高血圧の患者さんへ

* 高血圧の基準
上(収縮期)が140mmHg以上、下(拡張期)が90mmHg以上の場合をいいます。

* 高血圧はなぜいけない?
高血圧には自覚症状があまりありません。しかし、気をつけていれば頭痛、頭重感、めまい、耳鳴をおぼえることがあります。また、高血圧が相当すすんでいれば、動悸、呼吸困難、胸痛、むくみや夜間尿、足の痛みやしびれがあり、このようなときは要注意です。
高血圧になると、心臓にはふだんより大きな負担がかかり、血管(動脈)も血液の強い圧力で傷み、動脈硬化をおこしはじめます。このような状態が長いあいだ続くと、合併症をひきおこすことになります。

高血圧の合併症
@脳血管の病気
高血圧の場合、まず注意したいのが脳の障害です。ある程度の高血圧が長い年月続くと、脳動脈硬化が進んで脳
動脈が硬くなり、脳出血や脳梗塞をおこしたりします。
脳出血:硬化した脳の細動脈に圧力がかかって血管が破裂して起こります。
脳硬塞:動脈硬化で内側が狭くなったところに血栓(血液の塊)ができて血管がつまり、血液が流れなくなる。
A心臓の病気
高血圧が長く続くと、血液の流れの高い圧力に打ち勝つために心臓はどんどん血液を送り出そうとして、心臓は次 第に肥大していきます。この'心肥大'になると、血液を送り出す力がさらに強くなるので、、高血圧はさらに悪化することになります。高血圧は、心臓に酸素を送る"冠状動脈"にも影響します。高血圧が続いたり、動脈硬化が促進されれば血管が狭くなり、冠状動脈の流れが悪くなって心臓が働くために必要な酸素がいきわたらず"狭心症"や"心筋梗塞"などの虚血性心疾患を引き起こし、命にかかわってきます。
狭心症:冠状動脈が動脈硬化等のため狭くなり一時的に血液が流れず、胸に締め付けられるような痛みを覚える。
心筋梗塞:冠状動脈の血流が完全に途絶え心筋が働かなくなり、激しい痛みとともに倒れる。命にかかわる。
B腎臓の病気
腎臓と高血圧の関係は非常に深いものです。どちらかに障害が起こると、もう一方に悪影響が及びます。腎臓が
尿をつくるときにろ過する血液の量は1分間に1リットル。しかも、腎臓は小さな動脈の塊のような臓器です。高血圧によって動脈硬化が促進されると、腎硬化症、さらには腎不全にまで進みます。こうなると血液中にあるいろいろな物質のバランスがくずれ、人工透析をしないと生命が維持できません。
腎硬化症:腎臓の小動脈が動脈硬化をおこし、糸球体と尿細管の働きが悪くなる。血尿や蛋白尿が出る。
腎不全:血液をろ過して尿を作る働きが衰え体に老廃物がたまって食欲不振になったり、水分がたまってむくむ。
Cその他の血管の病気
動脈壁は,内膜、中膜、外膜からなり、中膜はさらに何層かに分かれています。動脈硬化が進んでこの中膜が弱くなると、高血圧に耐えられずそこに血液が進入して二層に分かれ裂けることもあります。これは"解離性大動脈瘤"というものです。また、高血圧になると、もともと動脈硬化があった場合には末梢動脈が閉塞を起こして血液が流れなくなることもあります。これは主にひざから下に起こり、足が痛くなったり、冷たく感じたり、休み休みでなければ足が痛んで歩けなくなったりします。こうなると、閉塞のあるところを人工血管でおきかえたり、ときには足を切断しなければならないこともあります。

* 高血圧の治療について
治療の前に自分で毎日の血圧を測定することを習慣付けましょう。今は、手軽で精度も高い血圧計を安価で購入できます。
血圧は,日内変動といって,時間帯によって高い時と低い時があり,1日のうちで10〜20mmHg変動します。一般に午前中は高く,夕方から夜にかけては低くなります。毎日決まった時間に血圧を記録して,自ら血圧管理を心がけましょう。
なお,病院で血圧を測ってもらうと,たいていの人がふだん家庭で測る場合より高めの値(白衣高血圧という)になります。したがって、家庭血圧計で測った場合の高血圧の目安は低めの125/80mmHgに設定されています。

