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END OF EVANGERION AFTER
Second Stage
第01話 ある日常の一コマ
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「おーい、シンジ」
人に声を掛けられ、のどかな公園のベンチに腰を掛けて本を読んでいた青年が聞こえてきた声のほうに顔を上げた。
「やあ、ヒカル、どうしたんだい」
「やっと、見つけた」
本を読んでいた青年・碇シンジの所に駆け寄ってきたヒカルと呼ばれた青年はぜぇ、ぜぇと息を切らしておりそれを整えようと深呼吸した。
「なんだい?」
声を掛けてきた友、一条ヒカルが息を整えるのをシンジは待って問いただした。
「なあシンジ、お前、確か航空免許持ってたよな?」
「まあ、一応」
何をいきなり言うんだといぶかしむシンジはヒカルにとりあえず返事をした。
「じゃあ、今度の連休、NERVの公開イベントに参加しないか?」
「NERVの? それに航空免許が必要なんだ?」
ヒカルの言葉に何故、航空免許の必要性がわからなかった。
(そういえば、前にイベントやるから、その時に顔を出せと父さんから連絡があったな。相変わらずの父さんの短い手紙には苦笑したけど)
そのときに来たシンジにとって2度目となる父からの手紙の内容を思い出して苦笑いした。同封してあったもう一枚の手紙がなければどういう意味なのかさっぱりな内容であったのだ。
(「来い」か…前に手紙が来た後、素直に行ってみればとんでもない目に遭ったんだよな…)
「それはな昨日さ、先輩から連絡があって、面白いイベントがあるから来ないかって誘いがあったんだ」
「先輩って言うとロイ先輩?」
ヒカルが先輩という人物はシンジが知っている人物ではロイ・フォッカーという者しか居ない。ヒカルとはかの人物を介して友人となったのだ。
「当然だろ?」
「そういえば、ロイ先輩とはしばらく会ってなかったな」
シンジにとり、ロイ・フォッカーとは人生の師ともいえるほど影響を受けた人物であった。どことなく加持リョウジという昔の知り合いによく似ている所がある人物だ。
「だろ? で、体験イベントってのがあって、なんと! あの最新の航空機VF−1、通称”バルキリー”に抽選でだけど乗れるらしいんだ。しかも、免許があれば少しだけど、操縦させてくれるって。こんな機会は滅多にないからな。抽選にもれても、コクピットには座らせて貰えるらしいんだ」
目をキラキラと輝かせながら言う、ヒカルに多少呆れながらも、シンジは何かに夢中になれることがうらやましかった。ついでにそのはしゃぎ様から昔からの友人である相田ケンスケを思い出した。
「へえ、でも最新鋭のってことは機密の塊と言ってもいいのにいいのかな?」
シンジの知るNERVが何も考えずにやるとは考えにくい事を良く知っていたので考え込んだ。
(何か裏がありそうだな…)
ただ、何の情報も自分は持っていないので結論など出ないと早々に打ち切った。
「さあ?大丈夫なんじゃないか、でなけりゃそういう企画はしないだろ。で、行かないか?」
「まあ、その日は大丈夫だよ。もともとそれには行くつもりだったしね」
一人で行くのもちょっとなと思い、誰か誘おうかと考えていた所なので、丁度いい連れ合いができたとシンジは二つ返事した。
「どういうことだ?」
「ああ、父さんがイベントに参加するから、久しぶりに顔を出せってさ」
「オヤジさん、NERV関係なのか?」
「まあね(まさか総司令だとは思わないだろうけどね。でも、碇の性は珍しいからな・・何れバレるか・・そん時はそん時だよね)」
意外にもこの地ではシンジがどういう立場の人間であるか知られてはいなかった。この辺は副司令いや学長の配慮かもしれない。
「それはすごいな」
「そうかな?(そうか、ここは第3新東京市じゃないんだっけ)」
シンジが第3新東京市に居た頃は、こんな事では騒がれなかった。というのも第3新東京市自体にいる市民の殆どが、NERV関係者だったからだ。今やNERVは人類を守護した組織として、有名であり就職したい度No.1でもある。要するに所属することが難しい狭き門なのである。
