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GS美神 リターン?
Report File.0031 「狼の挽歌 その1」
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ある日の昼下がりの事だった。日常とは少し違う出来事を起こそうとしていた男達が居た。
「・・覚悟はいいな・・サブ!!ここを襲えば俺たちゃ大金持ちだ!!ただし、成功すればな・・」
男は目標である、かねぐら銀行○×支店を見やりながら弟分に活を入れた。もっともそれは男自身に対してもである。それは男自身に対しては効果があった。殆ど自己暗示みたいなものだが覚悟を決めることが出来た。これをうまくやってこれまでの散々ついてなかった人生をバラ色にするために是が非でも成功させねばならない。
「へ、へいっ、アニキ!!」
返事の割には弟分は落ち着けなかった。やはり、気が小さいことが原因だろう。兄貴分の後ろに何時もくっついて行動していたので改善される事はなかった。
「ヘマすんじゃねえぞ」
兄貴分は弟分の様子に不安を覚えもう一度、念を押す。俺達には成功しない限り後がないのだからと自分にも言い聞かせ、更なる闘志を奮い立たせた。
「キ、キンチョーするなあっ」
弟分は心臓がはちきれそうだと兄貴分が何処からか手に入れてきた猟銃を握りしめた。銃口が時々、兄貴分の方に向いたりしているが、二人とも何だかんだと緊張しすぎてそんなことも気付いていなかった。
「もう後には引けねえんだ。覚悟を決めろっ!!」
兄貴分は目をつぶり自分達が成功するイメージだけを思い浮かべてハンドルを握った。
「へいっ!!」
少しは気合のある返事をしたのを聞いて兄貴は頷いた。気の小さい弟分がこれだけできれば今までの中では最高の覚悟だろうと兄貴分は思った。
「行くぜっ!!」
兄貴分はアクセルを思いっきり踏んだ。ここから目標のかねぐら銀行○×支店まではこの速度でなら40秒だ。
ブォーーーン!
エンジンがうなりを上げ目標地点まで突っ走る。その時、突如、車の進む道に何かが飛び出した。
「!」
猫だった。兄貴分は咄嗟にブレーキを踏んでしまった。本来ならそのまま突っ走ればよかったのであるが、条件反射的に行っていた。
「わっ!」
弟分はたまらず両腕で自分の視界をふさいだ。
キーーーーー!
急ブレーキによる甲高い音が響き渡る。道端で歩いていた歩行者達が何事かと振り向くと急ブレーキにより安定性を欠いた自動車が横滑りになり、電柱に突っ込んでいくのが見えた。
ドガグシャーーーー!!
「わーっ」
「きゃー!」
轟音と目撃者達の悲鳴が響き渡るのと共に車は電柱にぶつかり運転席も助手席も見事に潰れた。どう見たって乗員は死亡しているだろうとしか思えなかった。暫くその場に居た者は行動できずに居た。
「じ、事故よ」
「救急車だ。救急車!!」
「警察にも通報だ!」
と目撃者達は動き出した。野次馬も集まり始めていた。
「ニャーオ」
そんな騒ぎになっているのを知ってか知らずか、事故の原因となった猫が一声鳴き、悠然と道路を横切っていった。
この出来事がどでかい騒ぎへと発展する事になろうとは誰も予想できはしなかった。
*
「・・・というような事がありまして、それからでございます。当支店に幽霊が出るよーになったのは・・」
七三分けの髪型にメガネを掛けた細目の全体的にのっぺらとした男・・かねぐら銀行○×支店の支店長が目の前にいる派手な衣装に身を包んだ麗しき女性・・美神令子に長い経緯を話し終えた。
ドンドン、ドンドン
”おらーっ!入れろー、コラッ”
ドンドン、ドンドン
”入れてー”
その時、霊の声とラップ音が聞こえてきた。そちらの方を見ると先程、説明を受けた強盗に入ろうとした男達の姿が窓に張り付いていた。一人は細長の、もう一人は小さく真ん丸い印象を与えるでこぼこコンビである。時折、拳で窓を叩いているのを見るとそれがラップ音の原因だろう。支店長も霊達を見て苦虫を噛み潰したようになった。
「取り敢えずお札を貼って店内から締め出しましたが、ご覧の通りです。このままでは営業が・・」
何故、私の代になってこんな厄介ごとが起きるのかと理不尽な怒りが支店長に湧き上がる。
ドンドン、ドンドン
”逃げる途中ならまだしも、押し入る前に死ぬのは納得いかんぞー”
ドンドン、ドンドン
”死のうにも死にきれないー”
お札がある為に支店は結界が張られ、邪まな幽霊達は入ることが出来ないで居た。その様子を支店長は見て青筋を立てていた。それはだんだんと太くなり最後は打ち切れるのではないかと思えるほどである。
(ふーん、このお札・・いい仕事してるわね・・調べて今度このお札作っている人から購入してみようかしら)
令子はそんな霊も支店長も無視して感心していた。はっきり言って呼び出されたものの仕事の内容と報酬を聞いて一気に勤労意欲は失われていた。
