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GS美神 リターン?
Report File.0032 「狼の挽歌 その2」
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ズキューーン!!
放たれた弾丸が見事に的の中心に命中した。
構えていたライフルを横島はおろした。
「ふう」
横島は額の汗を腕でぬぐった。もっともバンダナをしているので余り意味の無い行為かもしれない。
「・・何か、あんた、銃撃ったの、本当に始めて?」
実に納得いかない、と令子は横島を睨んだ。
「いやあ、俺これでも射的得意っスから。これでも昔は射的のタダちゃんと呼ばれてまして」
はっ、はっ、はっと横島は頭を掻きながら笑った。
「夜店の銃と本物の銃を一緒にすなっ!!」
令子は横島の言うことを信じることが出来なかった。当たり前だ、夜店の射的で使うものはコルクが飛び出すものか、せいぜい空気銃だ。絶対に実弾なんか使われない。そんな紛い物と本物では全然違う。それなのに本物を難なく横島は使いこなす。ライフルだけではなくハンドガンも同じだった。
「いやー、でも凄いっスね。まさか射撃訓練場が地下にあるなんて・・」
令子の視線に冷汗を掻きながら横島は辺りを見渡す。横幅はそれ程無いが奥行きはかなりあり、射撃訓練するには十分な広さだった。もっともここは日本であり、民間が銃を所有する事など通常ありえない。ここに来た時はGSなら銃器も使う事があるのだろうと横島は納得しておく事にした。深く考えると恐い所に辿り着きそうだったからだ。
「まあね、それなりに必要になる事があるから訓練しておく必要があるのよ。あまり表立ってはできないしね」
そんな言葉を聞きながら、横島はここが初めてじゃないような気がした。
(既視感って奴かな?)
「・・横島クン、射的の銃と本物の銃が全然違う事は、撃ってみてわかっているんでしょ?」
やっぱり話を逸らせないかと感じたままの事を横島は離す事にした。
「それ何すけどね。何ていうか、体が自動的に補正するというか、勝手に動いちゃうんですよ」
「体に染み付いているっていうこと?」
「そうっスね。どうしてなんでしょうかね。本当に本物の銃なんて今日が始めてなのに」
「本人がわからなきゃ、私だってわからないわよ」
令子にはわかるはずも無かった。普通思いつく事など出来ない。まさか、横島の銃に対する腕前が、未来の自分が横島に体に染み付くまで、覚えさせた原因である事を。そう、これぐらいの事ができなければ命が幾つ有っても足りない、そういう環境に居たのだ。
今の横島には、ただ銃をどのように扱えばいいのか、自然に頭に浮かんでくる通りにやっているだけだった。それは”栄光の手”と同じである事に横島は気付いた。
自分が過去に攫われて戦闘訓練を受けたとか、自分の過去にそういうことは無かった。身に覚えが無いのに出来る・・それはとても不気味なものだった。横島は深く考えない事にした。大体こんな事で悩むなど自分のキャラでないのだと言い聞かせて。
「ところで美神さん、どうして銀行を襲撃するって話になったんすか?」
横島は気分を入れ替えるべく話題を振った。
「その方法が一番、みんなが納得してまるく収まるからよ!」
そう言って、令子はチラッと部屋の隅に視線を向けた。そこには浮かれている銀行強盗になりそこなった幽霊達がはしゃいでいた。
”へへ、いいよですね。アニキ〜”
手に持った猟銃を軽く構え弟分は浮かれていた。まあ、幽霊なので文字通り浮いているが。
”ああ、念願の銀行襲撃ができる。これで俺たちゃ良い目を見れるぜ!!”
兄貴分の目は飢えた狼のようにギラギラと輝いていた。
”そうですよね! これで俺達、ついてない人生からおさらばできるんですよね!”