「よし、じゃあ決まりだな」
「他にもメンバーは居るのかな?」
「ああ、一応、コウには声掛けたけど返事はまだ貰ってない」
「そうか」
その後、他に何人か声を変えると名前を上げた。まあ、軍事オタクというか、航空機オタクといえる人間ばかりを言うヒカル。その中に自分も含まれているのか、と思うと少し切なくなったシンジであった。そんなシンジに、声を掛けてき者達がいた。
「やあ、シンジ君」
「こんにちは、シンジさん」
「こんにちは、シンジ…」
その声にシンジは少しブルーになっていた気分を引き上げた。
「やあ、アキトさん、こんにちは。ルリちゃんにラピスちゃんも、こんにちは」
声を掛けてきたのはシンジの少し上に年の離れた友人である天河アキト。その妹の天河ラピスラズリ、妹分の星野ルリであった。
「て、天河先輩、こんにちはです」
ヒカルがいきなり声を掛けてきたアキト達に緊張気味に挨拶を返した。なんせ、この3人は大学…いや、この小学校から大学まである総合的な場所である学園でも色々な意味で有名だからだ。
「「「こんにちは」」」
挨拶を返されて少々にへらと顔を崩すヒカル。
(学園でも人気のあるルリちゃんや、ラピスちゃんに声を掛けて貰って、うれしいといった所か)
そんなヒカルの様子を観察していたシンジはそう思い、呆れた。
「やあ、こんな所でどうしたんだい」
「いや、その…」
ヒカルが緊張しまくっていたのでシンジが引き継いだ。
「いえ、今度の連休にNERV本部のある第3新東京市で、開催されるイベントについて話していたんですよ」
「ああ、そういえば大学のほうでも結構話題に上っていたな」
「高校の方でもです」
ルリは同意を求めるようにラピスの方を見た。それに答えてラピスはコクリとうなずいた。
「たしか、使徒戦役の被害からの第3新東京市復興記念とかでしたよね」
「そうだよ、ルリちゃん。まあ。それにあの”統合戦争”終結の区切りって事も兼ねてね」
大変だったよな…脳裏にシンジにとり、今となっては懐かしき日々とも言うべき光景が一瞬だけよぎった。
「第3新東京市全域をあげてって事で結構、大規模にやるって聞いてる」
「連休中ずっとらしいよ」
色んな意味でイベントが目白押しだよなとシンジはそのイベントを知らせてきた手紙に同封されていたパンフレットの内容を思い浮かべた。
「凄いですね」
「そうだ、アキトさん達も行きませんか? 確か今度の連休というか今月は暇になったでしょ」
誘う第一候補であった事もあってシンジは誘うことにした。まあ、アキトの場合は自分が誘わなくても、誰かに誘われたとは思うのだが、ルリ達の事もあったので自分が誘うほうがアキトにとっても都合がいいだろうという思いがあった。
「そうなんだよな、サイゾウ師匠に手紙が来たと思ったら用ができた今月は店を閉めるっていって料理道具一式もって出て行ったんだよな」
「うちもですよ。ホウメイ師匠に手紙が来たと思ったら同じように出て行きました」
アキトとシンジはお互いの師匠の突然の行動を思い浮かべて苦笑し合った。
シンジ達の通う大学の近くに美味いと評判の店が2店ある「日々平穏」と「雪谷食堂」である。この二つの店は隣合っており、この店の料理人はお互いをライバルとし、切磋琢磨し合っていた。結果、そこらにある料理店では、太刀打ちできないほどの美味さを誇り、2店の周辺には飲食店は成り立たず、かろうじて喫茶店があるぐらいである。
アキトは幼い頃からコックを夢として、シンジは最初は必要を迫られて始めたのだが、思いのほか楽しく嵌ってしまい、それが高じて本格的に目指そうと志した。
そんな彼らは高校時代に本格的に弟子入りしたのだ。お互いライバルではあるが、丁度、年代も同じで馬も合うとあって友人として付き合っている。
その関係でシンジは星野ルリ、天河ラピスラズリと知り合っていた。本来なら大学になぞ行かず、専念したい所であったが、お互いしがらみがあって、大学は出ておけと肉親に言われており、仕方なく店の近くにある大学を受ける事にしたのである。
