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GS美神 近くて遠い夢
Report File.0002 「大逆転作戦 鬼道編 その2」
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「・・・とにかく、式術における奥義とでも言うものが式神や式鬼と呼ばれる永続存在や。これを持つ事が一種のステータスでもある」
「はあ、でもその割りにみんな持っているような・・」
鬼道は横島の反応に苦笑した。式神を持つ者は本来そう居ないのだ。しかし、実際に横島の知っている式術の使い手は皆、式神を所有している。冥子にしろ、鬼道にしたってである。極め付けに六道女学院の生徒でも持っているのだ。
そんなのを目の当たりにしていれば間違った認識を持ってしまっても仕方ない。横島の周りには一般的なGSが居ないのだ。GS免許を取得できていないタイガー寅吉でさえもGS試験では余り役に立たないとはいえ、その能力は人類でも稀に見る強力なものなのである。
周りが普通ではない者達ばかりなので、横島にはGSの一般的な姿を知らず、回りの者達の能力がGSとして標準であるのだと認識していた。それ故に自分ができる事はみんなできるじゃないかと認識しており、自分の凄さが分からないでいた。流石に文珠は特別だということは認識しているがだからといってそれを驕るような性格ではない。
「実際の所、式神や式鬼を造る技術は失われたに等しいんや。そやから、式神が欲しかったら既存のものを手に入れるしか無いんや」
「そうなんスか?」
「技術があってもそう簡単に造る事はでけへん。ここ最近100年余り、式神が製造されたという事は聞いた事ない。まあ、戦争のときに製造を試みたらしいけど悉く失敗したらしいし」
「何でです?」
「ボクの夜叉丸や冥子はんの十二神将を見れば分かるやろ? 基本的に人よりも力が強い。そんな物を造るゆうんは凄い骨なんや」
「そうなんですかねー?」
横島は鬼道の言葉に首を捻った。ここにまたもや横島の間違えた認識が存在する。式神などとは違うが過去にルシオラ達が手下を製造する所を見ていたのである。それは実に簡単にていっ!の一声で気軽にやってのけていた。そんなのを見ていれば間違った認識を持っても仕方が無いのかもしれない。
「そや、式術は自然霊・・つまり、雑霊や精霊のような力を持ってはいるが自我が希薄なものを核にして形作るんや。式神もその技術の延長線上に存在する。自我が希薄故に術者が制御する必要がでてくるんや。」
「そうっすか。という事は式鬼は違うんスか?」
横島はだから式神使いが意識を失えば式神もまた力を失うのかと納得した。そこで疑問が生じる。式神、式鬼と区別するからには違う点があるという事だから。
「その通り。式鬼の場合は妖怪や魔族、場合によっては神族を核…材料にしとる」
「はぁっ!?」「へ〜、ま〜くん物知り〜」
その式鬼の実態に横島は外道なものを感じて声を挙げ嫌悪感を感じた。冥子は今までそういう事には関心がなかったからか全然知らず、あまり深くも考えていないので、そのまま鬼道の事を素直に感心していた。
「まあ、落ち着き。そのお陰で式鬼は一個の独立している存在…意思を持っているんやな。術者は明確な指示さえ出せばそれだけで済む。そやけど、意志をもつ者を使役するんや、当然それには大きな危険が付きまう」
「どんな危険っスが?」
「どんな方法でもいいから式鬼に認められることなんや。でなければ従ってくれへんのや。失敗すれば殺されるか、よくても再起不能やな」
「主を選ぶ権利があると言う訳ですか」
横島はぞーっとした。
「そういう事や。実際、使役される側の方が能力が高いわけやから認められるんはかなり苦労したようや。それ故に全盛期でも主無しの式鬼が結構いたらしい」
「その主無しっていう式鬼はどうなったんっスか?」
主が居ないと言う事は自由でもあるという事なのだ。それは実質、妖怪と同じである。そういった式鬼という存在に今まで出会ったことはなかった。