とっくに人生を終えており、念願かなえば成仏するのだから言葉的にはあっているのだが何か釈然としない横島であった。
”幽霊ライフも結構楽しいのに・・”
キヌはキヌで彼らを指をくわえてみていた。
(おキヌちゃん、ちょっとそれはどうかと思うわよ・・)
令子は一寸、キヌの感性についていけないと頭を抑えた。
「で、計画の方はどうなっているんすか?」
横島としてはGSに弟子入りして、まさか銀行強盗をやるとは思わなかったが、そこは仕事と割り切る事にしたのだ。大体、銀行強盗を捕まることなく実行する体験できる事なんて普通は無いのだ。そこを逆手にとって楽しむ事にした。
「そうね。まあ、今回の仕事は報酬が掛かっているけどゲームみたいなもの。気楽にやって楽しみましょ」
「ゲームっすか?」
「そうよ、表向きは防犯訓練の一環、あくまで訓練だから犯罪じゃない。こういうのって滅多に出来ない体験なんだから、損得抜きでやるわよ」
妙にテンションが高い令子に横島は、「はあ」と生返事した。
「そう、この美神令子が完全犯罪を成立させて見せるわ!!」
そう言って、令子は背後に炎を背って気合を入れた。横島はあの支店長とどんな風にやりあったんだ?といぶかしんだ。
”うわっ!!”
”あちゃ、あちゃ!”
”きゃあ、きゃあ!”
「お、おキヌちゃんっ!」
気合のせいかわからないがその炎は霊達には本物のように感じたみたいだった。横島は慌ててキヌを助けにいった。
「あっ、ごめん、ごめん」
自分の起こした惨状に、令子はてへっと少し舌をだして誤魔化した。
「たのんますよ。美神さん・・」
”ア、アニキ〜〜、お、俺、も、もうダメ〜〜だ”
”し、しっかりしろ! サブ〜〜っ!!”
兄貴分をかばってダメージを受けた弟分が成仏しそうになっていた。
*
「いいか〜、これは真剣勝負であるとおもえっ!!盗まれた金はあのくそ生意気な霊媒女のギャラになる!」
かねぐら銀行○×支店の支店長が従業員を全て呼び令子との顛末を聞かせていた。従業員は支店長の鬼気迫るほどの迫力に気を引き締めた。
「だが、言い換えれば強盗を阻止すればギャラは0という事だ! ふふふふふ、あの女、我々の力を見くびっている。後悔させてやるぞ〜〜!! 世間を甘く見ている霊媒女め〜! この完璧な防犯体制を!! 地球の果てまでも追って行く変質的な警備網!!」
支店長は従業員に対し力強くアジ演説を行っていく。効果は少しずつだが表れ始めていた。
「キャッチフレーズは”強盗するならやってみろ!!” 創業以来から強盗を逃がした事の無い我々の底力を! 見せ付けてやるのだーーっ!!」
おおーーーーっ!!
演説は成功し、従業員は一丸となって令子たち銀行強盗の阻止に乗り出す事となった。
*
「さて、手順を話すわよ」
”分かりやした!姐さん!!”
「姐さん?」
令子はその呼び名が気に入らなかったのかジロッと兄貴分の霊を見やる。
”ひぃ〜!”
兄貴分は令子に睨まれ金縛りにあった。そんな様子に令子は溜息をついた。一瞬にして張り詰めた空気が元に戻る。
「・・まあ、いいわ。襲撃は銀行が開店と同時に行うわよ」
”あの、強盗は閉店前が基本じゃないんですか?”
「相手はこっちが襲撃する事は事前に知っているのよ? 裏をかく必要があるわ」
”成る程、流石です。姐さん”
「・・といっても一般客を出来るだけ巻き込まない事を考えると自然と選択肢は二つになってしまう」
「開店直後と、閉店直後っすね」
「そのとおり」
そういいながら令子は何かの図を机に広げた。
「これは?」
「見ての通り、かねぐら銀行○×支店の見取り図よ」
””げっ!””
