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GS美神 リターン?

 Report File.0035 「狼の挽歌 その5」
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 襲撃犯達が出て行った瞬間、支店長は行動に移った。

「チエ君、急いで警備隊に連絡を」

 そんなものは言われなくてもといった感じで受話器を取り上げ、チエは連絡を取り始めた。そんな折、銃声やら爆発音が入り口より聞こえてきた。

「うわっ!」「何だよ」「もう、助かったんじゃないの!?」「どうなってんだ!」

 それにより、店内は少しパニックに陥った。

「支店長、氷雅さんより連絡が!」

 店員の一人が受話器を差し出した。

「何!」

 支店長は差し出された受話器を取ると直ぐに報告を促した。

『外は爆破テロが数ヶ所で起きてパニック状態、警察の対応は余り期待できそうに無いですわ。襲撃犯達は一時、美神令子女史と交戦しましたけど逃走。一番厄介な霊能者以外は逃走しました。霊能者は只今、美神令子女史と戦いを続行中。なお、襲撃犯は美神令子女史と交戦により、武装をかなり疲弊させた模様』

 氷雅からの報告が聞こえる中、時折、爆発音が聞こえた。

「警察が何だ! かねぐら警備隊をなめるなよ! 地の果てまでも追って行き、必ず捕まえてくれる!」

 支店長は受話器を叩きつけた。それを見た店員はもう少し丁寧に扱って欲しいと顔をしかめた。

「支店長、襲撃犯の車については氷雅さんによってつけられた発信機により追跡可能です。それから追加情報としてパンクレスタイヤを使っているのか、まきびし作戦は不可との事」

「ぬぬぬ、ぬ。中々手強そうではないか。しかし、それでこそ捕まえ甲斐があるというもの」

 思わずその報告を聞いて支店長は下唇を噛んだが気を取り直した。

「支店長! 警備部への手配、終わりました。特殊部隊の方はどうしますか?」

「念のため準備だけしてくれ」

「了解しました」

 チエは支店長に不敵に笑って見せた。


     *

「くっ、この!」

 ガキッ! と神通棍同士がかち合った。一方は雷を帯び、もう一方は炎を纏っていた。

「流石!」

 もう何合も打ち合っていたがお互いに決定打を出せずにいた。未だ両者とも汗がにじみ出てきてはいたが、息を荒くしておらず、余裕があった。

(こいつ、大分腕が上がっている・・でも、まだ私の方に分があるようね)

 令子は相手が思った以上にやれる事に舌を巻いていた。

(美神令子、流石、若手No.1と言われ、過去とはいえ俺に勝っただけの事はある。だが、奥の手を使えば十分勝機はある)

 対して爆炎使いも同じように思っていた。

”美神さん、がんばれ〜!!”

 キヌは内心では横島が心配ではあったが、店内自体は既に安全であったので、今は令子を見守ろうと応援していた。強盗幽霊たちはと言うと・・

”あ、兄貴っ!”

”どうしたんだ、サブ。今結構、目が離せないんだぞ?”

 令子と爆炎使いの戦いを観戦モードしていた兄貴分が、同じように見ていたはずの弟分が声を掛けてきたので振り向いた。

”兄貴っ! あ、あれっ!”

 弟分はぶるぶると震えながら、或る方向を指した。

”ん〜? おっ! ま、まさかっ!”

 兄貴分も弟分の指摘するものに気付いて声を上げた。

”そうっす。あれは多分・・”

”い、行くぞ、サブ”

”へいっ! 兄貴っ!”

 二人は目標に向かって一目散で向かった。

”ドキドキっすね、兄貴!”

”ああ、落ち着け、サブ”

 二人は目標であるカバンを前に震えた。兄貴分が恐る恐る手を伸ばし、カバンを開けた。

””おお〜〜っ!””

 そこには夢にまで見た現金の束が詰まっていた。

”やった、やったなサブ!”

”そうです。やりましたよ! 兄貴!”

 二人はひしっと抱き合い、喜び合うとカバンを閉め、兄貴分は抱きしめた。

”い、いくぞ! サブ”

”へ、へい! 兄貴!”

 兄貴分はカバンを、弟分は本来なら襲撃時に威嚇用として持っていた猟銃を抱えて走り出した。二人はかねぐら銀行○×支店からどんどん遠ざかっていくと笑顔を撒き散らした。

”やった、やった、やった〜! 俺達は遂にやったぞ〜!”

”兄貴っ! 遂にやったすね! これで俺たち幸せに慣れるんすね!”

