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新世紀エヴァンゲリオン 無敵の・・・
第01話 「シンジ襲来」 A-PART
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空は青く広がり太陽がさんさんと輝く真夏のような日。ある少年と二人の少女が次期首都として開発された地、新第3新東京市に迎え入れられた。この日、この時、この都市がこの少年を迎え入れたのを境に穏やかに流れていた人類の命運は急転する事になる。
「ふう、やっと着いた」
暑い日差しの中、駅前の広場に一人の少年が手に持っていたボストンバッグを置いて汗を拭きながら言った。少年は線が細く、一見すれば少女と見間違えるような中世的な印象を与える。
「そうですわね。でも、予定より速く着きましたわ」
そう言ったのは少年の連れとして一緒に来た少女だった。少女は長く腰まで届く豊かな黒髪を白いリボンで背中辺りでまとめていた。見るからにおとなしそうな印象を与える。彼女も少年に倣うように荷物を置いた。
「良いさ、待たせるよりは待つ方が気が楽だし」
「本当です。どうでしょう、待ち合わせの時間までまだあるから何処かで休みませんか?」
そう言ったのは少年のもう一人の連れの少女で長く豊かな黒髪を赤い紐でポニーテールにしていた。その為かもう一方の少女と違い活発という印象を与える。この少女達、顔つきが似ていたりするのでおそらく姉妹と思われる。彼女達は少年よりも2,3、年が上のようであるが少年に対しては目上のように扱っていた。
「そうだね。そうしようか。丁度、お昼時だしね。それにしても、なんだか視線を感じるね?」
少年は言った。それはそうだろう、何故なら彼等の格好が普通ではなかったからだ。少年は白の紋付袴、少女達は薄紅色の小袖に緋の袴だったからである。そこだけが時代劇に出てくるような時代錯誤な格好であり、激しく周りから浮いていた。最もそれだけではなく少女達は見目麗しく似合っていた事も注目されていた事があげられる。もちろん、少年自身も十分に美形ではあるが少女達に比べるとやはり見劣りするが。しかし、彼等は何故注目されるのか皆目見当がつかないといった表情であった。
少年は居心地悪そうに周りを見渡し、視界に喫茶店「はるみ」という看板が入った所で目を止め、彼女達に言った。
「待ち合わせに近いあそこにしようか?」
「「はい、シンジ様」」
少女達は少年、シンジの意見に賛成した。
「じゃあ、行くよ。マイ、メイ」
そう言ってシンジは置いた荷物を手にするとさっさと歩き出した。
「あっ、はい。行きましょ、メイ」
「はい、マイ姉さま」
マイ、メイとシンジに呼ばれた少女達も荷物を手にするとシンジを追いかけた。
*
目に入った近くの喫茶店にて、少年少女達3人は軽く昼食を取った。
「しかし、この辺って物価が高いな」
「仕方有りませんわ、都会は何かと物高いといいますし」
「なんだか物足りません」
「メイはよく食べるからね。僕のを半分あげるよ、今日は少々食欲が無いんでね」
そう言ってシンジは自分の頼んだサンドイッチの残りを正面にいるメイに差し出す。
「いいんですか?」
メイと呼ばれたポニーテールの少女は嬉しそうに言った。
「残すのは勿体無いからね」
「では戴きます」
そう言ってシンジに差し出されたサンドイッチの乗った皿を手にした。
「大丈夫なのですか?」
シンジの隣に座っていたマイが心配そうに問う。
「大丈夫だよ、マイ。それに」
シンジはマイの耳に口を寄せて囁いた。
「本当は今朝、ルイ姉さんにたらふく食べさせられてお腹一杯なんだ。暫く食べれなくなるだろうからって」
シンジはマイから体を放してニッコリと微笑んだ。そう言われたマイは少し複雑そうな顔をした。メイはそんな二人に気にせずサンドイッチを食べる事に専念していた。
「ねえ、シンジ様」
「なんだい、メイ?」
「シンジ様のお父上は何故今頃になって、シンジ様を呼ばれたのでしょう?」
食事を終え一息つく為に紅茶を頼んだ時、メイがシンジに問うた。メイはシンジが父親に呼ばれたとしか聞いていなかったからだ。
「さて? と、普通なら言うんだろうけどね」
「うちでも判らなかったのですか?」
「いいや、そんな事は無いよ。何といえばいいか、どうにもふざけた理由だよ」
「それでしたら、無視なされば良いのではないのですか?」
マイが別に従わねばならない義理は無いはずとシンジに言った。
「はた迷惑な事にそれができないからこうして出てきたのさ」
