりにぺこぺこした。

 千恵も氷雅と横島の様子に呆れていた。氷雅には狙ってやったのだろう事に、横島には普段からスケベっぽさを丸出しにしておきながら、こういう時の反応は初心過ぎるという範疇をも超えた反応をすることにだ。

(もう少し、女に対して耐性を付けたほうがいいわね。それにしても体つきは結構いいじゃない。でなければ前の時にあんな動きはできないか)

 磨けば光る原石でも光るのはまだ遠そうだ。まあ、誰も磨いていないようだし、自力で磨くのはへたくそのようだし。梃入れしてみようかしらと考えた。

「あらっ?」

 千恵が少し考えている間に皆は救助した女の子たちのところへ向かったようだ。

(まずは土台作りかな…)

 レッスンを付けてみるかと少し考えながら千恵は後を追いはじめた。

「どこへ行くんスか?」

 横島は引き締まった尻に惹かれるのかチラチラと見る。挙動不審なこと、この上ない。

「ホテルの医務室ですわ。それにしても、横島さまは忍法まで使えるとは知りませんでした」

 氷雅は気づいているのか、いないのか態度を変えずいた。今更、視線を気にするぐらいなら、大胆な水着など着ないと堂々と歩いている。

「忍法?」

 はて? 何の事だと横島は心当たりが無く首を傾げた。考えるのに夢中なのか氷雅が横島を様付けしている事に気付かなかった。

「ほら、救助する為に現場まで忍法、水上走りをしていたではありませんか」

「水上走り? 俺が!? 水の上を走った!?」

 氷雅の言葉に先ほどの疑問が解消できたがどうやってやったのか分からなかった。頻りにどうやったか思い出そうとするが、無意識にやった事なのでそんなの分かるわけが無かった

「中々、見事でした。ここの中ですわ」

「ここのホテル?」

「そう、バイト先の慰安旅行でここのホテルに泊まっているのですわ。ついでに弟や若…居候先の息子さんとその友達も一緒に連れてきましたの」

 そういって見上げたホテルは横島たちが雇われたホテルであった。

「(弟ってさっきの変わった子だよな?)俺はこのホテルの依頼で来たんだ」

 氷雅の言葉に少し疑問があったものの会話を続ける事にした。実は横島の後ろには妖岩が着いて来ているのだが気配がしないし存在感が薄いため気付いていなかった。

「へえ、偶然ですわね」

 そう言って医務室へ向かう。海に面したリゾートホテルなだけに水着姿でホテル内をうろついている者がチラホラと居た。

(いいよな…俺も早く遊びたい…)

 本来の依頼された仕事は夜が本番という事で師である令子はそれまでリゾート気分を満喫するようで、キヌも終始横島に憑いている必要もなく修行の邪魔になるからと横島とは別行動である。今頃は好奇心を刺激されて色々うろついていたりするのだろう。

「さあ、ここですわ」

ガチャ

「お邪魔します」

 氷雅に続いて横島も入っていく。

「あっ! 君達は!?」「あ、あなたは!?」「「横島さん!?」」

 そこに居た人物たちも横島も互いを見て驚いた。そこには前に依頼で知り合った女子高生たちが3人居た。

「あら、知り合い?」

 またまた偶然ねと氷雅は笑った。

「そうか、俺が助けたのは翔子さん達だったのか」

 うーん、意外に世間は狭いなあと横島は思った。そこには以前にチカンの霊がでるという事で行った度粉園女学院で知合った深山翔子、片倉朝美、川田鏡子の3人が居た。その内の朝美、鏡子はベッドに寝かされていた。

「助けてくれたのが横島君だったんだ…」「そう横島さんが命の恩人」「そうなんだ…」

 十人十色、それぞれ色んな反応を見せた。

「でも3人とも無事でよかったよ」

 横島は無事な事を確認できてホッとした特に3人目はかなり危ない状態だと思っていただけに心が軽くなった。ぎりぎりで助からなかったというのが一番心に堪えるのだ。ましてや知り合いだったとなると尚更である。