「悪さしたんは大概、鬼として討伐されたようやな。式神も式鬼も一応、鬼の一種やから。そうじゃないのはどうなったんやろな…ボクも知らん」
「そうっスか…」
「案外、式鬼であること忘れて暮らしとるんも居るかも知れんな。で、さっきもチョロっと言ったように恐らく最後の式鬼使いの所へ行く。名を高島信之」
「高島信之って人っスか? …あれっ? どっかで聞いた事があるような、無いような…」
高島と言う名に引っ掛かりを覚えた横島は考え込んだ。アシュタロス戦以前の出来事なので女に関する事以外は、結構記憶から抜け落ちていた。令子がその場に居たならあんたの前世の苗字でしょ、とすかさず突っ込みが入っていたに違いない。
「ねえねえ、ま〜くん。行ってど〜するの〜?」
冥子はニコニコと問うた。
「あの冥子はんは理事長から何も聞いてないんでっか?」
「うん!」
しっかりと無邪気に頷く冥子に内心、鬼道はかわいいと感じてしまったが慌てて首を振り、その考えを振り払った。
「俺も聞いてませんよ。途中までしか」
「そうやったな…(冥子はんのせいで中断したんやったな)…ボクらが行く理由は高島家の財産の譲渡や」
「財産の譲渡?」「そうなんだ〜」
「というても、お金とかそんなんや無くて、オカルトアイテムとかやな」
「いや、何で赤の他人に譲るんスか?」
「まあ、それはやな、高島家って言うのは、うちとか六道とかと同じように古くから続く家でな、血筋的には優秀な退魔の一族なんや。それが何や、平安辺りの先祖の誰かが下手を打ってしもうたらしくてな、それから徐々に廃れていったんや。それでも細々と家業を継いで現在まで続いていたんやけど…ってどうしたんや、横島? 顔色が悪いで?」
「いえ、何でもないっス(お、思い出した…)」
冷や汗をダラダラ流しながら横島は言った。心当たりがあった。というか有りすぎる。
(聞いたことある名前やと思った…高島っつーたら、俺の前世やないか。確か陰陽師やったし、身分の高い女性に手を出して死刑になるとかだったよな。それって下手打ったっつー事だよな…)
まさかこんな所で前世の自分に関係するものに係わる事になるとは思わなかった。
「大丈夫やなさそうやけど」
「ま〜くん、多分〜それは横島君の前世が〜高島っていう陰陽師だからよ〜」
「ほーう、そうなんか? だったら確かに気になるか。理事長から陰陽術の素質があるからって、言うてたんはそういう事やったんやな」
鬼道はうんうんと納得した。
(というか没落の原因みたいなんですけど…)
横島はこれから行く所を考えると気分が重くなった。
「まあ、気い落とさんとき。それでさっきの続きやけど、今では高島家は信之っていうじいさんだけでな、跡継ぎも居ったんは居ったんやけど、それも何十年か前に殺されたらしい。それで血縁者から養子を取ろうにも、才能のある者は居れへんかったんや。遠縁にも手を伸ばしても同じやったそうや。要するにオカルト的に血が絶えるから、普通の財産は縁者に譲る。でも貴重なオカルト財産は血縁者やないけど使えるものに譲るいう事や」
高島の家は式鬼を使役していただけに、オカルトアイテムもそれに付随するものが多く普通の者には物騒極まりない。よく知らない者が間違って使ってしまったらとんでもない事になりかねない。破棄するには貴重なものが多いのでできないのだ。
(でも鬼道もボクが居れへんかったら、同じやったんやろうな)
そう思うと鬼道は人事やないなと思ったのである。
「じゃあ、他の所からも?」
「そうやろな。でもうちは高島家とは懇意にしていたから最初に呼んで好きなのやるって言ってきたんや」
自分は修行で滅多には会わなかったが会った時は随分かわいがられたような気がする。
「じゃあ〜私は何で一緒なの〜?」
「それは…聞いてへん」
(それって多分、一番厄介なものを押し付ける気ちゃうか)
横島はそう推測した。なんだかんだ言っても、六道は日本でも有数の霊的血統なのだから。
(にしても…俺の前世って純粋に陰陽師で式鬼なんか使役してなかったぞ? 使ってなかっただけか?)