シンジは苦い顔をして言った。
「…だから15歳で行うはずの成人の儀が繰り上げて行われたのですね」
シンジの表情からそれがどうやらシンジの命にも関わる事であることをマイは認識した。
「そう言うこと。はた迷惑な事だよ。僕はもう少し皆に甘えていたかったのに」
「シンジ様、私でしたら何時だって甘えていただいていいのですよ?」
「マイ姉さま、抜け駆けはずるい! シンジ様、私もマイ姉さまと同じ気持ちです」
メイは体を乗り出してシンジに自分の想いを訴えた。
「はは、ありがとう、二人とも。その時は遠慮なくさせてもらうよ」
あまりのメイの勢いにシンジは押されながらもはっきりと返事した。
「「はい」」
二人の少女は見ほれるほど綺麗な笑顔を浮かべた。その直後、
ウォーーーーーーーーン
サイレンが鳴り響いた。喫茶店にいた人々も一瞬何事かと唖然としたがその意味が理解できると慌てて動き出した。(注1)
「やれやれ、はた迷惑な理由がやって来たようだよ」
そう言ってシンジも立ち上がった。それに倣うようにマイ、メイも立ち上がる。
「あっ、シンジ様、迎えの方が来ているようですよ?」
メイはそう言って喫茶店の窓から見える駅前広場の方を指し示す。そこには以前に父親からシンジ宛てに送られてきた手紙に同封されていた写真の女性が広場をウロウロとしているのが見えた。距離的にはそれほど離れてないとはいえそれでも初めて会う人間を見分けられるとはかなりいい目をしている。
「あら、本当ですわ。あのハレンチな写真の方ですわ」
マイは同封されていた写真の内容を思い出し、口に手を当てて言った。それは、普通ならいささか青少年には刺激が強すぎるのではないかというものであった。普通に写していたなら別段問題なかったろう。ただ、なぜか胸の谷間が写るようなポーズで写した写真だったのである。
更に、その写真にマジックでその谷間を矢印で指して「ここに注目」とまで書き込んである始末。こんな写真を初対面の人間に送りつけるとは何を考えての事かとマイだけでなく他の姉妹もあきれた。写真自体から悪い人間ではなさそうだというのは判るがそれでもいささか常識に欠けると判断できる。何も本人だけが見るとは限らないのだから。この写真の女性、葛城ミサトはシンジ達に会う前から信用株は最低だった。
「本当だね、じゃ、待たせちゃいけないから行こうか」
そう言ってシンジは荷物を持ち、ウロウロとシンジを捜しているミサトに出会うために喫茶店をでた。少女達も荷物を持ちシンジの後について出た。
*
葛城ミサトは待ち合わせ場所であせっていた。ここに来る直前でいきなりの緊急警報。待ち合わせ時間まで後15分はある。迎えるシンジの到着予定は同封した指定切符を使っていれば待ち合わせ時間の5分前である。しかし、先程の緊急連絡での報告によるとその指定した列車にはシンジは乗っていなかったらしい。ミサトは蒼白になった。まさかの時の為に必要な駒、サードチルドレンのロスト…そのショックは強烈で思考が数秒空白となった。
忠実なる副官の懸命な呼びかけが無ければ、そのまま意識を失っていたかもしれない。ミサトは飛びかけた意識を強引に引きとめ対処方法を考えた。可能性は大きく3つ。予定の電車より早く乗ったか、遅く乗ったか、若しくは乗らなかったかだ。
早くならもう既に待ち合わせの場所にいるはず、これについては今ミサトが殆どその場にいるような距離だから自分が処理すればOK。
遅く乗っていたなら、未だ車中か途中の駅に下車したかである。これはNervの誇るスーパーコンピューター<MAGI>を使えば判るはず、判明すればその距離によってミサトの車で行けば速いか、ヘリで行けば速いか判断がつく。
乗っていないとなるとこれは完全にNervの影響下にある軍基地からヘリを飛ばしてもらい確保する必要がある。
ミサトはそれぞれの対処法を上げ、それに従って副官に指示を出していた。
そして、今、ミサトは一番低い可能性を確かめるべく待ち合わせの駅前広場に来ていた。辺りは急いでシェルターへ向かう人々が見えた。
「あちゃー、私とした事が」
ミサトはある可能性を考慮していなかった事に気が付き急いで副官に連絡を取った。
「あ、もしもし、日向君、私、葛城一尉です。ごめん、待ち合わせの駅前広場から近いシェルターにサードチルドレン、碇シンジ君が入ったか確認して頂戴。ええ、それと<MAGI>に駅前広場に碇シンジ君が来ていたかも確認してくれる? …えっ? 何? 今、<MAGI>は未確認敵性体の分析に全力を挙げていてこちらの処理は優先度が低い? (く、こういう時は技術部のほうが優先されるんだったわ)判ったわ、私、作戦本部部長が持っている最大優先権で行って。一寸まって」
