今なおブルーのシートで雨をしのいで、神戸からの報告

99.8.1
 東京からの客を案内して車を走らせていると、自然と震災の話題になった。
 被害のひどかった個所を探してここがそうだ、ここもああだった、こうだ
 ったと草の生い茂った更地や真新しいプレハブ住宅を指さしていると、ま
 だなじめない入れ歯や差し歯、歯抜けに歯槽膿漏のようで、なんとなく老
 いたひとの口をのぞいているような気がしてきた。
 
 入居期限の切れた仮設の撤去が始まり、ついこのあいだまで建っていた公
 園の小屋はなくなっていた。新しい生活がはじまっている一方で、一部損
 壊なのか半壊なのか、どんな認定であったのか知らぬが、近所にある古い
 木造住宅の上に新しいビニールシートがかけられ、ロープで固定された。
 私は毎日その道を犬を連れて通りかかるのだが、一筋奥まったところに建
 っているため、その家の住人の姿を見たことはない。
 
 ここが山口組の本部、ここで食料を配っていた、ここがローソン、ここが
 コープ、震災の翌日から店を開いていた、そしてここが私の住む地域の指
 定の水くみ場と案内しながらいろいろなことを思い出していた。毎朝、一
 種、神経症のような症状で水を求めてやってきたあの頃のことが蘇る。車
 に乗るなと言われても、車なしにはとてもじゃないが、水を運ぶことなど
 できなかった。
 
 なにかの電波の変化を観測して地震を予知する人がいる、その人から有償
 で情報を受けとるサークルに入っていると、東京の人のひとりがいった。
 終末を予言し、人心を不安に陥れて金もうけをたくらむけしからぬやから
 かどうか知らぬが、予知されるたびに逃げ出すわけにもいかないだろう。
 
 震災は最初の揺れで家が押しつぶされたり、落下物にやられたりするか、
 火災に巻き込まれなければ案外に大丈夫なものだ、ビルからガラスが降り
 注いだりしないのかと言うから、あれはパニック映画の虚構、爆発物の被
 害でもなければそんなことはどこにもおこらなかったと説明をしてやった。
 しかしまあ、それは私の体験で、震災のすべてを語るわけではない。
 
 帰り道、空港の賛否を問う住民投票をしていたので、市外在住者も可能と
 いうことでしてもらった。
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