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GS美神 リターン?

 Report File.0036 「狼の挽歌 その6」
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「くっ」

 爆炎使いは何とか逃れようとしているが、脂汗が流れるだけでどうにもならなかった。

「諦めが肝心と言う事で、このGS美神令子が止めを刺してあげるわ!!」

 そう言って令子は爆炎使いの脳天に一撃を喰らわす為に神通棍を大きく振りかぶって飛び掛った。

「うおぉーーーーっ! 舐めるなーーーーっ!」

カッ!

 爆炎使いを中心に閃光が走った。

「きゃぁーっ!」「「「きゃっ!」」」「うわっ!」「何っ!?」”何ですか!?”

 令子は何かに弾き飛ばされ、特殊窓口部隊のメンバーも持っていた縄が切られ、その拍子に体勢が崩れて尻餅をついた。チエは眩しかっただけだが、閃光の源から不気味な気配を感じて後退した。

 閃光が収まるとそこには甲羅のような物で覆われた人型の魔物が立っていた。その魔物からは禍々しいほどの強力な気配を感じた。

「ま、魔装術、ぐっ、ま、まただ・・」

 横島はその魔物を見た瞬間、爆炎使いが何をしたのか分かった。だが、それと共に頭に激痛が走った。

(俺の知らない知識、記憶・・一体、何が隠されているんだ!?)

 横島はたまらず膝をついて頭を抱えた。

「そうよ、あれは魔装術・・どうして横島くんが? ・・でも今は!!」

 令子も横島の言葉に爆炎使いが何をしたか理解した。なぜ、横島が知っていたのかは後に、気持ちを切り替えて神通棍を構えた。目の前の敵は甘くないのだ。神通棍は令子の気迫に答えて、バチバチッと雷のようなものを発した。

 魔装術・・悪魔と契約したものだけが行使できるという邪術。力の無いものは制御できず、魔に呑まれて自滅する。呑まれたものは魔と為り、二度と人に戻る事は無い。だが、容易に力を得る事が出来た為に使用することを厭わない輩が後を絶たなかった。現在では危険な術としてその方法は人目に触れないように封印されたはずのもの。通常の手段では習得できない術である。

「くっ、くっ、くっ、滅多に使えないのは何だが、いい気分だ。見よ! この溢れる力を!!」

 魔物と化した爆炎使いはそう宣言すると腕を振り払った。その軌跡をなぞる様に炎が発生した。

「くっ!」「「「きゃぁーっ!」」」「うわっ!」”きゃぁーー!”

 爆炎使いを囲んでいた者は例外なく炎に襲われ、ひいひい言いながら避けた。特殊窓口部隊のメンバー3人が若干、炎を浴びたものの装備のお陰で何とか無事だった。

「やーん、髪がちりちり」「装備が焦げちゃってる」

 等という言葉が出る辺り、まだ余裕はありそうだった。

「うぇー、冗談じゃねえ。あんなの、うわっ! あちゃ! あちゃ!」

 横島は変装していた老婆の髪が燃えていた。横島は慌てて変装を解いた。

「あんた達は下がった方がいいわ。手に負えないと思うから」

 令子は先ほどの攻撃から特殊窓口部隊のメンバー達に忠告した。

「いいえ、牽制ぐらいはできると思います」

 しかし、令子が思った以上に勇敢だったようだ。

「俺には引けとは言わないわけっすね・・」

 先ほどの攻撃に肝を冷やしている横島は青い顔をしながら言った。

「当たり前でしょ。一応、横島クンの力、当てにしてるのよ? 確りなさい。ちゃんとやったらキスぐらいご褒美にあげるわよ」

 令子はにこやかに言った。

「ほ、本当っすか!!」

 先ほどまでの青い顔も何処へやら、横島は俄然やる気になった。

「本当よ(全く現金なものね・・)」

 横島の態度の急変に令子は少し呆れた。が、気付いていないのだろうか? 令子はお金が関係すれば横島と大して変わらない反応をするのを。この弟子にして師匠あり。いや、この師匠にしてこの弟子ありだろうか。まあ、そんな事は些細であり、要は似たもの同士であるという事だ。

「頬とかじゃなくて、こう・・唇にぶちゅーっとですよ!?」

 横島はお猪口口にしながら言った。

「はいはい、それは横島クンの働き次第よ」

 爆炎使いを睨み神通棍を構えなおした。爆炎使いは最初の一手をかました後は何やら集中しているようだった。

「やったる。やったるでーーー!」

 横島は血気盛んに叫ぶと右手に精神を集中した。すると、右手は肘辺りから指の先まで青い光が纏い始め、手甲の様なものが現れた。[栄光の手]と呼ばれる横島特有の霊能だった。それは更に変化し、手の部分から先がまっすぐに伸びて剣の様なものが形成された。俗に言う霊波刀と呼ばれるものである。