それに、その大学の学科の単位取得が受講よりも試験で得られるモノが殆どとあって、比較的時間も作り易く修行に専念できる。それは二人にとっては好都合であった。
だが、この大学はあまりにもシンジ達、いや、シンジにとって好都合すぎた。なぜならシンジがこの街にやって来て半年後に開校しているからだ。そこには父の影がちらついているようでならない。
それが嫌でNERVから飛び出したはずなのに、今でも父の掌で踊っているようにしか思えないシンジであった。
「うーん、でもな。それって泊りがけになるんだろ?」
シンジの誘いにもアキトは渋い顔をした。親の仕送りがあるとはいえ、仕送り自体は最低限のもので、遊びなどに使う金は自分で稼がなければならない境遇であったからだ。
「そうなりますね」
「え、そうなのか? 俺は航空機のイベントだけを考えていたんだけど」
シンジの言葉に最初に誘っていたヒカルは驚いた。
「僕は一応、正式に招待を受けているからね」
「なんだって!本当かよ。じゃ、ジオフロントにも入れるのか?」
シンジの言葉にヒカルは猛然と迫り、シンジは仰け反った。
「入れるよ。開催式はジオフロント内であるし、正式招待客は参加できるからね」
体勢を整えながらヒカルを落ち着けて説明した。
「いいなー。俺も入りたい」
「入れるよ?」
「本当か!?」
ジオフロントは普段は一般に開放されていない為、たまに雑誌などのメディアでしか情報を得ることが出来ない。そんな所にあっさりと行けるという言葉にヒカルは興奮した。
「ただし、僕と一緒の場合だけど」
「じゃあ頼む!」
「アキトさんやルリちゃんそれにラピスちゃんはどうします?」
シンジはアキトを挟んでいるいるルリ、ラピスが行きたいというオーラを立ち上らせているのを見た。
「泊りがけとなると費用がな」
二人の様子に気づかずアキトは生活がかかっているので慎重であった。
「私は行ってみたいです」
「私も・・」
そんなアキトにルリ、ラピスの二人は期待の目を向けた。
「なんとかするか」
滅多に我侭を言わない二人の態度にアキトは少し溜息をついて折れた。
「嬉しいです」
「楽しみ・・」
アキトの言葉に二人はパァっと喜び笑顔を浮かべるのを見て骨を折る甲斐はあるとアキトは思った。
そんなアキトにシンジは助け舟を出した。
「アキトさん、その辺は大丈夫ですよ? 招待状もっている人は費用全てNERV持ちですから。それに僕が持っている招待状7名までいけます」
シンジの言葉にその場に居た全員は素直に喜んだ。確かに宿泊代などはNERV持ちではあるが交通費は違うことは黙っていた。シンジにとって金は自分一代では使い切れないほど持っているので、負担するのは大した事ない。それよりも、金ごときでみんなが笑顔でいてくれるならばそれが一番と思っていた。
「でしたら、後二名行けるんですよね?」
その場に居る人数をカウントしたルリが言った。
「一応、コウって奴を誘っているんですけどね」
「それでも一名は行けるんですよね?」
そう言って、意味ありげにアキトの方を見るルリ。シンジはルリが何を言いたいのか察した。
「まあ、残り二名については、行きたい人が居れば早い者勝ちという事で、良いんじゃないかな? 連れて行きたい人がいるなら言ってください、アキトさん」
「シンジ君なんで、俺に振るかな」
アキトはシンジに振られ、脂汗を流していた。
「そうですよ、天河先輩。ミ…」
「言うな。皆までは」
ヒカルの言葉を、アキトは慌てて遮ぎった。
「いい加減、覚悟を決めたほうが良いですよ…でないと私踏ん切りつきません…」
ルリはアキトに言った。最も後半は小声で、誰にも聞こえなかったが。
「アキト兄、ユリカなら私いいよ?」
ラピスラズリも、ルリの言葉に乗って追い討ちを掛けた。
「そうですね、今の状態だとその内、刺されますよ。誰にとは言いませんが」
シンジも尻馬に乗って、容赦なく追い討ちした。
「ぐっ……ハッ!! シ、シンジ君、急に用ができた。詳しい事は後でラピスに聞く。よろしく!」
シンジ達のコンビネーションに、ダメージを受け凹んでいたアキトだが、いきなり焦りだし、返事も聞かずに一目散にその場を立ち去っていった。