「何時の間に」
「女には・・特に美女には秘密がつきものよ」
口元に微笑をあげながら令子は言った。その表情は横島にぞくぞくっと悪寒のようなものが走っり、とてつもなく綺麗で恐いものに見えた。
”むぅ、美神さん・・”
横島が見惚れた(実際は恐怖で固まった)ように見えキヌは少し機嫌が悪くなった。
”で、姐さん。どうするんですか?”
「初手は横島クンに変装してもらって窓口に移動、奇襲してもらうわ。この支店にある窓口は3つ、それぞれの窓口には警報装置があるから一気に制圧しなくちゃいけないわ」
図面の窓口をそれぞれ指し示しながら説明する。
「窓口が3つって、俺、一瞬で制圧なんて自信ないっすよ? それに銃って本物でしょ?」
いきなり難度の高い行動をするように言われて横島は難色を示した。ついでに横島は普通の感性(ここでは日本人として)を持っているので人に銃を向けることなど出来ないと思ったのだ。大体、その銃を向ける相手は先に会った窓口嬢なのである。理由はどうあれ自分に好意を持って接してくれた女性にはそんな行動はできそうにない。
「何言ってんのよ。制圧って言っても人を殺すわけ無いじゃない。そんなのしたら完全に犯罪でしょ。制圧についてはさっきの試射で見せた腕前があれば簡単よ。それに開店直後は右端の窓口は使用されないから、抑えなければいけないのは2つだけ。そして制圧には銃は本物でも弾は特性のものだから無力化するだけよ」
「特性っすか?」
「そう、こんなのよ」
令子は机の上においてあった銃をとり、セイフティをはずしてその場から、射撃場の的に撃った。
ターン
射撃場に銃声が静かに響き渡った。的まで結構な距離があったが命中させる。ハンドピストルで命中させるとはかなりの腕である。
べちょ
的にスライム状のものが張り付いていた。横島はそれに弱弱しいが霊波を感じた。
「み、美神さん。あ、あれは?」
「ふふ、どうやらわかったようね。あれは時給500円で雇った低級霊よ。霊能力を持たない一般人を身動きできないようにするには効果てき面よ」
令子は特殊弾の正体に気付いた横島を見て、確実に成長しているとほくそえんだ。
「時給500円っすか?低級霊に・・高いというか、それ以前になんに使うんだ?」
横島は低級霊の金の使い道に疑問が浮かんだ。
”お線香とかじゃないですか? あれ幽霊には居心地がよくなるというか・・”
「いや、そのまえに幽霊に物を売るような奴居るのか?」
”いやだな、横島さん、そんな事言ったら、私、横島さんのご飯作れないじゃないですか”
「・・そう言えば、そうだった。おキヌちゃんは幽霊なんだよな・・ごめん」
”いいえ、別にいいんですよ”
コホン
令子はワザとらしく咳き込んだ。
「そこ、雰囲気作っていないで話を聞いてね?」
「は、はいっ!」”は〜い!”
二人の様子に微笑ましさとムッとする何だか複雑な気持ちを令子にもたらした。
(何かしらこの感じ・・)
少し気になるが今は関係ないと心の隅に追いやった。
「低級霊弾には殺傷能力は無いから安心して撃ちなさい」
「本当に大丈夫っすか?」
「大丈夫よ。この私が言っているんだから」
実際には体質やその人の精神の強さによってはショック死する事もありえるのだが、それを言うと横島は撃てないだろうと思うのでここは黙っておくことにする。第一そう言った者は支店に居ない事は確認済みだ。もし居たなら手間は掛かるだろうが、別の手段を考えただろう。
「・・わかりました」
横島は令子の言葉を信じる事にした。事、霊能に関しては性格に問題があっても一流で信用が置けたからだ。
”俺達はどうするんです”
兄貴分の幽霊は手順の説明を急かした。
「あんた達と私は横島クンが奇襲したと同時に飛び込むわ。あんた達はそのまま、金庫に向かってお金の確保をするの。私は横島くんのフォローをするわ」
”あのー美神さん、私はどうするんですか?”