「はっ!」

 爆炎使いの方も準備が整ったのか気合を発した。その途端、甲羅で覆われていた体が勢いよく炎に包まれた。

「なんだー!?」「これは・・」「「「何なの?」」」「不味いかも」”燃えちゃってる”

「俺に敵対するものは燃やし尽くす!! いくぜ!!」

 爆炎使いは左右の拳により正拳突きを令子、横島に繰り出した。拳の先から炎の塊が飛び出す。何だかんだいっても爆炎使いにとって、要注意なのは令子と横島であり、特殊窓口部隊のメンバー達は所詮雑魚と眼中に無かった。

 令子は異様な程の集中力をもって爆炎使いの行動を見ていたのか、その攻撃をたやすく避ける。が、横島はそうはいかなかった。能力が優れていても、実戦不足だったのだ。その分対応が遅れた。

「うわっ!(当たる! 間に合わん!! 死にとうない!!!)」

 横島に絶望が駆け巡る。殆ど目の前に炎が迫ってきていた。[栄光の手]では炎を防ぐ事が出来ない。ましてや、避けることはこの時点では不可能。ならばどうするか?

 それは一瞬の閃き、横島は咄嗟に左手を突き出した。

 爆発音が聞こえ、一瞬、炎が燃え上がり、横島を包んだ。まさに爆炎使いの面目躍如といった攻撃であった。

「死んだ・・」「あれじゃ・・」「消し炭ね」「若いのに・・」

 店内の奥に避難していた客達がその光景にそうもらした。

「横島クン!?」

”美神さん、大丈夫です。多分・・”

 キヌは心配そうに見詰めながらも横島が死んでいない事だけは分かっていた。自分は横島に括られているのだ。横島が死んだのであれば分かる。それでも死んでいないと分かるだけでどういう状態かまでは分からない。

 爆発により発生した煙が晴れてくると、そこには左に大きな楯状の青い光を掲げた横島が立っていた。

「ケホッ」

 横島は煙を吐き出した。

「バカなっ!」「何!?」「横島クン!」「無事だったの!?」「人間じゃねえな」”横島さん・・”

 一部無責任発現が含まれているものの、みな驚きの声をあげた。キヌは横島が無事なことに安堵し涙ぐんだ。

「あー、死ぬかと思った」

 ふうと、横島は額の汗を拭った。

「アレを防ぐとは! 面白い!!」

「こっちはおもろないわーーっ!」

 横島は自分を標的にされてはたまらんと爆炎使いの言葉に突っ込んだ。

(しかし、やれば出来るもんやなー。剣が作れる位やから盾も出来ると思っただけやからなー。[サイキック・ソーサー]がちゃんとできて良かった・・って、まて何で俺はこの盾を[サイキック・ソーサー]と思ったんだ!?)

 今までにも何度も浮かんで来た未知の知識に横島は困惑した。何時もならかなりの頭痛がするはずなのに今回はそれ程ではなかった。

「あんたの相手はこの私よ!」

 令子はそう宣言して神通棍による攻撃を仕掛けた。

「はん!」

 しかし、その一撃は爆炎使いに軽く捌かれた。今の爆炎使いは魔装術によって一時的にも魔物と化しており、それは尋常ではない反応速度を得る事が出来ていた。そのお陰で防御どころか返し技まで行った。

「くっ!」

 令子は辛うじて掴まれそうになったのを避けた。掴まれれば大やけど必死であろう。下手すれば焼死する。

「今の俺にしてみれば、どちらを相手にしても早いか遅いかの違いだ! お前達に構っている暇は俺にはそう無いのでな、とっとと片付けてやる」

 爆炎使いは令子をターゲットに絞ることにした。というのも、先程の横島のサイキック・ソーサーの防御力を考えると令子のほうが組みし易いと感じたからであった。

「! みんな下がって!」

 爆炎使いの狙いを感じた令子が周囲のものに注意を発した。特殊窓口部隊のメンバー達はその声に従い後ろに下がり、店内奥に避難しようとした。支店長もこのやばい雰囲気に一般職員及び客達を支店裏口から非難するように指示した。

 横島は令子を援護すべくその場に踏み止まった。

「ここで、活躍してキスじゃー!」

 煩悩が恐怖に勝っているようだった。

「喰らえっ!!」

 爆炎使いの体から無差別に炎が飛び出した。それは令子のいる付近一帯に打ち出された。令子は避けきれないことを悟るともう一つ残っていた精霊石のイヤリングを使った。精霊石は見事に役目を果たし、令子を守りきった。しかし、その後方に居たチエの所に無常にも炎が振り注ぐ。チエも後方に下がろうとしていたが、その時、丁度、攻撃範囲にはいるであろう所に負傷していたサキが壁に凭れていたのが視界に入り、助けようか躊躇してしまったのだ。それが故に危機に陥った。