今更前世の事など余り興味もない横島が知っている事といえば単純に陰陽師だという情報だけでどれ程の腕を持っていたかまでは知らなかった。
「まあ折角、横島にはついて来てもらったし、因縁もあるみたいやからな横島に合いそうなんがあったら譲ったる」
「いいんスか?」
「かまへん。陰陽系の腕はともかく、それ以外はピカ一やしな」
「そうよ〜横島君は凄いと思うわ〜」
「そんな事は無いと思うんスけど…」
自分は大した事はできないと思っている横島は鬼道だけに言われたなら、まだ信じられたかもしれないが、イマイチGSとして信じられない冥子にも言われては本当にそうなのかと信じきれなかった。
「おう、あれが高島の家や」
ようやく目的地が見え、鬼道はそこを指差した。
「おお、さすが名家、落ちぶれても家はでかいな!」
「でも〜、山奥だから不便〜それに言うほど大きくないと思うけど〜」
「そりゃ、冥子はんとこと比べるんは無茶やと思うんやけど…(うちは家さえ、もう無いいうに…)」
心の中で冥子の悪意無い言葉に鬼道は傷ついた。
「くーなんだか、ちくしょーー。金持ちなんか大嫌いだーーーっ!」
横島に至っては根が貧乏性ゆえか、叫ばずにはいられなかったようだ。
「と、とりあえず行こか…」
もう、ほとんど目の前だというのにこんな所で立ち往生してどうするかと気を取り直して高島の家に向かった。
*
コツコツ
少し薄暗い部屋で1人の老人が黙々と木に彫刻を入れて何かを作っていた。老人の顔はこれまでの深い年月を表すがごとく皺が刻まれていた。瞳は冗談のようにぼうぼうと生えている眉毛で見えず、髭をかなり豊かに蓄えているので、顔の半分くらいは髭と眉毛で覆われていた。
”主殿、何者かがこの家に近づいてくる。男2人に女が1人。どれも人としてはかなりの霊力を持っている…”
そんな老人以外に人影も無いのに話しかけるものがいた。
”むむ、旋風(ツムジ)よ、お主も感じたか? だがこれは知っているぞ…鬼道の所の坊主だな。ん? 何だ? 懐かしい霊波を感じる…”
その声は一つではなく二つであった。
”その意見に同意する、木葉(コノハ)よ…確かに懐かしい。それとは別の者は…ほほう、この特徴ある霊波は六道のものだ…”
それらの声は高島の領域に誰かが入って来た事を警告するものであった。
「ほーう、そうかい。お前さん達が戸惑うとは興味惹かれるというものよ、その人物に」
自分に声を掛けてきた存在の話を黙って聞いて黙々と作業をしていた老人が口にした。
”出迎えましょうや?”
「お前達が出ては向こうも驚くであろう。わしが行くよ。鬼道の倅も居るようだしの」
老人はよっこらしょと立ち上がり、年齢の割には確りとした足取りで客人を出迎える為に部屋をでた。
「あれか…」
老人…高島信之は母屋をでて門の所まで歩むとこの門へと続く道中に鬼道達を発見した。もう2,3分もすればここまで来るだろう距離だ。
「さて、鬼道の倅とは12年ぶりだったか…それに噂に聞く六道の今代の者は如何程の者かな?」
六道の事を軽く見ているわけではないが、それでも信之には自分の方が上であるという自負があった。六道に関しては先々先代、先々代を知るが故に今代の六道等恐れるに足りんと思っている。自分の知る六道は化け物そのものと言って良いが、今の六道は話を聞いた限り人という範疇より少しはみ出ているだけの未熟者と考えていた。
だが、そう言った思いも鬼道達が近づくにつれ驚きに変わった。
「なっ! 似ている…」
鬼道たちと一緒に来ている若い男を見て信之は動揺した。そこには自分の息子に良く似た者がいたからだ。実際には言うほどには似ていないかもしれないが、彼から感じる霊波とでもいうものが自分達一族と良く似ていたのだ。
「お久しぶりです。信之殿」
「おおう、久しぶりじゃな、鬼道の倅。いやもう立派な一人前の男じゃったな。正樹殿」
信之は立派な青年になったもんじゃと小さい頃を知るだけに感慨深かったし、羨ましくもあった。
「はは、ありがとうございます。こちらの女性は六道冥子です」
信之の様子に鬼道は苦笑交じりに冥子を紹介した。
「冥子です〜」
冥子は笑顔で一礼する。
「お噂はかねがね聞いておりますぞ。先代とは余り付き会いが無かったが先々代とは懇意にしておったでの、よう似ておる(外見だけはな…)」
信之は内心では未熟者と考えていたが、それでも思ったよりも式神をうまく制御しているようで少し評価を上げた。それでも未熟者というレッテルはそのままだ。
「そして、こっちが私の弟子で横島忠夫と言います」
「どうも」
ぺこりと少し緊張した面持ちで横島は礼をする。
(近くで見るとやはり似ている…何故だ!?)
信之はますますこの横島という青年に興味が引かれた。
「歓迎する。ワシが高島最後の式鬼使い信之よ。今日はゆっくり休むと言い、準備がまだ整っておらぬでな。何も無い…あったとしても温泉ぐらいじゃがな。それでも骨休めはできるじゃろうて(横島忠夫か…調べてみようかのう)」
「では、そうさせてもらいます」
「うむ、とりあえず部屋へ案内しよう。」
そう言ってくるりと信之は周り、母屋へと向かった。鬼道たちはその後についていった。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。