第七話 前編(S) チャンス

正月も過ぎ、新しい年を迎えることとなった。
そして、新学期も始まり短い冬休みも終わりを告げた。
そして、今は三学期初の学級活動の時間。
その内容は班変え。
どうせなるならやっぱり話せる人が同じ班になるのが最良だろう。
前、二学期の班は三班で私と美樹ちゃんを入れての女三対三の割合の班だった。
他の班もそれくらいの割合だったので、今回もそうなるだろう。
そして班の決め方はくじ。
言ってしまえば適当な決め方だ。
でも、最も早く決まる決め方でもあるだろう。
誰と一緒になるかも運次第、全ては運任せだ。
今は先生がくじ用の紙を作っている。
そして、黒板には一から六までの数字が書かれている。
くじを引いて決まったらそこに名前を書くためのものだ。
その間、教室は静かになるわけもなく私語が飛び交っている。
私も班変えについて、美樹ちゃんと話していた。
「皐月ちゃんは誰かいっしょになりたい人いる?」
「え、誰か気軽に喋れる人が一緒なら誰とでも構わないけど……」
「私も同感〜と言ってもほとんどの人が当てはまるけどね」
美樹ちゃんの言うとおり美樹ちゃんは結構いろんな人と喋っている。
この間も男子の話の輪の中に自然に入っていた。
「そういや、美樹ちゃんって学校じゃ育人君とあまり喋らなくない?」
そんな美樹ちゃんでも学校ではあまり育人君と話している姿を見たことがない。
この間もクリスマス前には話していたって言ってたし、年末にも話していた。
でも、学校じゃそんな様子も見せない。
育人君はあの仁志君とよく話しているし、美樹ちゃんも他の男子と比べて仁志君と喋る回数は多い。
私はその場にいたことはあるものの、仁志君に私から声をかけることはなかったけれども。
でも学校で育人君と美樹ちゃんが喋ることがほとんどないのは何故だろう。
そんなこんなで疑問を投げかけてみたのだった。
「え?そう?育人とも喋ってるつもりなんだけどなぁ」
「そうだってば、仁志君とはあんなに喋ってるのにさ……」
「そりゃ仁志とはあれだし……」
「あれって?」
「え、なんでもいいじゃない」
「いいわけないでしょ」
「さ〜て準備もできたようだし、くじ引きにいこ」
そうしてことごとく流されてしまった。
あれってなんだろう、もしかすると……。
「さ、早く」
美樹ちゃんに連れられ前の教卓へと行く。
う〜ん……
三学期は比較的短いのにそれでもこうして悩んでしまう。
「私はこれね」
そう言って美樹ちゃんは手にした小さな紙を開ける。
『2』
紙いっぱいに黒のペンでそう書かれてあった。
教卓の端に一つ置いて行かれたように残っていた紙を手に取る。
『5』
私の紙にはそう書かれていた。
「五班か〜、私とは違うんだね」
「うん……」
少し置いていかれたような気分になる。
「さ、黒板に名前書きにいこ」
先ほどの数字の書かれた黒板の五のところに名前を書く。
その五班のところには先客がいた。
『大野 仁志』
少し右上がりでそう書かれていた。
仁志君と同じ班か。
美樹ちゃんの方はと見るとそこには育人君の名前があった。
美樹ちゃんは育人君と同じ班か……。
そんな美樹ちゃんが私は少し羨まかった。
育人君とは朝に毎日挨拶はするのに直接言葉を交わしたことがない。
そんな関係が歯がゆいような気がしてならなかった。
そして、その育人君と直接話がしてみたいと思っていたのは他でもない私だった。
どうせなら、言葉のない挨拶よりも声に出して挨拶が自然に出来るような仲になりたい。
私は朝に挨拶をするたびにそう思っていた。
「班も決まったことだし、席にもどろ」
美樹ちゃんにそう言われて自分の席へと戻り、他の人の班が決まるのを待った。

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