「「「助けてくれて、ありがとう」」」

 3人は心を込めて御礼を言った。こんな形で好意を向けられた事の無い横島は照れて頭を下げて掻いた。

「その内、ちゃんとお礼するね」「そうね」「するわ」

 口々にそう言われたが

「いや、別にそんなつもりで助けに行ったわけじゃ…」

 横島は恐縮そうに言った。

「ふっ、そうだったかしら…確か…『うぉーー、絹が裂けるような悲鳴。あれは美人に違いなーい! 待っててくださーーい! 漢、横島、ただいままいりまーーーす!!』って叫んで下心満載で助けに行った気がしたんですが」

 氷雅は横島の声音を器用に真似て言って見せた。

「うっ! 何でそんな台詞を!」

 横島は氷雅の言葉に引いた。悲鳴のするほうへ夢中になって向かったが確かそんな事を言った覚えがあった。台詞も自分なら言いそうだし、多分言っている事は本当だろう。自分ではなく他人から聞いた自分の言動に少し凹んでしまった。

「へえ〜」「ふ〜ん」「そうなんだ…」

 3者3様に何かを感じ、何かを考えるそぶりを見せた。別段3人は横島を軽蔑したわけではない。横島については最初の出会いの時に十分以上にどういう奴かわかっていたからだ。あの時だって殆ど好き放題に触られたり見られたりしちゃっているが、その上でそれなりに好感を覚えていたのだ。今更その言動ごとき大した事じゃなかった。

 それに最初の時はセクハラされちゃったりしたが危ない時に助けてもらったし、今回もそうだった。危ない時に駆けつけてくるところなどは格好などを気にしなければ殆ど白馬の王子様状態である。今回の事で、また3人の中の横島株は急上昇する事になった。いつ暴落するかは知れたものではない株ではある。

「いや、その」

「はいはい。氷雅さんもからかうのは、その辺にしときなさい」

 困り果てた横島に先ほどみんなが騒いだ時に遅れて入ってきた千恵が助け舟を出した。

「あら、私は別にからかってませんわよ?」

 氷雅はしれっと答えた。

 横島はとりあえずホッとすると共に、現金な事に翔子達の水着姿が見れなくて残念だと思い始めていた。彼女たちは診療された時に身体を冷やしてはいけないと言う事で病院着を着させられていた。

「処置が最善で早かったから、大事に至らなかったそうよ」

「そうっスか…でも、その点は氷雅さんにも礼を言わないと…最後は氷雅さんが居ないと俺自身も危なかったし…」

 思い返してみると何だかんだ言っても氷雅には助けてもらっているのだ。自分だけなら適切な処置をできなかっただろう。

「ありがとう」

「別に大した事ではありませんでしたわ。たまたま気が付いたからお助けしたのですし」

 氷雅も正面きって礼を言われて少し、照れながら言った。氷雅もまた横島と同様こういう事になれていなかったようだった。

「そう言えばあの少年にも礼を言わなくっちゃ。あの少年はどこに?」

「少年? ああ、私の弟の妖岩のことですね。それでしたら、あそこにさっきから居ますわよ?」

 氷雅がすっと指差す所…部屋にある窓の近くに忍び装束を着た少年が正座していた。顔を真っ赤にさせて汗をだらだら流している事からかなり緊張している事が分かる。

「あっ………」「「「「………」」」」

 みんなその少年の存在感の無さに全然、気がついていなかった。ある意味、忍としては稀有な才能であるのかもしれない。

 流石にどういえばいいのか横島も言葉に詰まってしまった。それに自分が興奮して鼻血を出した時にもフォローしてもらっているのだ。

「妖岩っていったよな。助けてくれてありがとう」

 やっとこさ横島が礼を言うと、妖岩は恐縮したようにふるふると顔を振ると更に汗をダラダラと流していた。

「変わった子ね」「引っ込み思案なのね」「でもちょっとかわいいかな?」

 女子高生3人組はひそひそと感想を述べた。それから横島と同じように彼女たちも氷雅と妖岩にお礼を述べた。話の流れから彼女達も命の恩人には違いないので。

「……………」

 妖岩は姉である氷雅に目を向けた。

「そうね、何時までも若をそのままにはしておけませんね」

 氷雅は妖岩の言葉を聞くと頷いた。その途端、妖岩はスッと消えた。

「なっ!?」「消えた…」「うそっ!?」「本物の忍者!?」

 忍び装束を着た変な子と思っていたが漫画に出てくるような形で消えた事に驚いた。横島も氷雅で色々と非常識な所を見たがそれでも驚いた。

ガチャッ!

