03
自分を貫くことは大変なこと
自分を捨てるのも大変なこと
自分を創るのは大変なこと?
他人に任せることは楽なこと
結局、自分が動くのが鬱陶しいだけ?
凄まじいGが体を襲う。
だけど、これくらいどうということはない。
慣れている。
心臓というポンプが血を巡らすことが困難なほどのGを受けていたと思う。
気づくと目の前に人類の敵だという存在がいた。
『最終安全装置解除!エヴァンゲリオン初号機リフトオフ!』
・・・・・・僕に死ねと?
座っているだけで構わないと?
何を考えているんだよ!
『シンジ君、エヴァは考えると動くの、今は歩くことだけ考えて』
腕を振れ!!
動いた気配はない。
嘘つき。
敵らしき生命体はこちらをじっくりと観察している。
とにかく間合いがほしい。
こうなったらいいなというイメージを思い浮かべる。
その中の自分の動きにあわせてこのエヴァとかいうロボットも動いた。
「え?」
何がどうしたのかわからない。
『動いた!』
なんか無責任な声が聞こえたような・・・・・・
それが一つや二つではなく、歓声のように多いのはどういうことよ?
それよりどうやって動いたのか検証しなきゃ。
いつだって努力は必要だ。
ドリョクモナシニココマデキタッテ?ソウミエルダケダヨ。
とりあえずは距離を稼げた。
さっきはどうやった?
思考で命令しても動かなかったのに。
動くところを想像する。
想像した自分をトレースするように動いた。
・・・・・・もしかして意外と簡単?
もう一度大きく後ろに跳ぶ。
充分に間合いはとった・・・・げ!
使徒君は後ろに跳んでいる最中にビームを撃ってきた。
使徒の胸のところが光った時点で危険を感じ上半身を反らせるようにしていたから回避できた。
が、背中から着地してしまった。
結構痛い。
なんか、衝撃じゃなくて、実際にそうしたような痛さがある。
考えれば動くっていう操縦方法のデメリットなのかもしれない。
『いい?シンジ君』
良くないです。
『まずはプログレッシブナイフを装備して!左レバーの左のトリガーを押したら出てくるから』
左のトリガーを確認してまた後ろに跳ぶ。
『ちょっと!何やってるのよ!!』
何って?逃げてるんですよ。
『エヴァにはまだ、遠距離武器がないのよ!攻撃するには近づかなきゃいけないの!』
使徒とやらが追いかけてくる。
動きは緩慢だから掴まることはないだろうけど、ビームが撃てるのはちょっとやめてもらいたい。
「誰が戦うと言いました?」
しばしの沈黙、その間にも追いかけっこは続く。
慣れてくるとほとんど無意識に動かせるようになるね。
『ちょ、ちょっと!!戦わない気!?』
・・・・・・・その通り!
「無理やり乗せられて戦ってあげられるほど僕はお人好しじゃないですから。」
使徒君さあ、そろそろ僕を追いかけるのをやめてくれないかな?
やめてくれると僕は非常に嬉しいんだよね。
『このままだとあなただって死んじゃうのよ』
「こんな無理やりの状態であんたたちの思い通りに動いたらこの後が思いやられますからね。」
『その、後が無くなるのよ!』
「僕の知ったことじゃないですよ。」
使徒って奴もたいがいしつこいね。
そろそろ諦めない?
この機体の行動限界ってすごいんだよ。
ケーブルが背中に引っ付いてるからある一定距離で進めなくなるし。
それを計算して動くのはさすがに疲れる。
ジリ貧とはこのことなのかと変なしたくない実感を覚えつつ回避に専念する。
『シンジ、戦え』
お父さんが変なことを喋った。
「何?お願いじゃなくて命令?」
『そうだ。使徒を倒せ』
「・・・・・・嫌だね。」
好戦的と言われればそのとおりだろうと思うセリフが出てくる。
この会話だけ見ればどっちもどっちだとは思うけど、状況的にね〜〜
『お前に選択の余地は無い』
「それは僕が決めることだよ。お父さんが決めることじゃない。」
同じことばっかり口にしているような気がする。
ここの人たちって同じことしか言えないの?