「どうしたんだろう、天河先輩?」
いきなりな行動にヒカルは首をかしげた。他の3人には原因が分かっていた。付き合いが長いのだから。
「何時もながら、素早い」
「よく判りますね。感心します」
「アキト兄…」
シンジ達は、それぞれ観想を述べた。
「そろそろだな」
「来ますね」
「ヒューマノイド・タイフーン…」
何気にシンジ達の息は合っていた。そして、アキトが立ち去った、反対側から土煙が見えた。騒音を発しながら。
「アキトー! アキトはどこーっ!」
「おーい、天河ぁ!」
「アキトさーん、メグミはここでーす!」
「もう、アキト君、恥ずかしがらないで出てきなさーい!」
大音量とともにヒューマノイド・タイフーンが出現した。
「うわー」
このヒューマノイド・タイフーンに慣れていないヒカルは巻き込まれ、跳ね飛ばされた。だが、そんなものは路傍の石と気づかず、ヒューマノイド・タイフーンはシンジ達の前で急停止した。
「ねえ、アキト、アキトを見なかった?」
「天河はどこだ? 隠すとひどいぞ?」
「アキトさんはどこへ行ったか、教えて? でないと不幸になります!」
「アキト君の居場所は? 教えないとお仕置きよ?」
ヒューマノイド・タイフーンを構成する方々が、シンジ達にアキトの居場所を要求した。その率直な態度にシンジ達は溜息をついた。その動きはシンクロしている。
「相変わらずですね、ユリカさん、リョーコさん、メグミさん、エリナさん、あれ? 今日はカグヤさん居ないの?」
「あー、シンジ君、今すぐここにアキトいたでしょ。どこ?」
今気づいたといわんばかりに、ミスマル・ユリカはシンジに言った。というか叫んだ。堪らずシンジ達3人は耳を手で押さえた。
「もう、ちゃんと人の話を聞く。ぷんぷん」
シンジの問いかけを聞いていなかったのを棚に上げて、ご立腹するミスマル・ユリカ。これでも、大学ではトップを維持する才媛である。しかも、スタイル良し、顔良し、の抜群の女性であり、ミス・キャンパスにも選ばれたことがある。文句無しの美女と言っていい。ただし、性格を除けばであるが。
(人は見かけによらないとは言うけど)
溜息をつくと幸せが逃げていく、と言われるが、今までの人生を振り返ってみれば、幸薄いのだから今更と気にせず連発するシンジ。
「そう思うなら、もう少し音量下げてもらえませんか」
「で、どこなんだ?」
いらただしげに問いただしてくるのはスバル・リョーコ。剣道部に所属する、全国でも十指に入る剣士。というか剣豪という方が、ぴったりのイメージなショートカットの凛々しい美人である。
「そうです。どこです?」
その魅力的な美声で、人を惹きつけてやまないのは、大学に通いながら声優業を営んでいるメグミ・レイナード。その魅力に只今、人気急上昇中でカルトなファンクラブを持っている。
「カグヤさんなら、今日はおじいさまと用件があるとか、言ってたわ。ちゃんと情報を与えたんだから教えて頂戴。”Give and Take”は商売の基本よ」
一件、一番まともそうに見えるが、アキトが絡むと理性も消えうせるので、あまり信用できないエリナ・キンジョウ・ウォンである。この女性も多少きつめの印象を与えるが美人である。
「まあ、それなりに行方を知らないわけじゃないですけど、目的は何です?」
シンジの問いかけに、良くぞ聞いてくれました、といわんばかりに一斉に4人が喋りだした。
「あのね、お父様が今度の連休にあるNERVでのイベントの招待状をくれたの。でね、アキトと一緒に行こうと…泊りがけで若い男女…もう決まりだよね。…ユリカ、綺麗だよ、そんな君が欲しいって、キャッ…イヤンイヤン…でもでも…」
「まあ、なんだ、NERVに勤めている親父がさ、連休にあるNERVのイベントの招待状をくれてさ、いい機会だから、そ、そのー、かっ、彼氏を紹介してくれって言ってさ」
「今度の連休に、NERVのイベントに参加する事になったの。それの伝手でアキトさんも、イベントに行かないかなって。ずっと、お仕事って訳でもないから、空き時間はプライベートに使って良いって、マネージャさんが言ってくれたの。それで…」