「みんな、飲み物買ってきたよ〜! って、あら? 忠夫君!?」

「本当? あっ本当だっ!」

 ビニール袋を下げて女性が二人入ってきた。

「あっ! 忍さんに澪さん、こんちわっス」

 何故か横島は彼女たちを知っていた。しかも、雰囲気から結構親しそうであった。それもそのはず彼女たちはかねぐら特殊窓口部隊の一員であった事もそうだが、横島が金を下ろすときに態々ATMではなく窓口を利用するなどして色々と話したり会ったりする機会があったのだ。

「どうしたの? 忠夫君」

「あっ! ひょっとして事故に遭った女の子たちって忠夫君のお友達?」

「ふーん、心配で駆けつけてきたんだ」

「隅に置けないわね。こんなかわいい子達と友達なんて」

「やっぱり、この中に本命が居るわけ?」

「えーと」

 矢継ぎ早に繰り出される言葉に横島は口を挟む機会を失ってしまった。

「違うわよ。いえ、そうとも言えるけど横島君がこの子達を助けたの」

 そんな横島に変わって千恵が言った。

「へえ、凄いじゃない!」

「やるわね〜! でも良かったじゃない。そのお陰でこんな可愛い子達とお近づきになれたんだから」

 二人は口々に横島を誉めた。その言葉には横島の性格を良くとらえた言葉も含まれている。

「それが横島君、助けるのに夢中だったから気付かなかったけど、この子達とは知り合いだったことにさっき気がついたのよ」

「へえ、偶然てあるもんなんだ」

「ふーん、じゃあ好感度アップか〜」

 どこぞのギャルゲー(いわゆる恋愛物のTVゲーム)をやっているような事を澪は言ってうんうん頷いた。彼女たちが入ってきて、格段に賑やかになった。

「そういえば横島君もここへ遊びに来たの? それとも仕事?」

「半分仕事で半分あそ…いや、修行っスかね? それがどうしたんですか?」

 千恵に聞かれて自分がここに居る人たちと違って仕事に来ていたのだと言う事を思い出し、暗い顔になった。

「折角、知合えたりしたんだから、晩に宴会があるから翔子ちゃん達を誘おうかなって思ったのよ。横島君もどう?」

 千恵は横島だけでなく女子高生達も誘った。

「えっ! 良いんですか? ………じゃ、参加させてもらいます!」

 互いに目で語り合い代表格の翔子が返事した。

「横島君はどう?」

「俺は…まだわかんないっス。仕事の本番は美神さんが夜からだって言ってたし…」

 横島の頭に仕事と美女だらけの宴会が天秤に掛けられていた。それは揺ら揺らと揺れるが微妙にバランスを取り一方に傾く事は無かった。本来なら反射的に行くと、返事しているだろうが、令子とはそれなりに信頼関係を築いておりそれを壊す事はできなかった。それでも残念だーという思いはある。

「そう、だったらそれが終わってからでもいいわよ? 女子高の子達はともかく私たちは夜通し騒ぐつもりだし」

 さらっととんでもない事を言いながら横島に宴会の場所を教えた。念のためメモも渡した。

「わかりました」

 横島は返事したものの、先ほどの言葉からどうもこの宴会は彼女たちの日頃のストレス発散も兼ねているらしく、乗り遅れたら大変な事になりそうな予感がした。

「顔、ちゃんと出してね。でないと酷いわよ?」

「そうそう」

「ある事、ない事、この子達に話しちゃうわよ?」

「楽しみですわ」

 口々ににやけて言うお姉さま方に珍しく少しだけ行くのが嫌になってしまう横島であった。


(つづく)

--------------------------------------------------------------------------------
注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






<Before> <戻る> <Next>