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GS美神 近くて遠い夢

 Report File.0001 「大逆転シナリオ その1 立案編」
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*注意)このお話はオリキャラが主体で既存のキャラは名称でしかでて来ません。
    それがお嫌な方は読まないことをお勧めします。
    また、一部にダークな表記がございます。




「はあ、兄貴。俺達いつまでこんな生活しなくちゃいけないんでしょうね」

「言うな。弟よ」

 ぶつくさと不平を言う弟をたしなめる兄。会話だけを聞いていると貧困に喘ぐ兄弟という構図が思い浮かぶが残念ながら彼等は人間ではなかった。外見的には人に近いが頭に4本の角を持っているのが決定的に違っていた。
 彼等は世間的には魔族と呼ばれ、真っ当な人間にとっては最も関わりたくない類の存在であった。現に今も彼等に遭遇した不幸な人間を自分達の糧とするべく喰っている最中であった。肉体だけでなく魂までも。

「ああ、アシュタロス様が健在の頃はこんなこそこそせんでもうまいメシに有りつけたのになあ。今じゃあ、ゴースト・スイーパーを恐れてこそこそとあんまり足の着きそうにない人間の浮浪者を喰ってばかりだ」

 不平を言いながらも弟の方は今では肉塊となってしまった人間の足をかじっていた。

「仕方ない。どうせ俺たちは魔界に帰ったとしてもアシュタロス一派として処分されるだろうし、その時は俺達がやった事がバレたら消滅刑は免れんだろうからな。ちっ、こいつはここ最近の喰った中でも一番まずいな。かといってこっちでは派手なことすりゃ直ぐに足がつく」

 兄の方も文句を言いながらも食べるのを止めようとはしなかった。彼等にとっては己を維持するのに必要な行為であり、自分達を取り巻く状況がそんな贅沢を許さなかったからではあるが。

「ああ、女か子供・・それも赤ん坊の肉が喰いたいぜ、ああ、思い出すだけで、もう堪らんな」

「くっくっくっ、苦労しているようだな」

「だ、だれだ!」

 急に声を掛けられた魔族の兄弟達は警戒し声がした方にいつでも飛びかかれる体制で身構えた。

「おいおい、そんなに警戒するなよ。アンカー兄弟」

 そう言いながら薄暗い闇の中から月明かりに照らされて浮かび上がるシルエット。そこに居た者は見た目は人と変わらないが唯一額に緑色に輝く第3の目が有ることが違っていた。

