The 48th story ローコ遺跡《その2》

『さて、雑談も程々にして行くか』
「そういうわけにはいかない」
四人が分担を決め四方へといざ向かおうという時、突然辺りにそんな声が響いた。
四人が未だハイドを掛けた状態のまま辺りを見渡していると、それを挟みこむように二人の人間が降り立った。
「……紫水、これは何の真似だ?」
依然ハイドを掛けたまま、目の前に降り立った女性に対して未徠はそう問いかける。
「はあ……」
紫水はバツの悪そうな顔をしてため息をついてから、
「つまり、潮時ということだ」
そう言って軽く手を振ると、紫水と明鏡とを直径として緑の半透明なドーム状の枠が四人を囲んだ。
それはトリル遺跡で聖流が玖蘭に掛けられたものと同じものだった。
「このまま進むとなるといずれデュート国の遺跡にも踏み込むことになるだろう。そうなる前にここで止める」
「ここはノール国だろう?デュート国魔法管理省職員にはそんな名目で拘束できないだろう?」
そう未徠が言う。
たとえここがノール国の立ち入り禁止区域だとしても、それをデュート国が取り締まることはできない、と。
「未徠」
「なんだ?」
「そもそも、未徠もその魔法管理省の職員だろう?そして省に無断でこうして行動をとっている。そのことを省に咎められないとでも思ったのか?」
「……だとしても、他のメンツには関係の無いことだ」
『未徠くん……、まさか一人で行く気じゃないよね……?』
莱夢が未徠にそう言う。
『未徠、一体どうするつもりなんだ?』
聖流が未徠にそう問う。
一方で柚愛は何も言うことなく、ただ状況を見守っているだけだった。
「他の三人をここから出せとでも言いたいのか?なら……」
「こうすれば、いいのだろう?」
言うが早いか、未徠は自らにかけていたハイドを解いてしまった。
『未徠!』『未徠くん!』
そう呼びかけるタシットが響く。しかし未徠はそれに答えなかった。
それどころか、紫水の方へと向かって一歩踏み出したのだ。
「このまま行かせたりはしない」
それを阻むように声がしたかと思えば、ハイドを解いた柚愛が未徠を背に紫水に向かい合うように立っていたのだった。
そんなことになっているとは露知らず、永輝と美琴はローコの街をのんびりと散策していた。
街は人が溢れんばかりに行き交い、空には雑多なほどに多くの建物が浮いている。
空には電線や通信用の線の類は見えず、電信柱も一つとしてない。
地上に直接建っている建物もあるが、それよりも上空に浮いている物の方が遥かに多い。
二人はそんな中を物珍しそうに眺めながら歩いていた。
ちょうど目の高さになるような位置でふわふわと浮かんでいるプランターや道路標識、宙を飛んで走る自動車やバス。
ハンドルとサドルにプロペラをつけたような乗り物が宙に浮かんでいたり。
「あんなのがあれば移動も楽なんだろうなあ……」
そう呟く永輝の傍ら、美琴が何処で貰ってきたのかパンフレットを眺めながら、
「法整備が整ってないからディーティじゃ乗れないって」
「そう……」
言って塞ぐ。美琴はそんな永輝を横目で眺めて、
「少し前にフライの魔法で飛べないかって言ってたでしょ?」
「うん。だけど、一人だと魔法を掛けることもできないからもういいやって」
一度空を見上げて、悠々と飛んでいる鳥に目を向けてから再び頭を垂れる。
「それくらい、私に言ってくれればいいのに」
「……気持ちは嬉しいけど、そういう意味じゃないよ」
言われて美琴は少し首を傾ぐ。
「たとえ飛べるようになっても、そのためにフライが自分で使えなきゃ意味ないでしょ、って」
「それは、私がいるから大丈夫だって」
「だからそういうんじゃないって。魔法の使える美琴には僕の気持ちなんて分からないんだよ」
永輝はぷいと美琴のいる方とは反対を向いてしまう。
それでも歩調を合わせて美琴と一緒に歩いているのは救いなのだろうか。
「……ごめん」
美琴は小さな声でそう謝ってみる。
だけども、それが本心でないということくらい永輝には伝わっているだろうと思っていた。
そうして、まだ自分が魔法使いだということを知らなかった頃のことを思い出してみる。
それもたかだか一年くらいでしかなかったけれど。
あの時抱いていた魔法使いに対する思い。
憧れ、望み、遠さ、羨ましさ、自分とは逸する存在、魔法という見えないもの。
特別な能力であることに対する妬みと、知らないものに対する恐怖感。
今こうして一つの手段として当たり前のように魔法を使っている感覚と、あの頃との差。
最初は使うことに抵抗もあったけれども、それよりも永輝に対して引け目を感じていたはずだった。
その引け目が何だったのか。それを思うと、そのくらいがよかったのかもしれない。
そんなことを思いながら、何の言葉を交わすこともなくローコの街を歩くのだった。

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