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hike

004 槍ヶ岳 1999.08.29-30

000
話は奥穂小屋から始まります。
これまでの話は、
#03奥穂高岳編をご覧ください。

001
1999.08.29夜明け前。
山小屋の朝は異様に早い。
4時を回ると人が一斉に動き出す。
あちこちでヘッドライトが光り、
ごそごそとザックをあさる影。
4時30分起床。
昨日が嘘のように天気が良さそうだ。
回りで「御来光・・」「5時15分・・」と聞こえる。
5時前、
朝食に食堂へ人が殺到する。
朝食後に御来光という我らの甘い考えはもろくも崩れ、
部屋の窓から御来光を見て良しとした。
5時半、
何とか朝食にありつく。
弁当をもらって支度をする。
6時、
小屋の前で写真を撮って出発。
今日は縦走の日。
ピンと来ないが、
かなりの難所らしい。
しかし今日は快晴、
気分が良い。
何とかなるか?

002
小屋を出てすぐ斜面を登る。
すぐに息切れ。
やっぱりしんどいなぁ。
「最初だけや。」
okaはそう言ったので、
気を紛らせ進む。
左手に昨日登ってきた斜面が見える。
今日は下まではっきり見える。
えらいとこ登ってきたんやなぁ。
昨日登った奥穂高もすごいとんがってる。
下が(ガスで)見えないのをいいことに、
えらい大胆に歩いてたんや・・・
快晴のおかげで気分は良いが、
斜面の下まではっきり見えるのは怖い。
山側に体が傾いているのが自分でも分かる。
(そやけどすっごい下まで急斜面やで・・・足もすくむわ)
しょっぱなから疲れ気味で、
6時18分涸沢(かれさわ)岳着。
3110m。
これで3000m級2つ目。

003
さてここからである。
涸沢岳から北穂高岳までの稜線を渡る。
涸沢岳からの下り。
いきなりokaが視界から消える。
岩に鉄筋が刺さっている・・・垂直降下だ。
(この先どうなんねん)
真下のokaにはぐれないように付いていく。
後で知ったが、
この区間、
8月21日に地震の被害から復旧したばかりで、
まだ不安定な足場が残っていたらしい。


お互いを撮ったもの・・高低差が分かります?

クサリ・ハシゴが続く、
今日は富士山まで見える最高のコンディションだが、
眼下が見えすぎ・・・怖い。


富士山が見える・・・でも撮っている場所はガケの上

7時5分谷に到着。
(多分涸沢のコルというところ)
ここから北穂に向かって登る。
登りも厳しい。
前日が生温く思えるくらいだ。
ほとんどロッククライミングの世界。
下は何もない・・・
でも続けられたのは、
結構普通に、
夫婦・女性1人・親子連れ何かに道中会ったからやと思う。
誰にも会わなかったら不安でたまらんかったやろうな。
とか何とかいってるあいだに北穂着。

004
北穂高岳(3106m)山頂で記念撮影。
ここにも人は沢山いた。
山頂直下に山小屋(北穂高小屋)があり、
皆そこで休憩していた。
okaいわく最も高い所の山小屋だそうだ。
8時35分、
テラスで小休止。
遥か下に涸沢ヒュッテが見える。
水を補給し軽くお菓子を食べる。
さあ、
次は恐怖の「大キレット」だ・・・
目指す南岳までの間、
一度一気に350m下って300m登る。
okaはここを『憧れ』と言うが、
自分には地獄の関門にしか思えない。
山小屋での休憩が天国のようだ。
しかしここにじっとしては帰れない、
後ろ髪引かれる思いで小屋を出る。
といきなり垂直にテラス下をどんどん下る・・・
さっきの小屋(テラスしか見えない)が遥か上に小さい。
下から見るとすごい急斜面だ。
涸沢ヒュッテ方向との分かれ道を過ぎ、
キレットの方に進む。
クサリ・ハシゴでかなり下ったが、
これらに安心感はなく、
むしろクサリの最後(一番端)まで下ると足場がなく、
ルートは横にあったりして、
気を付けないとえらい目にあう。
両方切り立った急斜面の稜線を手すりもなく歩いたり、
ガレた足元を下ったりして、
一旦谷に着く。
10時15分、
地図によると「A沢のコル」、
さっきのエグい下りは「飛騨泣き」と呼ばれているらしい。
しかし疲れた。


飛騨泣きを越えた所か・・・後ろは大キレット

005
反対側から下りてきた人の話では、
どうもホールド(岩で掴んだり足を掛けたり出来る出っ張りなど)が、
少なかったらしい。
大キレットの最低鞍部(稜線の最低部)までに、
もうひと山(長谷川ピーク)ある。
さあもう一度登り。
スタートしてすぐ不安的中、
いきなり『どこ登るの?』という岩壁。
しかも上に3人。
「先にどうぞ!」と言われ登ったが、
途中でどうにも足が掛からなくなってしまった。
人が待っているプレッシャーもありかなりあせったが、
腕だけでよじ登り、
何とかクリア・・・こんなんまだあるの?
ピークを越え少し下ると最低鞍部に近づく。
やっと道が緩やかになる。
11時15分最低鞍部通過。
目の前に南岳の岩影が近づく。
ここから見る限りどこを登るのかさっぱり分からない。
迫り出した岩の迫力・・・どこも通りたないな。
11時25分、
登りを前に昼食。
奥穂高山荘の弁当をあける・・・うまい!!!
鮭もチーズ入ちくわ天も煮豆もご飯も・・・もう最高!!!
山の上でokaと2人、
悲鳴を上げて弁当を食う姿は何かおかしい・・・
風は少し強いが、
蝶も飛び天気も穏やか、
ここだけ見るとのどかなハイキングのようだ。