 はしゃぎながら裏路地に入っていった二人はそのまま昇天していった。

ドサッ!

 二人が昇天したが為に持っていたカバンは法則にしたがって地面に落ちた。

 彼らにとって、幽霊となってしまったが為に、大金を得る=強盗成立という単純な図式が成り立つ事になり、それで満足して成仏したのであった。

 こうして令子への依頼は当事者たちの知らぬ間に勝手に解決していったのであった。


 神通棍での迫り合いが続く、令子、爆炎使いともににらみ合う。その間にも蹴り等が飛び出すが、何れもブロックされ有効打にはならなかった。このような状況では幾ら令子といえども女として不利になる。徐々に爆炎使いの方が押していった。

 そして、均衡が崩れる。

「今だっ! 爆っ!」

 決め手が中々、見出せなかったこの戦いで初めて爆炎使いにとってチャンスが訪れた。それを逃さず最大限に活かす。令子の胸元辺りに炎の塊が現れた。

「!」

 令子は咄嗟にそれがやばいと察知した瞬間、体を無理矢理後退させると同時にイヤリングを外し、炎の塊に投げつける。

 強烈な爆音と共に令子の視界が真っ白になる。イヤリングは精霊石とよばれるもので出来ており、令子にとって、いやGSにとって切り札といっていいアイテムであった。

 その使い勝手は攻撃にも防御にも使えると非常に応用の利くものである。その分高価なアイテムではある。質のいいものは手に入りにくく億単位と言っていい。令子は自分が一流であるからには身に付けるものは全て一流という信条であったので、装飾品に加工していた精霊石も最高位といっていい品質のものであった。後で収支を考えた時、令子は頭が真っ白になるぐらいに高価である。

 精霊石はその性質だけでなく品質においても遺憾なく効果を発揮し、致命的な一撃を防いだ。しかし、衝撃だけは防ぐ事が出来ず、それは令子に降りかかった。

 令子はその衝撃を和らげるためにも自分で後方に転がった。故に端から見れば派手に転がったように見えた。令子は偶然にもかねぐら銀行○×支店に転がり込んでいった。

”み、美神さんっ!”

 キヌは令子の様子に動けず真っ青になった。

「なんだと!? ふ、防いだ〜っ!?」

 爆炎使いの言葉にキヌは少し安心した。言葉を聞けば令子は無事だと判ったからだ。

「美神令子、あの女はここで潰しといた方が後の為か・・仕方ない、使いたくなかったが、使うか」

 本来ならそのまま、逃走すれば良いものを爆炎使いは今後の布石の為にも決着をつけようと動いた。その爆炎使いの顔は妙ににやけていた。実の所、こういう展開は結構すきなのだスリルが有って。


「な、なんだ!?」「また何かあるのか!?」「勘弁してくれ!」

 突然、何かが転がり込んで来た事で店内に居た人は口々に叫んだ。そんな中、横島は転がり込んできたものを見るとそれは女性だった。目を見張るとそれが令子である事に気が付いた。