ミサトは会話を区切ってジャケットのポケットに手を突っ込み紙片を幾枚か取り出した。その紙片を順番に確認してゆく。
「えーと、有った。いい、許可コードはA03Q−XSJK−456G−WX99よ。判っていると思うけど有効回数は1回きりだからコマンド間違えちゃダメよ。じゃ、判り次第、連絡頂戴」
ふう、ミサトは一息ついた。
「さーて、碇シンジ君は居てくれてるかな」
やる事はやったとミサトは再びシンジは居ないかとキョロキョロと広場を見渡し始めた。
「あの、」
ミサトは不意に背後を取られたと感じた瞬間、反射的に銃を声を掛けた人物に向けていた。
「か、葛城…ミ、ミサトさん…で・す・よ・ね」
ミサトが認識したそこには少々腰が引けた少年が居た。ミサトはあっけに取られた。自分が気配を察知できずに背後を取られ反射的に銃を向けた先に自分の目的である少年碇シンジが居たのだから。心に余裕があったならその辺をもう少し考察もできただろうがあいにく、今の彼女には待ちに待った時が来た為、心がはやり余裕が無かった。
「こら、無礼者、さっさとシンジ様に向けた銃を下ろさないか!」
メイがミサトが一向に銃を下ろす気配が無いので怒鳴った。マイは表面上は落ち着いていた。内心はどうかは分からないが。
「えっ、あっ、ごめん、ごめん(な、なに? この子。随分昔気質な子だけど)」
ミサトは頭をかきながら銃をしまいつつ謝った。シンジも姿勢を正し直した。背後から不用意に近づいてしまった事がシンジ達には分かっていたのでそれ以降は何も言わなかった。
「葛城ミサトさんですね」
「あなたが碇シンジ君ね?」
「はい、そうです」
「そちらのお嬢さん達は?」
「僕の連れで従姉妹の碇マイ、メイです」
シンジが姉妹の紹介をするタイミングでそれぞれマイ、メイはぺこりとお辞儀した。
(リツコ、シンジ君に連れが居るなんて聞いてないわよ。まったく、どうすりゃいいっての。まあ、いいわ。状況を考えればこの二人を利用できるかもしれないし)
「…そう、よろしく。葛城ミサトよ」
「「はい、よろしくお願いします」」
少女達はもう一度お辞儀した。その時、心の余裕を取り戻したミサトは漸く彼等の服装に気が付いた。
(な、何? この子達の服装、か、変わってるわね。でも、堂に入ってる。着慣れているわね、こりゃ)
「どうかしました、葛城さん」
少々、戸惑いを浮かべたミサトに心配そうにシンジが声を掛けた。
「いや、ちょっちね」
まさか、シンジ達の服装に驚いたとは言えずミサトは誤魔化した。
「そうですか」
「あ、私の事はミサトでいいわよ?」
「それは、その、初対面の方ですから、その…」
シンジのもじもじとした言い方にミサトは苦笑した。
「(何か、奥ゆかしいというか)そう」
「すいません」
「ううん、こちらこそ。ごめんね。さあ、それより行きましょうか。少々、状況が変わったから急ぐわ。着いて来て」
「「「はい」」」
シンジ達はミサトに着いて行き、車に乗り込んだ。その行き先は中学生、いや一般人であれば地獄と差し支えない場所であった。
*
「目標、捉えました! 間違いなく報告にあった未確認敵性体です!!」
オペレータの声があたりに響いた。その場所…国連に属する非公開の一機関Nerv(ネルフ)の第一発令所と呼ばれる…は世界でも有数のテクノロジーを結集して作成されている管制制御システムがある。そして今、その自慢のシステムがフル稼働し様々な情報を処理していた。ここは今、世界の中でも最も緊迫した状態にあり、そこにいる人々は慌しく送られてくる情報を処理すべくオペレーターが奮闘していて様々な喧騒が起こっていた。その内容は現状方向であったり、統括指揮下にある者達への上からの指示を伝達するなど様々であった。
「ベータ分隊が攻撃を開始しました!」
「アルファ分隊の攻撃、効果なし!」
「未確認敵性体、ベータ分隊に反撃!」
「被害状況は!」
「ダメです。ベータ分隊、通信途絶!」
「くっ、オメガ部隊の作業状況は?」
「はい、進行度は45%、予定内です」
「続いてアルファ部隊も通信途絶」
「第二防衛ラインへ展開中の部隊を下げろ。態勢を整えるんだ」
「はっ、各戦車部隊へ第二防衛ラインへ後退せよ」
「観測隊より入電、アルファ、ベータ共に全滅を確認」
等の未確認敵性体との交戦状況が逐次報告処理されていた。
「くそ、機銃やミサイルがまったく役に立たないとは。どういうことだ」
ドン!