「!!」

 チエは逃げ切れぬと目をつぶった。が、いきなり横から衝撃が訪れ気が付くと抱きかかえられていた。

「遅くなりました。チエさん」

 危機に陥ったチエを救ったのは氷雅であった。

「あ、ありがとう。それよりサキは?」

「大丈夫です。あの男が助けました」

 氷雅の言葉に従いサキの居た所を見ると横島がサイキック・ソーサーを構えていた。横島の体が前よりもすすけていた。

「よかった」

 氷雅は無言でチエを降ろすと腰に下げていた刀を抜いた。

「チエさんはサキさんを避難させてください」

「あなたは?」

「私はあの魔物を相手します」

「分かっているとは思うけど気をつけてね」

 チエはサキの所へ向かった。

「九能市氷雅参る!」

 氷雅は手に持った刀を正眼に構えて爆炎使いに向かった。

「新手か!? ここはびっくり箱かよ!」

 爆炎使いも予想外の人間の介入が続くことにイラつき叫んだ。

(ちっ! 俺の行使する魔装術は長時間使えねえってのに次から次へとでてきやがって! しかも、あの女の持っている刀、あれは霊刀じゃないか)

 彼には内心の焦りがあった。魔装術は制御が難しく精神にかなりの負担を強いる。故に長時間の使用はできない。無理すれば、待っているのは破滅なのである。

 爆炎使いは舌打ちした。普通の刀であれば魔装術で纏った装甲には問題ない。しかし、霊刀となると話は別だ。霊刀であれば幾ら魔装術による装甲といえど持たないのだ。それ故に肉薄してくる氷雅に対応する必要にに迫られた。。

 氷雅から繰り出される攻撃は爆炎使いに術を行使させる時間を与えず防戦一方に追い込んだ。

「へえ、あの突然現れた氷雅って女、やるじゃない。私も負けてられないわね」

 令子は冷静に爆炎使いと氷雅の戦いを見詰めた。知っている人物ならそれなりに連携を見せて攻撃も出来るだろうが、生憎と今日始めて会った人と連携できるはずもない。令子は静かに自分の介入できるタイミングを逃さぬよう集中した。


「サキ、大丈夫!?」

「チエさん・・」

 意識はあるが朦朧としているようだった。かなりやばい状態かも知れない。

「そのサキって人、奥に運ぶんでしょ?」

 自分一人ではサキを運ぶのは困難であることに気付いたチエに助けの手を延ばした者がいた。横島である。横島は直ぐに行動に移りサキを抱き上げた。所謂お姫様抱っこというものである。こんな状況でなければ感触を存分に堪能していただろう。

「さあ、今の内です。行きましょう」

 横島はそう言って奥に向かった。チエも慌ててついて行く。

(横島君・・か、興味深い・・)

 チエはついて行きながら考えた。非常に興味が湧く存在だ。会ったのはほんの少しだが様々な顔を見せた。どれが本当の顔なのか分からないが、磨けば光る良い男になりそうだと思った。

「すいません、貴方はここの人ですよね」

「ええ、そうよ」

 何を聞く気かしらとチエは首をかしげた。

「いや、えーとですね、ここに何の消火設備があるか分かりませんか?」

 横島は知的美人の仕草に顔を真っ赤にさせながらも、自分の考えを口にした。そうしている間に店内奥にたどり着いた。

「消火設備? そういう事・・」

 実際、相手は炎・・火を使ってくるのだから、それは有効かもしれない。なぜそんな事が思いつけなかったのか。

「! そういえば火災発生時の警報機とかスプリンクラーが作動していない」

 今の所、大して被害は無いとはいえ所々、火が点き燃え始めている。

「チエさん! どうもその辺の回路が切れているみたいなんです」

「あいつの仕業!?」

「それに消火設備って言っても店内には今は役に立たなくなっている消火用のスプリンクラー、それに消火器ぐらいです」

「消火器でも無いよりマシ! 直ぐに用意して」

「いや、それよりも良い物がある」

 ズゴゴゴと嫌に黒いプレッシャーを発しながら支店長が口を開いた。

「支店長! 何ですかそれは!」

「先代の支店長が設置していたものだ。私自身は無用の長物だと思っていたのだがね。放水ポンプだ。元々は暴徒鎮圧用にと用意されていた。流石、学生運動経験者の発想というべきなのか・・」

「「「「ほ、放水ポンプぅ!?」」」」

 チエも他の特殊窓口部隊のメンバー達も驚いた。そりゃ、店内にそんなものが設置されている等、思いもしなかったし、気付きもしなかった。

「使えるんですか? それ?」

 サキを降ろし、避難しようとしていた行員に任せた横島が尋ねた。

「ああ、念の為に3ヶ月に一回は点検していたからな。使えるはずだ」

「じゃあ、直ぐに使えるように準備してください。俺は今戦っている二人に敵にばれずに何とか説明します」

 そう言うと横島は爆炎使いたちのいる方へ走った。

「支店長!」

「直ぐに掛かろう」

 特殊窓口部隊のメンバー達は作業に取り掛かった。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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