第五話(S) 雪降る日の来客

そして富緒柚(としょゆ)高校に転校してきてから数週間が過ぎた。
あれから幾度となく、美樹ちゃんと話している。
クラスの他の人とも馴染め、このクラスももうだいぶん慣れてきた。
ただ、クラスの男子とは滅多に喋らなかった。
喋っていたとしても班としての活動の上でだけだった。
そしてあの人ともまだ一度たりとも言葉を交わした事はなかった。
美樹ちゃんはあれ以来よく家に遊びに来ている。
いちばん最初に遊びに来たときのこと。
ちょうど転校してきてから一週間ぐらいが過ぎたときだった。
このときは学校の前で待ち合わせ。
「待った〜?」
そう言って私の家と反対の方向から美樹ちゃんが走ってきた。
何やら大きめのバックを持っている。
「いや、私も今来たばっかりだよ」
「じゃあいこう!」
そして、私の家へ向かって歩き出した。
「それでどう、この町は?」
「近くに商店街もあって良いとこだとは思うけど」
「でしょ?住み心地良いんだよね、またいろんなとこ紹介するよ」
「うん、まだ知らないところも多いし……」
「じゃあまた近いうちにね」
「うん」
「そういや、ここから家までどれくらい?」
「この坂を降りたらすぐだけど」
「じゃあ学校までそんなに距離もないんだ」
さすがに毎日登るのは辛いものの、下りるのは早かった。
「うん、でもこの坂がちょっとね」
「でも帰りは楽でしょ?」
「うん」
そんなことをしている間に家へとついた。
「それでうちはここだよ」
家から坂までも対した距離はない。
その分、坂が長く感じるけれども。
「あれ?イクトの家の隣?」
「そうだけど……」
そう言いながら家の玄関を開けた。
「ただいま〜」
「おかえり……あら、お客さん?」
「初めまして、三野木 美樹です」
「ゆっくりしていってね」
そうして、階段を上がり私の部屋でさっきの話の続き。
「近いって言ってたけどまさか隣だとは思わなかったよ」
「そう言ったって、この家も借りてるんだけどね」
「そういや、ここはしばらく空家だったんだ」
「前はどんな人が住んでたの?」
「前はここに仁志の家族が住んでてね、けどスーパーに近いアパートができて、そこに引越ししたんだって」
「へぇ〜」
最初に美樹ちゃんが遊びに来たときはこんな感じだった。
あのバックには編みかけのマフラーが入っていて、私の家で話しながらその続きをやっていた。
誰かにあげるのだろうか。
そして、今日のクリスマスイヴの日にも美樹ちゃんは遊びに来ると電話をかけてきた。
もうそろそろ来る頃だろう。
ピンポーン……
玄関へといき、美樹ちゃんをむかえる。
ふと、隣の家に目をやるとイクト君がケーキの箱を大事そうに持って家へ入ろうとしているところだった。
そして、私の部屋へとあがる。
この間遊びに来たときはまだあのバックを持っていたのに今日はもっていない。
「あれ、あのマフラー編み終わったの?」
「え、そうだけど……」
「あれって、誰かにあげたの?」
「それは内緒」
このあと何度このことを聞いても美樹ちゃんは笑いながら内緒としか言わなかった。
一体誰にあげたんだろう?あのマフラー……

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