「私が勤めているネルガルに、NERVから招待状が来たの。商売相手の視察がてらに行こうと思っているんだけど、一人は寂しいからアキト君はどうかなって。別に、それ以外に下心はないわよ? …本当よ」
とりあえず一斉に言っているので、何がなんだかわからない。ルリやラピスなどついて行けず目を回しそうだった。止めなければ、延々と続きそうなのでシンジは止める事にした。
「あの、皆さんちょっと止めてください。一斉に喋られると何を言ってるか、解らないんです。僕は聖徳太子じゃないですから」
何とか同時に複数の人から話を聞けた、と云われる伝説の偉人の名をあげながら、シンジは彼女達の話を止めた。いや、止めようとした。が、ヒューマノイド・タイフーンの名に偽りなしと効果がなかった。もはや、お約束とばかりにシンジは溜息をついた。この街に来てからその回数は鰻上りであった。
「黙ってください。でないとアキトさんの居場所、教えませんよ」
そう言ったとたん、ピタリと話がやんだ。そんな様子に、再びシンジは溜息をついた。
「いいですか、どうやら皆さんの目的は同じようです。」
「「「「なんですって」」」」
いきなり声を合わせ、互いを宿敵とにらみ合った。そこには一般人でもわかってしまう程、殺気に満ち溢れた。
そんな様子を少し安全な距離に離れてルリとラピスは見ていた。
「…ルリ、先ほどのみんなが言っていた事、わかった?」
「かろうじてユリカさんの妄想部分だけ。何だかんだ言いつつ、シンジさん、皆さんの言った事、わかったようですね…」
先ほどシンジが引き合いに出した人物と、同じことできてるんじゃないの? と疑問に思いつつ二人は傍観を決め込んだ。今の状態の彼女達に係わるのは、えらく疲れるのだ。
「むう、アキトは私が好き! だから、あなた達はお呼びじゃないんだから!」
「はん、ノータリンが何をいっている!」
「そうです、アキトさんが好きなのは私です!」
「無い胸はだまって!」
「な、無い胸ですって、違います! 私は人並みです。あなたが規格外なんです」
「胸は大きさじゃないのよ。形よ形」
「その辺の見解はアキトさんに委ねるとして、問題はアキトさんは一人だけという事です」
このままじゃ収拾がつかないと、シンジは言い争うヒューマノイド・タイフーンな方々に口を挟み、話が変な方向に向かおうとしていたので、方向修正をする。さりげなく火種を投入しているが。
「「「「そうよ、問題だわ」」」」
「そ・こ・でっ! です。最後まで聞いてくださいよ? これからアキトさんが潜伏・・いえ居そうな所に心当たりが複数箇所あるので、それをお教えします。その中で一番早く見つけた人が、アキトさんの今度の連休での相手とします。判定は僕の携帯にアキトさんと共に連絡ください。ずるしたり、連休中での妨害等を行ったときには、それ相応の報いを受けてもらいます」
言い切るとシンジは口元に笑みを浮かべた。その笑みは知っているものが居たなら父親そっくりだというものだった。
「えーなんで、なんでシンジ君が仕切るのー」
「そうだ、どういうことだ碇」
「横暴です」
「不服だわ」
シンジの笑みに気づかないヒューマノイド・タイフーンな方々は不満をあらわにした。
「えーい、黙ってください。あなた達が今まで壊した大学の設備、誰が補償したと思っているんです? 僕ですよ? 僕! 本来でしたらあなた方に請求が行っているものです。あなた達が裕福な出だからといっても、個人で出すには結構な額ですよ。従ってもらえないなら、今すぐ払っていただきましょう」
そういってシンジは4人に請求書の束を見せつけた。
「えへ、わかったわ、シンジ君」
「まあ、しゃあねえよな」
「そうですね」
「ほほほ、いやだわ」
その請求書の束を見て、急に態度を変える4人。その様子を見ていたルリ達。
「シンジさんて策士ですね。でも、いつもユリカさん達が壊していた物を、弁償していたのがシンジさんだった、というのは知りませんでした」
「シンジ、アキトに請求が回されない様にって、話しつけていた」
「そうなんですか?」
「うん」
