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GS美神 リターン?

 Report File.0049 「海から来た者 その2」
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「まあ、ボクのがあるふれんどに失礼したんだからね? タダで済むと思う・な・よ?」

 やっぱりポージングをしながら男はどう料理してやろうかとニヤついた。

「(だ、ダメだ!)ただ見てただけやないですかっ!?」

 横島は逃げようとしたが足がすくんで動かなかった。

「もう、あんな視線で見られたら視姦されたのも同然よ」

「汚されちゃったのね…」

 横島の様子に面白がってがあるふれんど達は泣きまねをした。

「一発だけで許してやるよ」

 男もそれが分かっていたのであろう。同じ男として、何よりその年頃には女性に興味がありまくるのも理解はできる。だが自分のものにそれをされるのは不快だ、と利己的な事を思い、軽くなでてやるだけで勘弁してやろうと結論していた。もっとも男の体格と膂力から軽く殴られても無事では済みそうになかった。

「ひぇーーっ!」

 横島は悲鳴を上げる。命の危機と感じてはいるが、やっぱり足はびくとも動かなかった。

 男が拳を振り上げ、横島めがけて振り下ろす。ブンという音がするが、それと時を同じくして女の悲鳴が聞こえた。

「!」

 女の悲鳴が聞こえた瞬間、横島にスイッチが入った。男の拳が横島の顔面を捉えようとした瞬間、

ザッパーン!!

 水しぶきが上がり、海にごっつい足が生えていた。男が投げ飛ばされたのだ。横島の無意識での行いだった。

「「「えっ!?」」」

 男もそのがあるふれんど達も何が起きたのか分からなかった。そんな男たちなど既に眼中になく横島は走り出していた。海の上を。悲鳴のする方向へ。そこまでならかっこいいと思えるかもしれない。だが…

ドッ! ドドドドドッ!!

「うぉーー、絹が裂けるような悲鳴。あれは美人に違いないっ! 待っててくださーーい! 漢、横島、ただいままいりまーーーす!!」

 と叫びながらだったので台無しだった。

 男は息が苦しいと慌てて起き上がって叫んだ。

「がはっ! な、何が起きたんだ?」

「さ、さあ…」

「でも、ちょっぴり見直したかな」

 取り残された面々は呆然とするのだった。それでもあんまり関係ないかもしれないが、ちょっぴり評価も上がっていた。



「きゃーーーーっ! うぷっ!」

 少女は友達二人と沖にまで泳ぎに出て、そろそろ戻ろうとした時、黒い影を見た。何かしら? とよく見ようとしたら、その黒い影がすっと消えた。その瞬間、何かに足を掴まれ下に引き摺られ始めた。慌てて友人達に助けを求めようとしたが、その友人達も自分と同じ状態に陥っているのが見えた。

 頼りにしようとした者も同じ目に遭っていた事にショックを受け、少女は気が遠くなりそうになる。その時、兎に角、助けを呼ぼうとして叫んだ。その後、直ぐに海中に引き摺られた。ドンドン深く引き摺られていくほど絶望がその分深くなる。

(も…う…ダ・メ…)

 と思った瞬間、急に身体が軽くなった。その直前に何かとすれ違ったような気がするが、息が苦しいため急いで上へ上へと手足を必死に動かして海上に出た。

「ぷはっ!」

 新鮮な空気を思い切り吸って、何が何だか判らないがやっと助かったという実感が湧いた。それと共に他の友人達がどうなったのか心配し、息を吸うと大声で助けを呼んだ。今の自分にはそれしかできなかった。



 横島が悲鳴のする方向へ向かった時、そこに溺れようとしている自分と同じぐらいの歳の少女が3人いるのを見た。それと共にその少女達にとり憑いている悪霊の気配も5体感じる。

(数がおおっ! 神木刀無くても大丈夫よって美神さん言ってたけど、こんだけおったらやっぱり必要やん!)

 今更ながら文句を言っても仕方が無い。手元に無い物は無いのだ。

 横島は移動しながら、水中で戦う事になると動きの邪魔になり、不利だとシャツを脱ぎ捨てた。その時には少女たちが3人とも海中に引き摺られていた。

「いかん!」

 横島は速力を上げ、たどり着く直前、ポイントめがけて飛び込んだ。

(まずは1体だけしかとり憑かれていない少女だっ!)