「お、お前は、イ、イルじゃないか。生きていたのか!」

 驚きのあまり声を荒げてしまうアンカー兄と声も出ないアンカー弟。

「お前達こそ、しぶとく生きているじゃないか」

「あったりまえさ。我等アンカー兄弟がそう簡単にくたばって堪るかよ」

「そのとおりだ」

 しばし、再会を喜び合う3人の魔族であった。

          *

「で、ここには何しに現れたんだ?俺達の所在を調べるのはお前の能力を持ってすればそう苦労はしなかったと思うが。お前が感傷ごときで俺達に会いに来るわけないからな」

「そうそう、イルが来る時は何時も厄介ごとを持ち込むから」

 アンカー兄の疑問にアンカー弟が合いの手を入れつつ、イルに質問する。

「フフ、察しのとおりだ。お前達の力を見込んでやって貰いたい事がある」

「何だ?」

「今の俺達の状況は非常にまずい。時が経つに連れてジリ貧になっていくばかりだ。で、この状況を打破する策がある」

「何だと!」

「マジかい!」

 アンカー兄弟が驚きの余り立ち上がった。

「ああ、本当だ。まあ、博打みたいなものだがな。だが、今よりはずっといいはずだ」

「ほう、博打か」

「どういう事ですかい?」

「まあ、落ち着け。座って話そう」

 イルに言われてアンカー兄弟は再び座った。

「いいぜ。本題を話せ」

「ああ、俺達のターゲットは唯一人、横島忠夫だ」

「横島忠夫・・って、あの横島忠夫か!だが今更奴を殺っても状況はかわらんだろ」

 イルはニヤリと笑った。

「まあ、最後まで聞け。別に殺るんじゃない、これを飲ませるのさ」

 そう言ってイルは懐より小瓶を取り出してアンカー兄弟に見せた。

「それは何ですかい?」

「こいつはなお前たちも聞いたことがあるかも知れんが”時空消滅内服液”という魔法薬だ」

「「時空消滅内服液?」」

 アンカー兄弟は声を揃えて聞いた。実際、彼等はその手の知識には明るくない。

「”時空消滅内服液”ってのはな古代より伝わる暗殺用魔法薬の一つだ。これを生成できる者はそうはいない。まあ、一寸した偶然でこいつを手に入れたんだがな、この幸運に神族に感謝してもいいぐらいだよ。でな、こいつを飲むと飲んだ奴の縁を断ち切る効果がある。つまり」

「「つまり?」」

「飲んだ奴が初めから生まれてこなかったことにしてしまうというものさ」

「おい、それは凄いじゃないか!」

 その意味に気付いたアンカー兄が喜色満面になる。

「兄貴、どういうことだ?」

 逆に未だ察し切れなかったアンカー弟が兄に聞いた。

「つまりだな、横島忠夫が存在しなくなるんだよ。あのアシュタロス様の計画を無茶苦茶にしやがる要因を作った横島忠夫がな!」

「じゃあ、じゃあ兄貴!」

「そうだ、成功すれば今の状況がひっくり返ることになる!」

 やっと、その意味がわかったアンカー弟も騒ぎ始める。

「まあ、正確にはこの世界がリセットされると言うことだがな」

「へっ、どういうこどだ?」

「つまりな、アシュタロス様の計画が始動する直前あたりまでは無かった事になるのさ」

「各界のチェンネル閉鎖とコスモプロセッサだな?」

「そのとおり、あれらのおかげで横島忠夫はいわば世界意識との縁を深く持っている。それが無かった事になるから、その上に成り立っている今の世界は消えるのさ。その影響は最高指導者達でさえも免れない」

「じゃあ、今の俺達も無かった事になると」

「だから、リセットだ。この計画を実行すれば今の俺達は無かった事になるからどうなるかは何人にも認識できない」

「だから、博打か」

 アンカー兄は漸くイルがなぜ博打と言ったのか得心した。

「そういう事だ。だが結構、分のある賭けだとは思うよ。横島忠夫の人となりや環境、今までの経緯を分析した結果な」

「そうなのか?」

「ああ、アシュタロス様の計画のキーとなるエネルギー結晶を内に持つ美神令子。彼女は意識していないとはいえかなりの部分を横島忠夫に依存している。それに横島忠夫に何度も助けられている。今でさえ、自分の精神を安定させるために横島忠夫をこき使っているからな」

「なるほどな。それが居なくなる訳だから、その分、こちらが有利になるわけだ」

「どうだ、やるか?」

 イルはアンカー兄弟に問いアンカー兄弟は頷いた。

「当然ながらこの計画にはメリットもあるがデメリットも存在する」

「それは何だ?」

「横島忠夫は一度、”時空消滅内服液”を飲んでいる」

「何だって?」

「それって、もう一度やっても無駄って事じゃ・・」

「まあ、聞け。”時空消滅内服液”って言うのはこの世との縁を断ち切る効果がある。ゆえにこの世との縁を強めれば効果が打ち消されるのだ。簡単に言えば服用者がそれを飲んだ時点で一番印象に残っていた事を再現する事で無効化できるのだ」