非薬物療法
@生活療法
心身のストレスや過労を避ける−血圧を高めるストレスを上手に解消
規則正しい生活リズムを−食事、睡眠、排便など1日のリズムを大切に
長時間の入浴を避ける−40℃前後が適温、浴槽から出るときはゆっくりと
寒い季節は脱衣場や浴室を暖めて。
体を冷やすことを避ける−寒冷は血圧を上げる

ポイント
☆ 定期的な血圧測定を−早期発見・早期治療
☆ 太り過ぎにならない−血圧を上げるほかに糖尿病・心臓病などの発生を促進します。
☆ 適度な運動を毎日欠かさない−例:速歩で(1分間80メートル)毎日30分
☆ 心身のストレスや過労を避ける−血圧を高めるストレスを上手に解消
☆ 規則正しい生活リズムを−食事、睡眠、排便など1日のリズムを大切に

A運動療法
太り過ぎにならない−血圧を上げるほかに糖尿病・心臓病などの発生を促進します。
適度な運動を毎日−例:速歩で(1分間80メートル)30分、週5−6日
全身を動かして大量の酸素を取り込む有酸素運動を無理なく続けることが効果的
有酸素運動−ウォーキング,サイクリング,水泳,ジョギング,エアロビクス等
(心肥大や腎機能低下などの臓器障害のある人の場合は,運動療法はすすめられません。必ず医師に相談してください。)
☆こんな症状が出たら迷わず中止すること!
いつもより動悸が強い,急に胸が苦しくなる,胸痛,脈がとぶ,激しい息切れ、めまい,吐き気,冷や汗,顔面蒼白

B食事療法

食事のポイント
☆ 塩分量を減らす。
高血圧でない人も1日10g以下に
血圧の高い人は、1日7g以下に
☆ バランスの取れた食事を
6つの基礎食品を取りましょう
第1群:魚・肉・卵・大豆製品
第2群:牛乳・乳製品・骨ごと食べられる魚
第3群:緑黄色野菜
第4群:その他の野菜
第5群:米・パン・めん類・いも類
第6群:油脂
☆ 動物性脂肪をとりすぎない−とりすぎは、コレステロールを上昇させる
☆ 新鮮な野菜を十分にとる−ビタミンやカリウムが多く含まれている
☆ 外食は避ける−外食は塩分が多く含まれ、栄養のバランスも不足しがち

非薬物療法の中でも,食事療法が最も大切といえるでしょう。運動療法とあわせてきちんと行えば,軽症の人なら降圧薬がまったく必要なくなることもあります。また,食事療法は,高血圧の治療のためだけでなく,他の成人病や老化の予防にもなる“一石三鳥”の治療法ですから,ぜひ続けましょう。
<食塩の制限>
食塩をとりすぎると,血圧は上昇します。これは,とりすぎた塩分を薄めるために水分も取りすぎてしまい,その結果,血液量と脈拍数が増え,末梢血管への圧力が強くなるからです。また,食塩に含まれているナトリウムは血管を収縮させたり,交感神経を刺激するので,このことからも血圧は上がります。
日本人は食塩の摂取量が比較的多く,1日の食塩摂取量は,平均12g程度です。高血圧の人にこれでは多すぎます。1日7g以下が理想的です。できるだけ食塩の使用を控えた食生活を心がけましょう。ただ,塩分をひかえて味気なく思うときは,香辛料や薬味を使うなど,ひと工夫するのもいいでしょう。また,インスタントラーメンや干物,さつま揚げ,ちくわといった加工食品にも塩分が多く含まれているので気をつけましょう。
◎減塩のコツ
料理にかけるしょうゆやソースは少なく(味付けされている料理にはかけない)
うどん,そば,ラーメンなどは1日1杯以下、つゆを残す
味噌汁は具だくさんにして,汁は残す(1日1杯以下に)
すし,サンドイッチ,炊き込み御飯など,味のついた主食はなるべく食べない
味のしみた煮物は1日1から2品に(煮物より酢の物にする)
レトルト食品,インスタント食品などの加工食品はなるべく避ける。
できあいのお惣菜を使いすぎない
だしやスープの素を避け,なるべく自家製で
外食は1日1回まで
塩味が足りないときは,香辛料(わさび、唐辛子等),薬味(しょうが・ねぎ・しそ)で味をひきしめる
<カロリーの制限>
肥満は高血圧の大敵。太っている人はやせるだけで血圧が下がる場合があります。太っていると心臓に負担をかけ、心筋梗塞が起こりやすくなったり、高脂血症になって動脈硬化が進みやすくなります
肥満体で血圧の高い人は,カロリーの摂取量を制限し,自分の理想体重を目標に肥満を解消する努力をしましょう。
[理想体重の求め方]
理想(標準)体重の求め方はいろいろありますが、最近はBMI(Body Mass Index:肥満係数)が用いられています。求め方は、
BMI=体重<kg>÷(身長<m>の2乗)
BMIが21〜24であれば正常ですが,理想的なBMIは22とされ、このとき最も成人病が少ないことが明らかになっています。したがって、
理想体重<kg>=(身長<m>の2乗)×22
ということになります。
<食事の内容>
高血圧をやわらげたり,合併症を予防するために,食事内容にも注意しましょう
たんぱく質:細胞の機能や臓器を保持していくのに大切です。腎不全などの病気がない限り,魚や大豆などを中心に十分取りましょう。
カリウム:ナトリウム(食塩)の排泄を促進させて,血圧を下げる働きがあります。肉類にも多く含まれていますが,コレステロールやカロリーも多いので,新鮮な野菜や果物からとるようにしましょう。
カルシウム:心臓の収縮やリズムを調節し,規則正しく働くように作用します。小魚や乳製品からとりましょう。
マグネシウム:血圧を下げ,また,血管壁にカルシウムが沈着するのを防ぎます。ごま,ピーナッツ,大豆,海草などからとりましょう。
脂質:動物性脂肪の取りすぎは,高コレステロール血症,動脈硬化を促進させます。LDL(悪玉)コレステロールや,血中コレステロールを増やす飽和脂肪酸を多く含む食品を避け,逆にコレステロールを減らす不飽和脂肪酸を多く含む食品をとりましょう。たとえば,まぐろ,さば、いわしなどの背の青い魚には,EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という不飽和脂肪酸が多く含まれていることがわかっています。