この発令所で今指揮を担当している将官の三人の内の一人Aが報告を聞き苛立たしげに拳を目の前のデスクに叩き付けた。
「このままでは、いらぬ犠牲を強いるばかりだぞ?」
将官の一人Bがその苛立っている同僚に忠告する。
「分かっている。その為に例の作戦が進行中だ」
「どんな犠牲を払っても準備が整うまで足止めせねばならんか…」
将官の残りの一人Cが被っていた制帽を目深に被りなおし言った。
「そのとおり。それが俺達、国連軍の存在意義だ。敵が何であれ俺達は世界の秩序を乱すものを倒さねばならんのだ!」
苦虫を噛み潰したように苛立っていた将官が言った。そして、発令所の正面のど真ん中に投影されている戦況を示すスクリーンを睨み付けた。その視線でこの未確認敵性体が殺せたらという念が込められていた。
「少し冷静になれ。我々はセカンドインパクト後に何度も同じような思いを味わっただろうが」
将官Bが将官Aを宥める。
「分かっているとも、それぐらいはな。だが、それに慣れてはいかんのだ!」
ドン!
再び将官Aが拳を目の前のデスクに叩き付けた。それを見た将官Bと将官Cはお互いに顔を見て肩を竦めた。
そんなやり取りを冷ややかな目で見ている者達が二人いた。彼らは将官のいる作戦部よりも上段に位置する司令部いた。彼らはここNervという組織の長とそれを補佐する者だった。彼らには今のところ国連が主導を握っており、自分達の出番が無い為、状況を見ている事意外にやることがなかった。
「15年ぶりだね」
淡々と事実を話すのはNervにおいて副司令の役についているロマンスグレーの髪に温和そうな顔立ちをしている冬月コウゾウ。彼は司令席に座る長年の相棒、Nervにおいて司令に就いている男、碇ゲンドウに話しかけた。
「ああ、間違いない。”使徒”だ」
この冬月に答えた碇ゲンドウという男はこんな所よりヤクザの事務所で座っているのが似合うような雰囲気をもっていた。その彼は司令席にて肘をつき手を口元で組んでおり何を考えているのかわからない。冬月はそんな碇ゲンドウの後ろで、背をまっすぐに伸ばし、後ろ手に組んで立っていた。二人はスクリーンに映し出されている未確認敵性体を注視していた。この二人には未確認敵性体が何なのかを知っていた。Nervはこの未確認敵性体…”使徒”を迎撃する為に設立されたのだから。
「碇、それより聞いたかサードチルドレンの事を?」
「ああ、シ、…サードチルドレンのロストの事だな」
碇ゲンドウが冬月の問いに答えた。
「(無理しおって…)保安部の怠慢だな」
「処分は今目の前の件を片付けてからだ。でなければ、何も始まらない」
碇ゲンドウは肘をついて手を口元で組んだ姿勢で答えた。彼がイスに座っている時は大抵このポーズをする。
「奴らN2兵器を使うつもりだぞ」
冬月は下のやり取りを聞きながら言った。
「ああ、問題ない。N2兵器でさえ奴の前には無力だ。かえって奴らの打てる手段が無くなり素直に指揮権がこちらに移る」
碇ゲンドウは淡々と述べ、もうそれが事実なのだと断定してさえいた。
「ATフィールド(アブソリュート・テラー・フィールド)か…まったく厄介なものだよ」
「その為にNervがしいてはEVANGELIONがある」
「どうやら、N2兵器が投入されるようだな」
「ああ」
「N2兵器のデータとて貴重なものに変わりあるまい。データ取りを指示するか」
「必要ない、赤木博士にまかせておけばな」
(やれやれ、こういった態度を本人の前で見せてやれば良いものを…不器用な奴…)
冬月は碇ゲンドウの態度に嘆息した。
ドーーーン