「じゃあ、その時は再現できたと」

「そういう事だ」

「悪運が強いな」

 アンカー弟は妙なところに感心した。

「ああ、実際そのとおりだ。横島忠夫を調べていれば普通なら何度死んでいても不思議ではない事に出合っていながら、未だに生き延びているからな」

「じゃあ、今回もそうなる可能性があるんじゃ」

「ああ、そうだろう。私の計算でもかなり高い。だから、俺達の計画の成功確立を極力高めるようにしてから実行するのさ」

「おお、わかってきたぞ。つまり、滅多にないようなシチュエーションを作り出してその上で服用させるのだな」

 アンカー兄はイルの言いたい事を察して感心した。

「そのとおり」

「確かにそうすれば、成功確立もグンと高くなる!」

「だが、問題は他にもあってな。横島忠夫は”時空消滅内服液”を一度飲んでいる事で耐性がついているのではないかという事だ。どういう効果が現れるかさっぱり解らん。」

「イル、お前が言うからにはかなりの確立だな」

「ああ、私が調べた限り、”時空消滅内服液”を二度以上にわたって飲んだものはいないからな。もともと、高い成功率だから失敗した事は数例しかない。ゆえに、前例がないのだ。どのように作用があるのかわからん」

「その辺が微妙だな」

「だが、正常に作用するにしろ、中途半端な効果しかなくとも最低限、アシュタロス様の計画が始動する直前まで横島忠夫が消滅していればそれで俺達の目的はほぼ達成できる。一番困るのは、作用が遅くなることだな。」

「そうだな。それだと無効化できるシチュエーションを行える確立が増すわけだからな」

「もう、俺には兄貴たちの会話についていけないや」

 イルとアンカー兄の会話に着いていけないアンカー弟が二人の会話している様子を見て少々すねていた。

「弟よ。後で解り易いように説明してやるから残っているものをお前が食っちまいな」

「いいのかよ。兄貴」

「ああ」

 アンカー兄の言葉に嬉しそうにアンカー弟は食事を再開した。

「ふふ、相変わらず仲がいいな」

「魔族にしてみれば珍しいだろうがな」

「そうだな。一応、事前策としてもう一つ魔法薬の入ったカプセルを服用させる。このカプセルは服用後、個人差はあれど大体24時間後に溶けて中の魔法薬の効果が発揮される」

「ほう、中身は何だ?毒か?」

「まあ、最初はそれも考えたんだが不確定要素もあるんで辞めた」

「つまり、作用が異様に遅くなっていて最低限、俺達が目指す目的に達成する前に死んじまったら元も子もないからか」

「そのとおり。それだと万一失敗した場合は取り返しがつかなくなるからな。だから、記憶を消去する魔法薬だ」

「なるほど、確かにそれだと”時空消滅内服液”を無効化するシチュエーションも解らなくなるからな。成功確立がグンと上昇する」

「まあ、懸念は複数の魔法薬が効果を発揮する事で何らかの副作用なりが起きないかということだが。これについては多分大丈夫だ」

「まあ、仕方ないか。だが、ひとつ気になることがあるんだが。何で最低限にアシュタロス様の計画が始動する直前まで横島忠夫が消滅すればいいんだ。その場合、横島忠夫が未来を知っているから俺達に不利じゃ」

「だからこそ、記憶消去の魔法薬なのさ」

「なるほど、その時にもそれは生きてくるわけか」

「ああ、よしんば効果が無くとも人間どもの最大の切り札である美神令子と横島忠夫の合体はできないからな」

「それはどういうことだ?」

「合体は同じぐらいの霊力がある者でなければ意味がない。そして、今現在の横島忠夫と美神令子との霊力を比べれば本人たちは気付いていない様だが美神令子の霊力が約100マイトとすると横島忠夫の霊力は約150マイトと圧倒的に高い。もはや、合体しても意味が無いくらいにな。”時空消滅内服液”の効果は魂には影響を与えない。そして、霊力は魂による所が大きいからおのずと霊力はそのままということだ」

「人間は霊力は肉体からも少なからず影響するはずだが」

「それについても調べた。横島忠夫の身体については今も、アシュタロス様の計画が始動する当たりの時もそれほど変化はない。なんせ、あの過酷な労働環境に耐ええる肉体だ。かなりのポテンシャルを持っている」