 勢いをつけて飛び込んだお陰で、最初の目標である少女には直ぐに追いついた。勢いに任せて、そのまま[栄光の手]を発動させ、少女の足にしがみ付いて引き摺り降ろす悪霊を一気に切り裂いた。斬りつけられた悪霊は何の抵抗をすることもなく消えた。

 横島はそのまま二人目の少女を助けるべく更に潜っていく。最初の少女は気絶しているわけではないし、まだ水深が2メーターぐらいなので十分自力で戻れるはずとの判断だ。ぼやぼやしていたら、残りの少女を助ける事などできないし、自分の息も続かない。時間が勝負であった。

 横島は更に深く潜っていく残りの二人は水深5、6メートルの所でもがいているが息を大分吐き出しているのが目に入った。その為か動きが少なくなっている。二人の少女にそれぞれ悪霊が足に一体、胴に一体の計2体とり憑いていた。

(くそっ! [サイキックソーサー]は投げれるが命中したら爆発する。そうなったら女の子まで怪我しちまう。カッターのように切り付けるだけという制御は今の俺には無理…それに…大体あの悪霊の一体は身体に…なに密着してるんだっ! 何か体中触りまくっていないか? 何ちゅう、うらやましいっ!!)

 必死に行動しながらも横島らしい思考をした。お陰で霊力の出力が上昇したのは確かである。

 海の中なのでその動きは鈍くもどかしさを感じる。3メーターぐらいまでは飛び込んだ勢いで殆ど一瞬だったがそれ以降は格段にスピードが落ちる。実際にはそれ程、時間は経っていないのかも知れないが、焦りが時間感覚を狂わせていた。

(もう少しで[栄光の手]の射程に入る…だが同時には無理だっ!)

 今の自分の力量の足りなさを痛感する。未だ十分以上の霊力を発揮しても[栄光の手]の能力を十分に使いこなせていない。使いこなせているならもう疾うの昔に決着がついていた。なまじ、どういう事ができるかという事を知っているだけに自分の力の無さが歯がゆかった。

 時間が経てばそれだけ自分が不利になる。ここは海の中なのだ。水深が深くなる事で水が冷たくなり、辺りも光が届かなくなってくる。そして、息も苦しくなってくる。息が乱れれば霊能力の発動も厳しくなる。今は自分の力の無さを嘆くときではないと女の子の救出に集中した。

(この状況は流石にきつい! 二人目をミスすれば三人目の救出は不可能だ…)

 状況が横島に圧力を掛ける。物理的には水圧が、精神的には命の危機が。

(後10センチ…5センチ…3センチ…1センチ…今だっ!)

 横島は[栄光の手]の爪の部分を目標に向けて伸ばした。それらは目標違わず悪霊たちを切り裂いた。

 二人目の少女は悪霊たちから解放され浮き始めた。横島は[栄光の手]を使って少女を捕まえ引き寄せた。既に少女は意識を失っているようだった。

(やばいな…)

 横島は少女の状態からすぐに上に運んだほうがいいとわかったがそうすると三人目を助けれないと判断した。

(少し乱暴になる…けどっ!)

 横島は霊波砲の応用で傷つけない程度の威力を放出して少女を海上の方へ押し上げた。乱暴な方法だがこれでなんとか海上まで一気に上がるだろう。あがれば一人目の少女か、騒ぎに駆けつけた者が助けるはず。でなくとも自分が三人目を助けてあがるときに回収すればいいと考えてのことだ。

(残りは2体。こちらにも三人目の少女も窒息する事を考えると時間的に余裕がない!)

 幸いにも先ほど霊波で少女を上に飛ばしたとき自分もまた反作用で下へと動いた。おかげで三人目ももう少しで[栄光の手]の射程に入る。そう思って三人目の少女を見た。やはり時間が経っている分だけ、さっきの二人目よりひどい状態だ。悪霊はやっぱりこの少女にも体に絡みついているやつと足に…

(何!? 足に憑いていた奴がいない!?)

 横島が少女に取り憑いた悪霊を見て一体しか居ない事に気がついた瞬間、背中に衝撃が走る。

がばっ!