「おキヌちゃんには別にやってもらう事があるから、別行動してもらうわ。少し位なら離れることがができるでしょ? 説明は後でね?」
”そうですね。最近は結構、離れていても大丈夫ですから。わかりました”
実の所、キヌは横島に括られてから少しずつだがその存在を安定化させ強固になっていっているのだが、霊力に強い美神や当人でさえ、その事実に気付く事はなかった。
「それから金庫が開けられてから30秒が勝負よ!タイムカウントは私がするから気を付けるのよ?」
”30秒?”
「あんた達、銀行強盗しようってのに知らなかったの? いい? 不正に金庫を空けたら警備から警察に連絡が行くの。直ぐに警察が動く。時間が掛かれば掛かるほど逃走する前に捕まってしまうし、逃走できても逃走ルートは限定され成功率が落ちていくの。この時間は成功率70%のものよ」
「70%? 100%じゃないんっすか?」
横島は令子は完璧主義な所があるので意外に思った。
「何を計画しても成功率は100%にはならないわ。常に不確定要素は存在するから。それに自分がヘマしても成功率は落ちる。今回は特に逃走に車を使うから、交通事情がどうなっているかなんて読めないもの。それを含めた上での最高の成功率よ」
「そうっすか」
横島は車なら運が悪ければ交通事故で道が閉鎖という事もありえたり、渋滞で思うように進めなかったりする事が有り得ると思い当たり納得した。
「とにかくその30秒内に出来るだけのお金をカバンに詰め込んで車に乗るのよ。それが出来なければ乗り込む直前辺りにパトカーが到着してしまうわ。これが突破できれば次は逃走。これをやりきらなくちゃ成功とはいえない」
”道のりは遠いんだな・・”
”アニキ〜、俺達だけでやってたら成功しなかったっすね”
令子の理路整然とした計画?に今回問題の幽霊達は感心した。
「まあ、今回は訓練だから成功率は高いけど、本来だったら、もっと低くなるわ。これはかねぐら銀行だからだけどね」
令子の言葉にみんなは?マークを思い浮かべた。
「つまりね、かねぐら銀行じゃ無かったら成功率は高いの。さっきのような手順で警察の初動をかわせば殆ど逃げる事が出来る。かねぐら銀行には厄介な部署があるのよ」
「厄介って何がっすか?」
令子の顔からかなり難しい事がうかがえた。
「その名もかねぐら警備隊。対銀行強盗追跡のエキスパートよ。彼らの機動力は侮れない。マークされればほぼ逃走は不可能ね。各支店に配置されていて連絡が入り次第、マークした車の逃走ルートに近いものを投入して、封鎖したり追跡したりして強盗達を追い込んでいく猟犬どもよ」
令子は不敵に笑いながら、地図を取り出した。そこには何箇所かに赤い点が書かれており、さっきの言い種でそれがかねぐら警備隊の拠点であると理解した。結構な数があった。
「確かに厄介そうですね」
殆どが密集することなく分散してあり、応援が次々出せるように配置されているようだった。
「まあね。それから未確認情報でかねぐら銀行には特殊部隊が存在するらしいけど噂では本社にしか設置されていないって話し出し、今回のターゲットは支店でもそんなに大きな所じゃないから考えなくてもいいでしょ」
「逃走ルートは決めているんすか?」
「大まかにだけね。工事とかその辺も踏まえて決めているわ。後は実行するだけよ」
”姐さん、いよいよなんですね!”
”よーし、俺やるよ! アニキ〜!!”
”ああ、がんばろうぜ。サブッ!”
ガシッと抱き合って涙を流しあう霊たちを見て呆れ返る令子たちであった。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。