「なるほどな、かなりの確立で服用さえさせることができれば成功しそうだな」

「ああ、ここからが計画を実行に移す本題だ」

 イルはニヤリと笑った。アンカー兄もニヤリと笑い返す。アンカー弟は食事も終わり、解らないなりにも一応、イルの話を聞く体勢になっていた。

「さあ、続けてくれ」

「ターゲットは横島忠夫が住むアパートの隣にいる花戸小鳩だ」

 そう言ってアンカー兄に花戸小鳩に関する資料を渡すイル。

「ほう、中々うまそうな娘だ」

 資料の一番上にある写真を見て感想を述べるアンカー兄。それを聞いてアンカー弟も覗き込む。

「うへえ、本当だ」

「喰うなよ」

「惜しいな」

 あふれ出る涎を飲み込みながらアンカー弟は悔しがる。

「解っているよ。この娘を乗っ取ればいいのか?」

 アンカー兄はアンカー弟をたしなめながらイルに問うた。

「いや、曲がりなりにも横島忠夫は本人が意識していなくとも人類でも有数のゴーストスイーパーだ。そんな事をすればすぐに気付かれる。実際、過去に幽霊であった時期の氷室キヌが憑依していた人物を見て見破ったことがあるみたいだからな。しかも、霊力が本格的に目覚める前にだ。他にも人類最高とも言われる美神令子が察知し得なかった異変さえ何度か察知している」

「なるほどな。ひょっとして横島忠夫ってのは魔眼の類でも持っているんじゃないか?」

「さあ、可能性としてはあるね。今までの経緯でもその霊能は不足と感じられた時にはまるで引き出しを開ければ必要な物が出てくるように発揮されていたからね」

「ああ、サイキック・ソーサーに始まりハンズ・オブ・グローリー、そして極め付けに文珠か」

「そのとおりです。一寸、話が反れましたがこの娘を乗っ取るのではなく一寸した精神操作をするだけです。催眠術の類です。得意でしょ?」

「まあな、食料を確保するのに重宝しているよ」

「で、精神操作でこちらのシナリオに沿った形で魔法薬の入った料理を食べて頂くのですよ」

「だが、それだと普通のシチュエーションにならないか?この資料によると」

「そこを少しひねるのですよ。横島忠夫の性格を利用します。最近は花戸小鳩は横島忠夫が帰ってくる所を見計らって食事を作りに行っています。そこを花戸小鳩に精神操作にて裸エプロンで横島忠夫を迎えるようにして、そのまま、花戸小鳩の手で横島忠夫に料理を食べさせるのですよ」

「だが、それだと先に横島忠夫は花戸小鳩に襲い掛からないか?」

「ですから、その辺を精神操作で受け流すんですよ。例えば、”夜はまだ長いですから。たーんと精をつけてからね”とか言わせてね」

「なるほど。あと、花戸小鳩には福の神が憑いているようだが?」

「ああ、それについてはまだ強力な福の神ではなく小物と言っていいでしょう。十分、私の力で抑えることができる」

「と言うことであとは実行するタイミングか」

「ええ、現時点で邪魔に入りそうな者は氷室キヌですね。彼女の行動さえ抑えておけばこの実行計画の方はほぼ100%成功でしょう」

「だな」

「さて、前祝にどうだ?」

 そういってイルは懐から魔界産の酒を取り出した。

「お、いいね」

「酒なんて久しぶりだなあ」

 それを見たアンカー兄弟は喜びの声を上げた。

「じゃあ、計画の成功を祈って」

「「俺達の明るい未来を祈って」」

「「「かんぱーい」」」

 アンカー兄弟達は今の状況を打破できる希望を胸に抱いて酒を飲み干すのであった。


 その後、彼等の計画は実行段階を迎えた。




<続く>

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(後書き)

  オリキャラのみと少々所ではなくつらいものがありますが。
 駄文にお付き合いありがとうございます。皆様のご意見、ご感想をお待ちしております。

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(蛇足)

 これは「夜に咲く華」の小ネタ掲示板に投稿したものに少々の手直しをした作品です。
元々は短編のつもりだったんですが意外に続きが気になるとの意見がありまして色気を
出して連載にした経緯があります。そのときには最後の一文は

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 その後、彼等の計画は実行された。それが、どういう結果になったかは解らない。



<Fin>
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でした。一文変えるだけで完結か続きものになるかって変わるもんですな。
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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