第十九話(S) 2人っきり

北ゲートの前で美樹ちゃんや仁志君と約束を交わした後、私達はとりあえず中に入ることにした。
入場料を払うためには大して並ぶことはなかったが、中は思いの他混んでいた。
日曜だけあってさまざまな年代の人が園内を動き回っている。
まだ小学生にも満たない子ども達は片手に風船を握っていたりもする。
園内は中央に大きな公園があり、その北側と南側にそれぞれ入り口がある。
入り口からは公園に向って直線の道があり、その道に対して左右に道が幾つもある。
西側にはあの大きな観覧車があり、東側には植物園が広がっている。
私と育人君は北ゲートから中央にある公園へ行き噴水を取り巻くベンチへ行く。
「それで……何に乗る?」
「もしよかったら、しばらくここにいない?」
遊園地といえばアトラクションがメイン。
ならそれに乗ってこそ来た意味があると思うのに育人君はここにいたいなんて言う。
「えっ、なんで?」
「なんだか、しばらくここでこうしていたくて」
と、自分で言って頬を赤くしている。
「ふ〜ん……私と二人っきりで?」
「えっ、それは……」
なんかまた始まったなって気分になる。
こうなるとまた自分で進めないと話は一向に進む気配を見せない。
「なら、ここにいよう。しばらく」
「う、うん……」
「それにしても、美樹ちゃんと仁志君は何処に行ったんだろう……」
私はそう言って噴水の周囲を見渡す。
噴水の反対側に見覚えのある人がいる。
「あれってもしかして先生じゃない?」
育人君はそれを聞いて私の指差したほうを向く。
「そうみたいだけど……」
どうやら前のソフトクリーム屋で買ったソフトクリームを食べているよう。
「ねぇ、行ってみない?」
と育人君を誘う。
「でも行ったところで迷惑にならない?」
さっきとは打って変ってもっともな返事が返ってくる。
「う〜ん、そうだね……」
なんだかあの先生がソフトクリームを食べているという状況が少し奇妙。
どうも先生とソフトクリームとがミスマッチだ。
先生は先に食べ終わってソフトクリーム屋の横においてあるゴミ箱にゴミを捨てに行く。
捨て終わって戻ってくるときに反射的にベンチの背もたれに育人君と隠れる。
それがなんだか可笑しくて二人で笑う。
先生の奥さんが子どもの分のゴミも纏めてゴミ箱へ捨てに行く。
奥さんの顔がベンチへの帰り際に見えた。
それが結構な美人で、先生がよく結婚できたなと思うくらいだった。
それからしばらくして先生の家族は、南ゲートのほうへ抜けていった。
「あれって家族サービスかな?」
「多分そうだと思うけど」
「でも先生に小学生の子どもがいるとは思わなかったよね」
「うん、先生訊いても歳明かしてくれないけど四十は流石に超えているだろうから余計に」
「あれ、先生の歳ってわからないの?」
「今年度来た先生なんだけど、何度訊いても教えてくれなかったからみんな諦めちゃって」
「そうなんだ」
「それから先生の歳は明かされないままで……でも少なくとも四十はいってるだろうなってみんな言
ってるけど」
「へぇ……」
「おい、育人」
後ろから育人君を呼ぶ声がするなと振りかえってみるとそこには美樹ちゃんと仁志君が立っていた。

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