ビームがかする。
だからさ、飛び道具はやめてよね。
会話で集中力を乱されて使徒が攻撃?
なんというコンビネーション。
僕の周りは敵だらけどころか敵だけってね。
孤立無援とはこのことかな。
日ごろのおこないでも悪かったのかな?
記憶を無くす前の僕はどんな生活してなのかな?
『やれ』
「嫌だってば。」
『しかしそれでは・・・・・・・・』
あ、僕に言ったんじゃなかったんだね。
ちょっと自意識過剰ぎみ。
『かまわん』
『・・・・・・わかりました。リツコ』
『わかってるわ』
今度は何を企んでいるのやら。
使徒さん、お願いだからもう諦めてください。
あなたの使命はこの機体の破壊なのですか?
どこかに緊急脱出用のレバーとかないのかな?
それでここから逃げられそうなのに。
まあ、無いものねだりはやめよう、あったとしてもわからなければ無いのと同じ。
この状況からの脱出方法・・・・・・・・・
使徒を倒す。却下。状況に流されるだけの行動はしたくない。
やられる。なかなかいい考えだとは思うけど、痛いのはなるべくしたくないなぁ。
!!!!!!!!!!!
「がは・・・あ・・・・・・あ・・・・・・・」
なんだ・・・・・・今の・・・・・・
『パイロットの生命反応、精神活動ともに感知』
心拍数が異常に上昇する。
体が勝手に警戒モードに移行した証拠だ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・・・・」
ダメージを喰らった後の硬直がやけに長い。
かなりにダメージを受けたようだ。
「あ。」
間抜けな声を出してしまった。
でも、使徒に頭を掴まれたら声も出ようというものだ。
父親に邪魔されて、謎の巨人にやられる。
嫌な・・・嫌過ぎるコンボ。
僕に味方は本当にいないんだね。
勢いをつけて使徒の手から頭を逃れさせる。
勢いをそのままにサブミッションに持ち込む。
ブシャーーーーーーーという擬音が聞こえてきそうな勢いで血が噴出している。
使徒の右腕にこの機体の右腕を絡ませて左腕で右腕の間接を打ち抜く。
この動作をしたらあっけなく使徒の右腕は肘から先が無くなった。
「悪い!」
謝りながらそのままサマーソルトキックのようにバク転するついでに蹴りを放つ。
が、その蹴りはオレンジ色の光に阻まれてしまった。
『ATフィールド!!』
蹴りを止められたせいでバク転で間合いをとる予定だったのにその場で着地する破目になった。
全身のバネを最大限に使用させて一気に跳ねる。
追撃してくるかと思ったがその心配は杞憂に終わったみたいだ。
『やはり使徒も持っていたんだわ!!フィールドがある限り使徒には近づけない!!』
・・・・・・この使徒という存在は何がしたい?
このネルフとかいう集団は僕に何をさせたい?
僕は何がしたい?
『シンジ君、またさっきのをやられたくなかったら戦いなさい!』
脅迫には応じない。
誰にも僕の意思は縛れはしない。
『もう一度だ』
『指令!!』
『命令だ』
『マヤ!』
『何考えてんの!』
体が跳ねた。
それを自覚して視界が暗転した。
あたたかい・・・・・・
死後の世界ってやつかな?
イイヤチガウ
この温もりどこかで・・・・・・
かあ・・・さん?
かあさん・・・・・・
まぶしい光の中に母の存在を感じる・・・
僕はまだ、死にたくないよ・・・
そう思うのに僕の顔が苦笑気味に笑っていることに気づいていた。
せっかく目が覚めたっていうのになぜ一番最初に見る光景が天井なんだろう?
