第二十二話(I) チャレンジ
イタリア料理店『フォルティッシモ』を出たあと、再びあの公園へ戻りそこから植物園へと通じる道へと入る。 南北にのびる中央の道に比べては道幅が些か狭いが園内では主要の道だろう。 行き交う人も多い。 しかしやはり中央の道よりは少ないと見える。 それに風船を持った子どもの数も少ない。 どちらかというと大人の方が多い。 そんな中を皐月さんと歩く。 空は相変わらず快晴。 雲一つない青空が広がっている。 ただ一月だから幾ら快晴であろうと寒いことには変わりはない。 まだ雪の残った草木もある。 ここの植物園の『世界の植物展』はCMでもちょくちょくやっている。 何やら南国の植物を選(よ)りすぐって集めたものらしい。 CMには世界最大の花であるラフレシアとか食虫植物のウツボカズラだとかそんなのが映っていた。 二、三分程中央の公園から歩いたところにその植物園はあった。 入り口の扉を開け中に入る。 流石植物園、中は暖房が効いていて居心地がいい。 その植物園の中には二つの看板が吊るしてあった。 [特展:世界の植物展]─┸─[フラワーガーデン] 「どっちにする?」 「う〜ん、どっちでもいいけど……。育人君はどっちがいいの?」 「えっ、僕?僕もどっちでもいいけど……」 これでは埒が明かない。 尤も明かしていないのは自分なのだけども。 「じゃあ、ジャンケンして私が勝ったらフラワーガーデン、育人君が勝ったら植物展ね」 「うん」 って、何故僕が植物展なのかってのが凄く気になるんだけど。 で、結果はといえば僕の負け。 ジャイケンでも押されるとそう言いたげな結果。 なんかそれは納得できないんだけど。 「なら、こっちね」 そう言って皐月さんはフラワーガーデンの方へ入っていく。 やっぱりどう考えても押されてる。 なんだか無性に悲しくなってくる。 ずっとこんなままなんて真っ平御免。 何かこう自分から動かないと。 行動あるのみってやつだろうか。 とにかく皐月さんの後をつけて自分もフラワーガーデンのほうへと入っていく。 そこには色とりどりのいろいろな花がその色合いを楽しめるように飾られていた。 その花園の中央に曲がりくねった道がある。 道の所々には立て看板があり、花の名前や学名が書かれている。 どうも温室を利用して春の花々が植わっているらしくチューリップが多い。 単色や混色のチューリップがその色を奏でる。 他にもストックや蓮華、石楠花、菫(すみれ)なども植わっている。 その中の道を二人で歩く。 そういや今だ、皐月さんとはこうして二人っきりで行動を共にしたりしていても手さえつないだことがないと思う。 なら行動あるのみ……で、手をつなぐっていうのはどうだろうか。 たしかに付き合ってるなんて事実はないけど……。 ともかく動かねば何も始まるまい。 皐月さんは僕の左にいるわけだから左手で皐月さんの右手を……。 「ねぇねぇ、あれみて」 と、皐月さんが右手で指差す。 僕の左手はこの如くも躱(かわ)される。 「あのチューリップの色、綺麗じゃない?」 皐月さんが指差す方にはピンクと黄、紫の混色のチューリップがある。 「えっ、うん」 綺麗だけど……いや、それよりも……。 それからまた温室を歩き始める。 今度こそと思い、また右手をつなごうと試みる、が……。 「あれも綺麗じゃない?」 「うん、綺麗だけど……」 「え、何かあった?」 「いや、なんでもないよ」 それからまた歩き始めて……三度目の正直っていうのを願ってまた試みるも……。 「あの花、可愛いよね?」 で、また難なく躱される。 三度も失敗してどうもやる気なさげ。 三度目の正直もあったものではない。 はぁ、と溜息を今にもつきそうに脱力でいた。 それで目の前に『中間地点』って看板が見えたなと思うと皐月さんに自然に左手を握られる。 「えっ?」 「あ、いやだった?」 「いや、そんなことはないけどただ……」 「ただ?」 「急だったから少し驚いて……」 「なんだ。なら別にこうしていてもいいよね」 結局僕の努力は無駄になって皐月さんに手だけでなく流れさえも握られている。 そして、手と流れを握られたまま残りの半分を歩くこととなった。 |