「お話はよーく、わかりましたわ。ただ、その・・ギャラの方をもう少し・・(そう一億くらいに)」
「わたくしどもと致しましては一千万円が精一杯でございまして・・(銀行だからうなる様に金があると思ってふっかけるんじゃねーよ、このアマ!!)」
支店長主観でニッコリと笑いながらもギャラの値を吊り上げようとする浅ましい女に顔では平然として出すことなく苦々しく思った。
「またまたそんな(銀行といえばうなる程、金がある癖に、このしみったれが!!)」
「はははは、動かせる金はそんなものなんですよ(はん!銀行の金は大事なお客様から預かっているのが大半なんだよ。本当ならあんたのような法外な値段を殊更高く要求しようとする奴にギャラを払うのはイヤなんだよ)」
「おほほほ(こっちはオカルトアイテムが高いんだからそう儲けにならないのよ。下手すりゃ赤字なんだから。もう少しよこせ!!)」
水面下で腹黒な会話?が支店長と令子の間に展開されていた。その異様な雰囲気に二人の周囲に近寄ろうとするものは居なかった。
一方、支店長と交渉しに行った令子を待ってた横島はというと通常では考えられないような状況に鼻の下を伸ばしていた。というのもこの支店の成績を上げる為、横島を口座開設のターゲットに陥落作戦を敢行されていたのだ。即ち・・・
「ねえー、お・ね・が・いっ!金額なんか幾らでもかまいませんわ。お金預けて、よ・こ・し・ま・さ・ん!!」
スリスリと色っぽい声と共に横島は制服の窓口嬢達に寄られ囲まれ感涙していた。
「ああぅ、何だこの状況はっ!!制服の窓口嬢・・!!俺ってこういうのに弱いのよー!!」
ここの所、いい所無しだと思っていた横島はこの女性に囲まれている何時もと違う状況に舞い上がっていた。
(・・・横島さんのバカッ!!)
キヌは本来であれば幽霊であるのでお札による結界で中に入れないはずであったが横島に括られている為かスルーできた。ただ、依頼主の場という事で姿を消していた。その為、横島の今の状況をどうすることも出来ずに指を加えてみている事しか出来なかった。
ちょっと黒い想念に捉われているのか霊感のないものには見えないがキヌの周りに人魂が発生していた。
ゾクッ
「うへっ?」
横島は悪寒と共に嫌な予感が一瞬したが女性の匂いに舞い上がった心がそれを直ぐに打ち消した。
「よーし、俺の財産を預金しちゃうぞーっ!!」
横島はこれ以上のサービスを受けれる事を期待して万歳しながら宣言した。
「「「キャーーーーっ!!横島さんステキーーッ!!」」」
横島を取り囲んでいた制服の窓口嬢達が叫んだ。中には抱きついている者もいた。
(うう〜〜〜よ・ご・ぢ・ま・ざ〜ん〜〜)
キヌは怒りを通り越し涙ぐみ袖を噛んでいた。
そんなキヌには気付かず横島はいい気になって今日は珍しく羽織っているジャケットのポケットから所持金を出した。
―――3214円
それが今の横島の所持金だった。
実の所、横島のバイトして手に入れた給料の殆どは生活費(親からの仕送りはあるがその全ては家賃とガス・水道などの光熱費となる)としてキヌが管理していた。
状況的に横島は奥さんに財布の紐を握られている状態ではある。だが、以前と比べてバイト料は比較にならないぐらいあり、十分に小遣いもあるので遣り繰りに気を使う必要がない。それに美神の様に金に執着は無い。どちらかというと並よりも低いぐらいである。
なので横島は自分に必要な分以外は家事もやってくれているし、好きに使っていいとキヌに預けていた。そしてキヌは時代や育ちでかなりの倹約家であった。キヌの家計を預かっている妻という嫁いでいる気分(と言っても実質上、同じ)と横島も贅沢については偶にはいいかというレベルも相まってかなり節約していた。横島は知らないが結構、お金が貯まっているのだ。
知らないが故、横島は今残っているお小遣いを全て出したのである。
「す、少ないかな・・・」
高校生が高額の金を持っていると期待する方がおかしいのである。果たして制服の窓口嬢達の反応は・・
「いいえ、十分ですわ。ところで横島様はアルバイトでしょう?給与の振込みとかはどうなされているんですか?」
制服の窓口嬢達の中でもリーダー格と思われるきりりとした雰囲気のメガネ美人がニッコリと笑顔で質問した。もちろん、横島の年代の反応を熟知しているのか腕を前で組んで胸を押し上げ強調していた。
それを見て横島はでれーっと更に鼻の下を伸ばした。それを見てますますキヌはずずーんとなっていた。この状態ではキヌが所持している貯金分は明るみに出ないであろう。
「えっ?あの、ですね。振込みじゃないです。現金手渡しなんで」
何時もの横島であればダイビングで飛びつくぐらいの事をしていただろうが、制服の窓口嬢達に囲まれていた事もあり煩悩が満たされていたのか、極端な反応は無く普通に答えていた。
横島の言葉を聞いた制服の窓口嬢のリーダーの掛けていたメガネの縁がキラリと光った。