 その衝撃に息を噴出してしまい、一気に呼吸困難に陥った。

(しまっ…た…)

 一瞬、意識が遠のく。その意識に体に絡みつくような感触を覚える。その瞬間、横島は霊波を体全体に放出する。

(男に抱きつかれる趣味はないんじゃーーーっ!!)

 本能が自然と反応した結果だったのだろうか、とにかく湧き上がる怒りにより、遠ざかる意識を取り戻し振り向きざま[栄光の手]で悪霊を一閃する。

 悪霊にそれ程の力があった訳ではないのでそれだけで消滅する。

(くっ! 息がっ!)

 悪霊による攻撃で息がもう苦しく限界が来そうだ。

(や、やばい!)

 苦しくなれば息をしようとして口を開きそうになり、空気が漏れ余計に苦しくなると悪循環に陥る。余裕は無かった。自分の命と少女の命に天秤がかかる状況だった。自分の命をとれば自分は確実に助かる。だが少女の命をとれば二人の命が助かるか助からないかは賭けとなる。

(…もう後悔だけはしたくないんだ!!)

 湧き上がる思いと少しばかりする頭痛を抑え、気力を振り絞り、先ほどの悪霊の為に遠ざかってしまった三人目の少女の元へと向かう。二人目の少女のときよりも接近するのがスローモーションのように感じる。

(10センチ進むのにどれくらいかかっているんだ!!)

 今は1秒がコンマ1秒が、命のタイムリミットとして迫ってくるのだ。実際には感じているほど時間は経っていない。

(早く、早くたどり着かないとっ!)

 あと少しだというのに息がもう続きそうに無くなって来る。それでも気力を振り絞り少女に近づいていく。
 
(くっ、女の子を傷つけずに出来るか!? あったっ! 方法が!)

 すでに水深が深く光が届きにくいため視界が薄暗くなっておりはっきりとしていない。普通の状態であればいいが今は息が苦しく集中力も足りない。何とか霊視で霊波をキャッチする事で位置を掴んでいる状態だ。

(それでも!)

 横島は最後とばかりに気合を入れ[栄光の手]を伸ばした。間違って女の子を捕まえていたら万事休すだが、何とか狙い違わず悪霊を掴んだ。

(霊波放射!!)

 殆どスタンガンと同じ効果が現れた。但し、少女にまで危害が及ばないレベルでの放射なので悪霊は一気には消滅しない。それでも悪霊はしばらくもがいたがそれ以外の事はできずに消え去った。所詮は雑霊よりも少し力がある程度の霊なのだ。

(やった…)

 後は少女と一緒に海上に上るだけ。横島は少ない気力を振り絞り[栄光の手]で少女を引き寄せた。勢いあまって少女を引き寄せすぎ、少女の胸に自分の顔を埋めてしまった。

(うわっとっ! 後は…)

 柔らかい感触に横島は役得とばかりに一瞬頬を緩める。兎に角、自分と少女の状態を考慮すると急いで海上に出る必要があった。が、胸に顔を埋めてしまった時に反射的に目をつぶってしまい、海上への正しい方向が分からなくなっていた。もう少しこの感触を味わっていたい気もしたが、こと命に関わる事なので諦めて、顔を胸から離し海上への方向を確認しようとした。

「ぶはっ!(しまったっ!!)」

 その時、視界にあるものが飛び込んできたがため、横島は最後の一息を吐いてしまった。ついでに鼻血も。そう、少女の胸の水着が無くなっていた。お陰で横島は乳房とピンクの突起を間近で見てしまったのだ。どうやら、水着は悪霊がもがいた拍子に取れてしまったらしい。

(あ、あかん意識が…)

 アクシデントにより最後の一息を吐いてしまい酸欠となってしまった横島は意識が遠のいていくのを感じた。幸い、遠くなる瞬間、煩悩に刺激された霊波を下方へ向けて放出でき、斜めにだが上昇する勢いがついた。とはいえ海上までたどり着けるかは分からない。一人だったならできたかもしれないが、確りと少女を抱いた二人では賭けの要素が強かった。思わぬアクシデントによる霊力補充で成功率は高そうであったけど。

(まあ、あかんかっても女の胸、しかも、なまちちに埋まって死ねるなら本望かな…)

 という思考と共に横島は意識を手放した。


     *


 横島が大ピンチに陥っていた頃、令子達はというと…

”グリンちゃん、おっきなお城を作りましょうね”

「みぃ〜〜っ!」

 キヌとグリンは砂遊びにしてはかなり本格的に大きくリアルな城を作っていた。二人とも霊波を使って砂を固めていくので普通に作るよりも確りと形になっている。そんな二人の様子に段々人集りもできていた。

 一方、令子はそんな二人の様子を見守りながら…

「く〜っ、このキンキン感が堪らないわ」

 こめかみを押さえながらイチゴシロップに練乳がたっぷりかかったカキ氷を堪能していた。

ピシッ!