「み、美神さん!?」

「い、いたたた。間一髪よね。まさか、あそこまで腕を上げているとは思わなかったわ」

 多少、煤だらけになっているもののケガも無く、令子は立ち上がった。

「だ、大丈夫なんですか!? 美神さん!」

「大丈夫よって・・あんた誰?って横島クンか・・」

 令子は声をかけた人物が誰か分からなかった。意識が朦朧としていたわけではない。ただ単に横島が未だ変装を解いておらず、老婆の姿のままだっただけだ。

 変装道具はかなり良いものを使っていたらしく、変装していると言われて見たとしても、どう見ても老婆にしか見えないほどだ。

「何が起こっているんです?」

「強盗の中に霊能犯罪者がいたのよ。さっきからそいつを相手にしていたの。あんたもぼやっとしてないで、とっとと私のサポートをしなさい!」

「へい!」

「あと、そいつには低級霊弾なんて効かないし、飛び道具に火を使うから、食らうと危ないわよ」

「火っすか?」

 横島は火と聞いてもぴんと来なかった。しかし、それを理解する時は直ぐに訪れた。

「そう、くるわよ」

「へっ? うわっ!」

 聞くと同時に令子と横島の間に炎の塊が炸裂した。令子と横島は左右に散会する。

「あ、あかん。洒落になってないやんけ。銃よりも物騒やーーーっ!」

 横島は避けた拍子に尻餅をついてしまったがそのままの体勢で後退する。

「ちっ、やっぱり避けたか」

 そう言って入ってきたのは爆炎使いだった。

「支店長!」

「飛んできた炎が気になるが相手は丸腰だ。特殊部隊を出動させよ」

「了解です。あれしきの炎でしたら十分、避けれます。それに炎であれば防護服も十分に機能しますから大抵の事には対処できると思います」

「では、まかせた」

 爆炎使いを確認した支店長は特殊窓口部隊の投入を決定した。これ以上コケにされてはかねぐら銀行自体の威信に係わるのだ。

「余裕ね」

「そうでもないぜ。結構、追い詰められてるぜ」

 言葉とは裏腹に爆炎使いの顔はにやついていた。

(何か・・こいつを見ると俺の知っている奴に似ているように思えるんだよな。でも、知っている奴って誰だ?)

 横島は何とか気を落ち着けると立ち上がり、目の前の爆炎使いを観察した。何とはなしに既視感を覚えたが、自分の記憶には該当する人物は居ない。あえて該当する人物が居るとすれば自分の父親だろうか。何となく不敵な所が似ているように感じた。

「どうだか、正直、あんたがここまでできるようになっているとは思わなかったわ」

「そりゃ、どうも」

 両者のにらみ合いが続く。横島はどうすれば良いのかオロオロした。

”よかった。横島さん無事だったんですね!”

 少しばかり緊迫した雰囲気の中、場違いな程の空気を持ってキヌが横島の下にやってきた。キヌは未だ婆さんの格好をした横島の無事な姿を見て胸を撫で下ろした。

「さて、俺も時間が押しているんだ。決着をつけようぜ」

 爆炎使いは両腕を挙げ構えた。

「そうはいかないわ」

「むっ!?」

 爆炎使いが構えをした瞬間、別口から声が掛けられ、爆炎使いに四方八方から何かが投げつけられた。最初の2,3本はうまく避けても、避けきれるものではなかった。たちまちの内に腕に足に縄のようなものが絡まった。

「ぐっ! 何だ?」

 爆炎使いは縄に絡め取られ、身動きが取れなくなった。

「これ以上、好きにはさせません。大人しく捕まりなさい」

 爆炎使いの正面に眼鏡を掛けたロングへアーの知的美人チエが頭以外の全身を覆う黒い防護スーツを着て立っていた。それと同時に同じ防護スーツを着た若い女性達3名がスッと現れた。

「誰だ! お前達は!?」

 爆炎使いは戸惑ったような表情になった。まさかこういう隠し玉が居たとは思わなかったのだ。

「おおっ! いてっ!」

 横島は現れた女性達に釘付けだった。正確には胸やお尻の部分である。彼女達は防護スーツのお陰で体のラインがはっきりと浮き出ていたのだ。おまけに皆、美人といっていい容姿をしていた。キヌはそんな横島の反応にすかさず腕を抓った。

”ふーんだ(どうせ、私は胸が・・色気が無いです!!)”

 キヌは自分の慎ましい胸を見て少し悲しくなった。横島と一緒に居るので女の好みが大体分かるだけに悔しかった。

(いいえ、まだ、私には未来があります!!)

 キヌは握りこぶしを作り、気合を込めた。何気に自分が幽霊である事を忘れているのでは無かろうか?

「しかし、何で窓口の姉ちゃん達があんなの着ているんだ?」

 何気に横島は謎の彼女達について気が付いていた。

「ふっ、ふっ、ふっ、私達は貴方のような不埒な銀行強盗に対応すべく設立された、かねぐら銀行特殊窓口部隊。異常なまでに安全確実!!」

「「「「それが我々のモットーでーす!!」」」」

 何だか背景に爆発が起きるんじゃないかと思えるような雰囲気で紹介がなされた。

オォーーッ!!

パチパチパチパチ・・

 思わずその場に居た客達は歓声を挙げていた。

「くすっ、何だか予想外だったけどリーチね」

 令子の目にはもう爆炎使いは単なるお金としか映っていないようだった。目に円マークが見えそうなぐらいである。

「くそっ! 何だ!?」

 爆炎使いは縄をはずす為に術を行使しようとしたが出来なかった。

「無駄よ。どうやら、その縄は霊力封じのしめ縄みたいだもの」

 令子は呆れたように爆炎使いを見た。

「そのとおり、私達は貴方のようなものを相手にする事も想定して装備を充実させています」

 チエが高らかに説明している間も爆炎使いは縄を何とか外そうと足掻くがどうにも出来なかった。それを見てやっとその場に居た者達も事態の収束を見たとホッと胸を撫で下ろした。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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