普通は寝相の関係上、天井なんて見ないのにね。
体をゆっくりと起こす。
見慣れない部屋。
まるで病院のそれのように真っ白な壁。
えっと、なぜ僕はここにいるのかな?
また記憶喪失にでもなったか?
・・・また・・・そうだ、僕は記憶喪失の身なんだよね。
ここにいるのは、お父さんこと極道サングラス男の企みによるものか。
頭が痛いこった。
体の感覚を確かめる。
薬物とかの投与がされているけど、悪影響はないだろう。
ちゃんと医療行為した結果だと判断できるね。
物質的な感覚もちゃんとある。
僕はまだ死んでいないらしい。
結局、僕はネルフの人たちの意図した通りに動いてしまったのかな?
もし、そうだとしたら精進しなければ・・・って、何を?
だめだ混乱してるよ。
とにかく今しなくちゃいけないことは状況把握だね。
・・・・・・記憶を無くしてからずっと状況把握ばかりしなくちゃいけない状況にばかり追い込まれている気がする。
ということは、今僕がしなくちゃいけないことは・・・・・・脱走?
この格好で?
・・・・・・警察に捕まる可能性が大きいから却下。
お金もないし・・・・・・・・・
どうしようかな。
ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ
どこかでみたような青っぽい髪の毛の人を乗せたストレッチャーが素通りしていく。
まあ、僕には関係ないことだよね。
そう思い歩き出すと前のほうから黒髪のオバちゃんが歩いてきた。
「傷心の息子に声も掛けないなんてね。」
傷心?息子?
よくわからずに振り向いてみるとお父さんと思われる後姿があった。
・・・・・・・・・なるほど、そういうふうに見えたんだ。
黒髪おばさんの方に振り向く。
「何しにきたんですか?」
「迎えに来たわ。」
ニッコリと満面の笑みでそう言われてもこっちは困るだけだ。
とどのつまり、困らせに来たんだな。
「怪我はたいしたことないんだって?よかったわね。」
重症でそのまま寝んねしてたほうが僕にとっては良かったかもね。
「あなたの家まで送っていくわ。本部があなた専用の個室を用意したそうだから。」
この状況はどこまで勝手に流れていくんだろう?
僕が干渉する余地は存在しないのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いいの?一人で。申請すればお父さんと住むことだってできるのよ。」
僕が沈黙しているとどんどん話を進めてしまう。
というか、この人って自分達が僕にした仕打ちを理解していないのか?
理解していてそのうえで、なんでもないように振舞っているのか?
「親子なんだから一緒に住むほうが自然じゃないの。ガマンしないで言いたいことあったら素直に言ったほうがいいわよ。」
「いいたいこと・・・・・・」
「何かある?」
「黙れ、僕に話しかけるな。」
今、僕が一番言いたい言葉はこれだね。
「な!何よ!その言い草!私はねーあなたのこと心配して・・・」
「心配してくれるんだったらもう関わらないでください!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕の言葉がちゃんと通じたのか黒髪オバンは少し伏せ気味にして少し震えている。
「暗い・・・暗すぎる!!」
「へ?」
「その性格、あたしが直したる。」
なぜそうなるの??
「あ、もしもしリツコ?うん、私。」
リツコというと、あの白衣の金髪オバさんだね。
いきなり携帯を出してそんな人のところに電話して何をしようというんだろう?
「シンジ君ねぇ、あたしのマンションで一緒に住むことになったから。」
・・・・・・・・・・・・・
「大丈夫だってぇ、子供に手ぇ出すほど飢えてないから、じゃ上の許可取っといてね。」
・・・・・・・・・・・は!思考が停止しちゃったよ!!
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、逃げないと・・・逃げないと喰われる!!
「これでよしっと、さ、行こうか♪」
冗談じゃない!
こんな目が据わっている人の言うことなんか聞いてた日には何をさせられるか、何をされるかわかったもんじゃないよ!
もし、この人に記憶喪失を知られたら・・・・・・本当に何を命じられることやら。
四の五の言わずに逃げの一手!
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