「グラスが割れた!?」

 横島の危機を知らせる為かグラスが割れた。

「!」

 令子は何かの前兆? と霊感を働かせてみるが引っかかるものは無い。見鬼君を使って目星をつけていた悪霊をもう一度、捜索してみると微弱な気配が消えている。それに強い霊波も捉えた。横島は確りとやっているらしいとだけわかった。

「…別に何もなさそうね…ちょっと、そこのウェイターさん! このグラス勝手に割れたわよ。取り替えて頂戴!」

 令子は横島を信頼していた故か、横島のピンチを感知することは無かった。


     *


ムチュ〜

(うっ…息が…)

 横島は何故か肺に空気が送り込まれ息が苦しくなくなり、意識を取り戻した。段々と意識がはっきりとしてくる。感覚からまだ海の中であるのが分かっているが抱きしめていたはずの女の子の感触が無かった。

 離してしまったのかと慌てて状況を確認しようと目を見開くと目の前にタコみたいな物が自分の口にくっついていた。要するにキスをされているわけだ。

「(うわっ!)がぼっ!」

 折角、新鮮な空気が満たされていたのにそれに驚き、横島は吐き出してしまった。タコみたいな物もそれで離れていく。たちまち苦しくなりもがいた。

『折角助けて差し上げたのに、無碍にするとは』

「ばほっ! ひゃふがふぁふ!? ぐぶじひ…」
(なにっ! 氷雅さん!?    苦しい… )

 突然、横島に声が聞こえ、しかも知っている人間のものだったので驚き思わず口を開いてしまった為、更に空気を失った。

『おバカさん…声を出さなくても伝わります。忍法、以心伝心を使っていますので』

 どういう理屈でかはわからないがテレパシーのように横島と氷雅は会話可能となっていた。

『くっ、くる……』

 横島は苦しくなって首を押さえ始めた。

『えーと、何々? 苦しいから空気をくれ?』

 人差し指を自分の顎に当てながら、横島の片言の意思から意味を汲み取る氷雅。合ってるのかなと首を傾げる仕種は結構可愛い。横島はそんな場合ではなかったが。

『わ、わか…』

 横島はもがき顔を青くし始めた。

『わかっているなら早く? そんな早くなんて。恥かしい』

 何が恥かしいのか、じたばたもがく横島の胸にぐりぐりと指を押し付けながら、もう一方の手を赤く染まった自分の頬にあてイヤンイヤンと首を振った。

『………』

『あら、遊んでる場合では無くなったようですね』

 横島が死んだ魚のようにぷかーと浮かび始めていた。

『仕方ありませんわ…忍法、息継ぎの術』

 そう言って氷雅は横島にしばらくの間、口付けした。

『…………』

『もう、わかっているわよ。妖岩!』

 氷雅は一緒に来ていた弟に抗議された。その弟は空気の泡みたいなものの中に横島が助けた三人目の少女と共に入っていた。白髪に小柄な少年でなぜか忍び装束を着ていた。あまりに寡黙すぎて慣れない者には意思疎通さえ困難である。妖岩と呼ばれた少年があまりにも引っ込み思案であるのも原因かもしれない。

『………』

『私が見込んだ殿方なんだから、これぐらいは大丈夫よ。それよりそっちの娘さんは大丈夫?』

『………』

『そう忍法、人命救助で間に合ったのね』

『………』

『もう少し駆けつけるのが遅かったらダメだった。いいじゃない、間に合ったんだから。さあ、とりあえず海上に出ましょう』

 氷雅は横島を小脇に抱えると海上を目指した。妖岩も気絶している少女と一緒に空気の泡に包まれたまま氷雅についていった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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