ルリ達は、シンジの気づかない所での気配りに感心していた。そんなやり取りをよそに、シンジは話を進めていた。
「いいですね? くれぐれも約束は破らないように。破ればお仕置きです」
「げっ、シンジのお仕置きだって」
いつの間にか復活を遂げ、ルリ達が傍観を決め込んだ所に、避難していたヒカルがシンジの言葉に大げさに反応した。
「知っているんですか?」
「まあ、俺は受けた事は無いけど。受けた奴がどうなったかは知っている…」
ヒカルの青ざめた顔にろくでもない予感を感じる一同。
「ど、どうなったんです?」
珍しく表情を強張らせながら、ルリは恐る恐る聞いた。心境は恐いもの見たさである。ラピスもまた同じよ想いのようであるが、無意識のうちにかルリの服の裾をぎゅっと握った。
「しばらくの間、壁に向かってさ、”逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ”って連呼したり、突然、”死ぬのはイヤ。死ぬのはイヤ。死ぬのはイヤ。死ぬのはイヤー!”って錯乱したりするんだ。あれほど怖いと思った事は、無いね。男も女も関係なく、今までの犠牲者は同じ結果だった…」
ヒカルはその時の光景を思い出し、ブルっと震えた。そんな気持ちを拭い和らげようと大好きな空を見上げた。
「そ、そうなんですか」
それを傍で聞いていた4人は脂汗をダラダラ流していた。
「別に破りさえしなければ、そんな事にはならないんですから。それに邪魔が入らずに連休中、ずっと居られるんですよ? チャンスじゃないですか?」
「そうだよね、私とアキトの間には何人も入れぬ、深ーい絆があるんだからっ!」
「そうだ、勝てばいいんだ」
「そうよ。勝利あるのみです」
「ふふ、勝てば官軍なのよ」
「では、今からGOです。がんばってください。朗報をお待ちしています」
シンジはにっこりと笑って4人を見送った。
「…てことがあったんだ。」
「それは私も聞いた事があります。噂だったんで余り信じる事はできなかったんですけど本当だったんですね」
「それとは逆にご褒美と言うのがある」
「「ご褒美?」」
「ああ、女性限定だけどな。実際の所どういう内容なのかは、男の俺にはわからない」
「な、何の話をしてるのかな?」
ヒューマノイド・タイフーンな方々を見送っていたシンジの耳にご褒美という言葉がやけに耳に残った。嫌な汗が背中を駆け抜けた。
「いや、まあ、何だ」
「・・シンジのお仕置きとご褒美について」
「ご、げふんげふん、あ、いや、失礼」
急に誤魔化すように咳き込むシンジにルリ達は目を細めた。
「何か怪しいですね」
「怪しい」
「まあ、アキトさんには困ったものです。早いとこ決着つけて欲しいですね」
ジトーと見られるのに居心地の悪さを感じて話題転換で方向を逸らした。
「アキトさんは優しいですから」
「アキト兄は優しい」
うまく釣れたと内心ほくそ笑みながらシンジは言葉を続けた。
「まあ、確かに。でもアキトさん流されやすいからな。どうも、流されて全員とやっちゃったみたいだし。泥沼だね。最近、うちのホウメイガールズのサユリさんとも、急接近しているし」
シンジが肩をすくめてみせた。
「アキトさん・・バカ」
「アキト兄は優柔不断すぎ」
(ああ、しまったー。僕への追及をかわす為に、つい余計な事を言っちゃったよ。どうしよう、二人の機嫌がめちゃくちゃ悪くなっちゃった…)
男と女の大人の関係など彼女達の年齢では不味いものがあるとシンジは自分の軽率な発言に場の雰囲気が悪くなってしまい後悔した。
今時は情報が氾濫しているのでシンジが思っているほどルリ達は無垢ではない。シンジが想像している以上にそういった性に関する事については耳年増になっていた。
シンジにしてみれば、自分がルリ達の年頃の時はある程度知っていても、潔癖なとこがあり性に関して嫌悪していた部分があったのを照らし合わせ少し慌てた。
旗から見ればそれ程、懸念するような事ではないのだが当事者のために気づけないでいた。
「シンジ、詳しくは後でな。お、俺バイトあるから」
何とはなしに危険な匂いを感じ取ったヒカルは、耐え切れなくなって逃げ出した。
(ヒ、ヒカル、僕を見捨てるのか!?)