(そう、だとするとターゲットはもう一人増えるわね)
制服の窓口嬢のリーダーは横島の雇い主、美神令子をターゲットに定めた。彼女の記憶が確かなら美神令子は一流のGSであり、かなりの大口顧客となるはずである。
今時のバイトだって給与振込みの時代に現金渡しとはと思うのであるが彼女は美神令子を良く知らない。令子は絵画を眺めるよりも現金を眺めるのが好きなのだ。仕事の報酬にしたって銀行口座への振込みではなく態々現金で要求するぐらいである。それはデータとしての数字ではお金を一杯手に入れた実感が湧かないからという真面なのか分からないような理由である。
制服の窓口嬢のリーダーはチラリと同僚にアイコンタクトした。彼女の意図を読み取ったのか同僚は頷くとそうっとその場を離れた。
「・・では、ギャラは1千万と?」
「ええ、そのとおりです」
相変わらず令子は支店長と報酬改善の交渉を続けていた。
「支店長!!来週の防犯訓練のことについて警察の方からお電話が入っております」
そんなピリピリとした雰囲気の中、制服の窓口嬢の一人が勇気を振り絞って支店長に声をかけてきた。
「あとでかけ直すと伝えてくれたまえ」
支店長は少し兼の入った調子で言った。
「わかりました。支店長は・・」
制服の窓口嬢は支店長の指示に従った。
「防犯訓練・・」
令子はその言葉が天啓のように聞こえた。そこから、導き出されるあこぎな報酬獲得方法を検討する。令子の口元に微笑が浮かんだ。
「・・強盗に襲われた時の対応をする模擬訓練ですよ」
支店長は令子は呟いただけなのだがそれを質問と勘違いしたのか説明し始めた。それは令子が予想していた内容であった。それを聞いてしめたと令子は感じる。おそらくこの方法ならこの支店長も乗ってくるだろう。令子はかねぐら銀行の警備力を頭で計算しながら勝算は十分にあると踏んだ。それに裏技的な次善策もあった。
「面白そうですね。・・それを聞いて一寸面白い事を思いついたんですけど。こういうのはいかがかしら?」
口元に微笑を乗せて令子は言った。
「・・・いいでしょう。お聞かせ願えますか」
支店長も令子の微笑を見ておよその見当をつけたがニヤリと不敵に笑い返した。交渉が一気に進もうとしていた。
「では、横島様、口座開設ありがとうございました」
そうニッコリ笑って通帳と粗品を渡す制服の窓口嬢であった。横島はでれっとしながらそれらを受け取った。横島の頭には姿は消しているが、相変わらずキヌが浮かび、頬を膨らませていた。
「帰るわよ、横島クン!」
交渉がまとまったのか随分上機嫌で令子が戻ってきた。
「話はまとまったんですか?」
横島は令子の後をついていきながら聞いた。内心ではまたえげつない要求したんやろなあとは思ってもそんな事はおくびにも出さなかった。今までの経験からの学習である。
「まあね!」
令子の様子を見て随分こちらが有利なものを引き出したのだろうと思った。令子は銀行から出るとお札で入れずに窓に張り付き、時には叩いて悔しがっている霊達に近づいた。
”金出せーっ!!シカトすんじゃねー!幽霊だと思ってなめんなよーーっ!!”
ドンドンと拳で叩くが何の反応も返ってこない。端から見ていれば空しい行為ではあるが、そこは悪霊。妄執によって行動しているので殆どループしていた。
”アニキーッ!俺なんだか空しくなってきましたよーっ!!”
弟分が兄貴分に告げているがこれだってループしている行為だ。そんな彼等に令子は声をかけた。
「ちょっと、あんた達!」
その声に霊達は反応し、振り返った。GSでなければ危ない行為である。一般人ならすぐさま襲われていただろう。GSの場合は腕にもよるが霊気を放射させる事でそれ程、格の高くない悪霊は大人しくなるのである。
”な、なんだよ!この女!”
”ア、アニキーッ!”
兄貴分は令子に身構え、弟分はそんな兄貴分に縋った。
「あんた達、銀行強盗をするまで成仏しないって行っていたわね?だったら一緒にきなさい」
その言葉を横島は聞いた時、嫌な予感がした。キヌは先程までの不機嫌さは何処に言ったのか令子の言葉に興味津々だった。
”あ?なんであんたについていかなきゃ、なんねーんだ!?”
”アニキーッ、この女ヤバイですよーー”
弟分の言葉に令子はギロリと睨むと弟分はひえぇと縮こまり、兄貴分の後ろに隠れた。横島は令子から見えないのを良い事にうんうんと頷いていた。
バキッ!
見えていないはずの横島の行為に制裁を入れて霊達に向かって言った。
「私達と銀行を襲撃するからよ!」
令子は高らかに宣言した。
””なんですとーーーっ!!””
霊達はその言葉に驚いた。
「や、やっぱりな・・・・」
横島は制裁で未だダメージがあるのか倒れ伏したまま令子の言葉に嫌な予感が当たったと思った。因みにキヌは余り分かっていないのか、ニコニコと笑顔を浮かべているだけだった。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。