スクリーンが一瞬の閃光(ただし、フィルターを自動でかけられて少しまぶしい程度)に包まれ爆音が発令所全体に響いた。暫くして静かになるスクリーンは爆発により生じた土煙を上げているためどんな様子になっているのか分からない。発令所にいるものは一部を除いた皆が固唾を呑んでスクリーンを見つめていた。
しかし、その場の静寂を破るものがいた。国連軍の将官達である。
「よし、やったぞ!」
国連軍将官の一人Aが立ち上がり喜々として喝采を上げる。彼は始めてみるN2兵器の威力に酔いしれていた。あれほどの破壊力を持ってすれば何者であろうと倒せると信じれたからだ。そして、その喜びも発令所にいる多くのものに伝播していく。
「残念ながら君たちの出番はなかったようだな」
別の国連軍将官の一人Bが後方に控えたNervスタッフに嫌味ったらしく言った。彼もNervの者達を快く思っていない。餅は餅屋に任せればいいのだと。学者上がりに出番は無いと思っていた。
だが、彼等の喜びも土煙が晴れるまでだった。段々と爆発が収まり土煙が晴れ行く中、未確認敵性体の一部が見えたような気がしたのだ。
「ま、まさか!」
将官Aが信じられんと叫んだ。
「あの爆発だ。ケリはついている」
信じたくないと思うが故にでた将官Cの言葉であった。
「センサー類回復」
「爆心地に、エネルギー反応感知!」
「なんだと!!」
オペレータの報告が将官達のはかない希望を打ち砕いた。発令所で喜び勇んでいた者達を嘲笑うかのごとくN2兵器により生じたクレーターの中心に未確認敵性体は立っていた。多少ダメージを受けてはいるようだが。
「ば、ばかな」
「くそ、なんて奴だ」
ドン!
将官Aは悔しさを目の前のデスクに叩きつけた。
「なんてことだ。街を一つ犠牲にしたんだぞ」
がっくりと肩を落とす将官C
「我々の切り札が。化け物め!」
座っている悔しげにわめく国連の将官B。
「やはりATフィールドか」
騒いでいる将官を尻目に淡々と言う冬月。
「ああ。あれがある限り我々にしか倒せんよ」
彼等には知っていたのた。あの未確認敵性体、”使徒”は通常兵器では倒せない事を
また発令所は未確認敵性体の状態に慄いた。N2兵器でさえ僅かなダメージしか与える事ができない事に。
「未確認敵性体はまるっきり被害が無かったわけではない。今ならミサイルでも効くかもしれん」
将官Bの言葉に指示を下そうと動き出したその時、追い討ちをかけるようにオペレータからの報告があがった。
「も、目標、自己修復しています」
その宣言と共に、未確認敵性体はスクリーンを睨みつけるような動作に入った。瞬間、未確認敵性体の顔と思われる部分にある瞳らしきものがチカッと閃光を放った。それと共にスクリーンは砂の嵐のようになり、何も移さなくなった。
「偵察機撃墜されました」
スクリーンを見ていた者達は何もいえなくなった。発令所に人のざわめきは無く電子機器の音だけが静かに流れた。
「自己修復、能力強化、それに知恵もつけたか。さすがに”使徒”」
そう言って冬月はため息をつく。
「そうでなければ自律兵器とはいえませんよ、冬月先生」
「それもそうか。”使徒”とはよく言ったものだよ、まったく」
「これで、彼等も打つ手が無くなったでしょう。我々の出番です」
そう言って碇ゲンドウは砂嵐となっているスクリーンを睨みつけた。
<続く>
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(設定解説)
注1)新第3新東京市においては非常事態が何時起きるか判らない為、基本的に飲食店については損害を極力無くす為に前金制となっている。
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注)新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。