(す、すまん。シンジ。俺はまだ生きてやらなくちゃいけない事があるんだ!!)
シンジとヒカルはアイコンタクトによる会話を行ったが、不毛な結果に終わり、シンジは覚悟を決めた。
「ルリちゃん、ラピスちゃん…機嫌悪いんだね」
「そんな事、無いですよ。ええ」
「アキト兄もそうだけど……シンジも女の人については人に言えない」
「な、何のことかな?」
「アヤカ、マキ、ナオ、ミコト、ヨーコ、ヤヨイ…」
「なっ!?」
身に覚えのある名前を言われてシンジは上半身を仰け反った。
「あと、クリスティ、レイフォン、シーナ、ユカリ。数で言えばアキトさんよりも、はるかに酷いです」
「うっ!?」
「昨日はアリアとキョウコ・・・他にまだ居そう」
殆どストーカーでもしているんじゃないか? というぐらいシンジは、自分のプライベート情報が二人に筒抜けになっていた事に驚愕した。
「ど、どうして、それを!?」
シンジは言葉尻に動揺を隠せず震えた。
「最近、親切なねずみさんが教えてくれるんです。嬉しそうに」
にっこりとルリが笑った。人が見れば見惚れてしまいそうな可憐な笑顔であった。だが、ルリを良く知っているシンジにはその笑顔の裏に隠されたものを読み取り戦慄した。
(くっ、ハーリー君か!? いくら何でも君がルリちゃんに好意を持っているからって、これは無いんじゃないかっ!?)
シンジはアキトと自分の弟分であるマキビ・ハリを、この時ばかりは呪った。マキビ・ハリとはオールバックをした生意気盛りな少年で親しい者からはハーリーと呼ばれていた。
”シンジさん、色恋の前には情なんて無力なんです。シンジさん達には悪いですけど、僕がハッピーになる為です。あきらめてください”
そうシンジには、ハーリーの爽やかな笑顔と共に声が聞こえた気がした。
「と、とりあえず、ここで突っ立っているのもなんだし、どこかでお茶でもしようか」
シンジはとりあえず、ご機嫌取りでこの場を脱出する事を選んだ。
「そうですね。それなら駅前にいい店があります」
「そこのケーキが評判」
「じゃ、じゃあ、そこに行こうか…。僕が誘ったんだから当然奢るよ」
だが言った瞬間、シンジは気が動転していて自ら深みに、そう、自ら追及の場を提供するという愚を犯した事を悟った。
「分かりました。案内します。じっくり話し合いましょう。アキトさんについてもよく知っていそうですし」
ルリは満面の笑みを浮かべて言った。その笑みに最初から自分が少女達の掌で踊っていた事を悟った。
「行こう…」「行きましょう」
二人の少女はがっくりと顔を俯かせるシンジの左右に立ち、それぞれの腕に自分の腕を絡めると目的の場所へと歩き始めた。本人達は連行しているつもりだが、傍から見れば両手に花の状態であった。
心なしか連行している彼女達も嬉しそうにしている様子なので、その印象に拍車を掛けている。なお、それを見た彼女達のファン達の抹殺対象No.1にアキトを抜いて赤丸急上昇したらしい。
ついでの余談だが、オールバックの男の子がその光景を見て、うわ〜〜ん、と泣きながらどこかへダッシュして言ったそうな。
(…ごまかせたと思ったんだけどなあ。やっぱり、ルリちゃん達は甘くないか…とほほ、これというのも最近、アキトさんが二人にかまってあげなかったからだ。そうに違いない!)
連れて行かれるシンジには、当然ながら浮かれていられるような心情じゃなかった。シンジは二人に挟まれたまま連れて行かれるのを、そのままに溜息をついて空を見上げた。そこには、どこまでも吸い込まれそうな青が広がっていた。
(あれからもう6年か…早いもんだな。ねえ、加持さん、ミサトさん、カヲル君、僕は正しかったのかな?)
今はもう居ない兄、姉、親友だったかもしれない者達に青年は問いかけた。
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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。