006
燃料補給して気合い充分。
最後の難関大キレットの登りに挑戦。
みるみる岩が近づく。
見るとハシゴが3連。
すごい上まで延びている。
一つ目・・・上を見て進む。
上がって後ろを見る、
かなり上がった。
さっきの昼飯ポイントが小さい。
二つ目・・・ハシゴが途中で奥に曲がっている。
岩に当たってステップに足が入らない。
こんな所で1段飛ばしで登るのは本当に怖い。
三つ目・・・登ったところは穏やかな坂、
それを越えると獅子鼻(展望台)と南岳小屋が見えた。
12時25分、
獅子鼻の先で記念撮影。
少しガスが出てきて穂高方面が見えにくくなっていた。
少し下って12時35分南岳小屋着。
小屋で水を補給して小休止。
最大の難関は過ぎたが、
体はくたくただ。

007
小屋を発つ。
小高い丘(と言っても砕石の丘)を登った所に南岳山頂。
12時55分3033m。
4座目の3000級。
2人の男性がいたので写真をお願いする。
遥か向こうの常念岳(これも100名山)をバックに撮ってもらう。
こっから槍までこんなユルいコースやったら楽勝やな、
と思った自分がアホでした。
槍までのあいだに2座も3000m級があり、
当然山頂をかすめてコースが通っていた。
なんかとうせんぼされているみたいな気がした。
稜線を濶歩していた我々の前に、
中岳(3084m)が横たわる。


南岳から中岳に向かう途中のoka

ごろごろした岩場の登りを行く。
疲れてクタクタだ。
まだ上に向かうのか?
誰にでもなく腹が立つ。
向こうに見える槍は随分大きく見えるのに・・・
中岳山頂13時55分着。
まだあいだに大喰(おおはみ)岳がある。

008
一度下ってまた登る・・・
ずっと気になっていたが、
ペースを上げると頭が痛くなり息が切れる。
空気が薄いせいかゆっくりだと元に戻るのだ。
疲れも手伝ってか、
この大喰岳がかなりきつかった。
途中の休憩中に、
キツネを発見。
斜面の途中に・・・あれは犬やない・・・
あんなとこに犬がおるわけない。
14時45分山頂下着。
山頂は3101m。
石がいくつも積み上げられていて、
墓標のようで荒涼としていた。
ここを乗り越えると・・・やっと槍岳山荘までの道がはっきり見えた。
斜面を下って15時飛騨乗越着。
ここで下山ルートと槍ヶ岳ルートに分かれる。
本当なら初日にここから槍を目指すはずだったのだ。
結局明日の下山ルートはここからになった。
あとは斜面をぐんぐん登り、
キャンプサイトを過ぎれば15時10分、
槍岳山荘着。
目前に槍ヶ岳・・・しかし山頂付近は長蛇の列。
人が減るまで小屋で待機することに。

009
16時20分、
あまり遅いと日没に帰れないので出発。
団体とうまく擦れ違えたので、
ハシゴの待ちは余りなかった。
頂上はすぐそこなのに、
きつい登りに体力は底をつき、
おばちゃんに道を譲りながら進んだ。
16時50分、
槍ヶ岳(3180m)山頂着。


槍ヶ岳山頂・・後ろはもちろん断崖

上には10人位いた。
天気上々気分爽快空前絶後景色壮大。
(これ位にしとこう)
まことにすんばらしい!
向こうの山に槍のとんがった影が落ちているのには、
感動を覚える以外に何もなかった。


影もやっぱり槍のカタチ

ほこらの前で写真を撮り、
スタミナの残っているうちに下りることにした。
下りはさほどきつくなかったのは嬉しい誤算。
17時20分山荘に帰ってきた。

010
18時。
槍岳山荘にて夕食。
目標はすべて達成。
後は明日の下山に備えてゆっくり休むだけだが、
昨日みたいに早く眠ると夜中に目が覚めるので、
20時までロビーでTVを見て何とか頑張ることにした。
誰かが外を見て歓声を上げているので外に出る。
すごい星空!!!
しかし歓声はそれではなく、
遥か東の山頂に雷雲!!!
しかも同じ目の高さ!!!
雲のなかで雷が光り続ける・・・
あれがここやったら、
えらいことになっとったやろうな・・・
向こうは雷なのにこっちは満天の星・・・
奇妙な景色のなかで流れ星を探す。
okaには見えて自分には・・・見えなかった。
山荘に戻る、
一人おっちゃんが高山病で脂汗をかいて倒れていた。
okaがトイレの帰りに見つけ、
スタッフを呼びにいったらしい。
間近で見るとやはり怖い。
消灯前に眠る。
やはり狭さと、
高地での酸素の薄さから頭痛がして何度も目が覚めた。
山小屋はずらっと並んだフトンで隙間なく眠るので、
横の兄ちゃんに何度も寄っていったみたいだ。
あぁ夜が長い。