Cその他の非薬物療法−嗜好品について
◎たばこ:タバコを吸う人が必ずしも血圧が高いというわけではありませんが、喫煙は、高血圧、高脂血症とともに心臓病の3大危険因子のひとつです。喫煙は、血管を傷つけて動脈硬化を促進させたり、血管を収縮させるので、血圧の高い人がたばこを吸うと、心筋硬塞や脳梗塞を起こす確率が高くなります。
◎アルコール:大量に飲んでいると、血圧の上昇をまねきます。血圧に異常がなくても、肝臓をはじめ体に悪影響を与えるのでひかえめに。
どうしても飲みたい場合は:ビール 中ビン1本または日本酒 1合またはウイスキー水割り2杯まで

薬物療法
非薬物療法をきちんと行っていても、高血圧が続く場合は、薬物療法を行います。また、薬物療法の目的は、血圧を抑えて臓器障害や合併症を予防することです。
☆薬物療法をはじめる目安:個人差もありますがこれまでは、収縮期血圧が160mmHg以上、拡張期血圧が100mmHg以上と考えられていました。しかし、最近では、拡張期血圧が95mmHgを越えた場合に薬をはじめることが主流になっています。すでに合併症があったり、高血圧や心血管系疾患の遺伝的素因があるような人は140mmHg以上あるいは90mmHg以上の血圧が続けば薬物療法を考慮します。
☆薬の選び方:薬は医師によって処方されますが、医師は患者の年齢、性別、高血圧の重症度、合併症の有無などを考慮して選びます。正しい処方が受けられるよう、医師の診断を受けるときには、素直に自分の症状を伝えることが非常に大切なことです。
☆薬を飲むときの注意:あくまでも医師の指導に基づいて、薬の服用は規則正しく行うことが大切です。例えば、飲み忘れたからといって、2回分1度に服用すると、効果が強く現れ危険な場合もあります。
☆薬の飲み始め:薬を飲み始めると、血圧が低下してくるために、全身にだるさなどを感じることがあります。ひどいときは医師に相談を。
☆血圧が下がったら:血圧が下がったからといって、勝手に薬の量を減らしたり、薬そのものを止めたりすることは禁物です。もし、医師の処方を守らずに薬を止めたりすると、高血圧に戻るばかりか、以前にも増して上昇することも考えられます。
☆副作用が出たら:最近の降圧薬はとても効果が良く、副作用もかなり少なくなっていますが、発疹、掻痒、発熱、動悸などの副作用が出ることもあります。そんな場合は、医師の指示を速やかに仰ぎましょう。
☆いつまで飲むのか:ほんの一部の人を除き、基本的には長期間薬を飲み続けなければいけません。薬物療法は医師とよく相談して行ってください。