■map...0829<「大キレット」ルートマップ>

end...001
1999.08.30
朝4時。
やはり皆早い。
4時を回ったとたんゴソゴソ動き出す。
横の兄ちゃんも、
我々が起きた4時15分にはフトンを畳んで、
外で荷物を整えていた。
今日は先に飯にしよう。
槍岳山荘は食堂が広いので、
待たずにありつけた。
食事中日の出、
食堂の窓から再び御来光。
今日もいい天気だ。
準備万端5時30分山荘発。
来た道を戻って10分で飛騨乗越着。
ここをまっすぐ行けば昨日の過酷ロード。
右に曲がって下界を目指す。
やはり足は昨日の強行のせいか、
それとも一昨日の筋肉痛のせいか、
もうガクガクだった。
岩場の下りを、
ヒザに負担を与えないように慎重に下る。
やがて森林限界に戻ったのか、
木が茂りだした。
高度も2500m位、
あれほど苦しめた頭痛もない。
でも体は疲労で快調とは言えない。

end...002
すっかり森のなかのハイクと化したが、
道には岩が残っているので、
足には負担がかかり続ける。
道が垂直方向から沢沿いの水平移動に変わった頃、
7時40分槍平小屋着。
何度も言うがここは初日の給水ポイントのはずだった。
のどかな小屋で小休止していると、
後から追い付いて来たおっちゃんにトマトを頂く。
一人マイペースで登ってきたそうだ。
残りの食料を平らげ気合いをいれて8時出発。
ほぼ水平のはずだが足元が悪くアップダウンが意外と多い。
黙々と歩いて沢のそばの滝谷避難小屋8時40分着。
意外と早いので休憩もそこそこに出発。
こりゃ早く帰れるかな?
と思ったがここからがきつかった。
去年の地震の被害があちこちにあり、
迂回ルートは上がったり下がったりして、
しかも足元はまだ不安定、
慎重に進むので距離が稼げない。
でも上から崩れ落ちている岩を見ているとぞっとする・・・
いいかげん疲れもピークに達し、
途中でもとにかく休みながらぼちぼち行くことにした。
9時30分、
回りが明るくなったなと思ったら、
前が開けて大きな沢に出た・・・そう、
初日に間違って登って行った白出の沢だ。
初日は天気が悪く、
この対岸の道が見つからなく、
どんどん沢を遡っていったのだ・・・
とにかくやっと見たことのある場所へ戻ってきたのだ。

end...003
沢を渡り林道に出る。
しばらく歩くとそこは白出小屋だった。
9時37分、
MTBと再会。
まる2日ほったらかしだったので気になっていたが、
2台とも無事だ。
こっから一気に帰れるか・・・
砂利とタイヤの相性は?
・・・大丈夫。
問題無かった。
いきなり飛ばし出すoka。
歩いて下る人達をゴボウ抜きだ。
予想以上の快感にokaは奇声を発してカーブの向こうに消えていった。
10人位は抜いたか・・・
あれほど苦しかった登りが嘘みたいだった。
ブレーキを握りすぎて手が疲れたが、
足を全然使わずに下山する嬉しさは格別だ。
あっという間に新穂高バスターミナル着。
10時5分・・・30分で下った事になる。
おそるべしMTB。
(というよりokaのクロスバイクおそるべしやな)
食堂で早い昼食をとり、
下山届を提出。
これで「登山」は終了。

end...004
MTBで1km程走って車のところに戻る。
車も無事。
しかし中に置いてあったペットボトルが、
暑さでパンパンに膨れていたのはびっくりした。
靴を履き替え足元も楽になった。
車で少し下り、
新穂高温泉「ひがくの湯」に入る。
この辺りの温泉は露天風呂が多く、
洗い場がない所が多い。
しかしここ2日風呂に入って無いので、
ちゃんと洗い場のあるところをokaは選んだのだ。
ここは洗い場のある露天風呂だったので充分だ。
やっぱり天気がいいと露天風呂も格別だった。
下山が思いのほか早かったので、
お土産を買うだけのつもりの高山で、
ちょっとだけ観光の真似事をすることにした。
古い長屋をそのままに店に使っているので、
まるで映画のセットのような町並に驚いた。
「飛騨の小京都」と呼ばれているそうだが、
奈良市の「ならまち」にもこんな町屋が多い。
高山をぶらつきお土産も買った、
あとはゆっくり帰るだけだったが、
昼間で車も多く、
結局帰りは随分遅くなった。
・・・次の日の仕事が、
地獄の様なつらさだったのは言うまでもない。

■map...0830<下山ルートマップ>

re-mixed 070325

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