署名の山が35万筆、神戸からの報告

98.9.26
 神戸空港建設の是非を問う住民投票の実施を求める署名が、
35万筆、有権者の三分の一近くにのぼった。これは空港を
争点とした前回市長選挙で民意を問うたと主張する笹山市長
の得た票数をはるかに上回っている。「神戸空港・住民投票
の会」が各区選管に提出した記事の中に、日本ケミカルシュ
ーズ工業組合などが、同日、空港の早期実現を求める要望書
を、笹山市長に提出したということも書かれていた。

 風が吹けば桶屋がもうかる式に、空港建設がケミカルシュー
ズの売り上げにどう影響するのか、一生懸命に考えようとす
るのだが、私にはどうも理解できない。ホワイトハウスでエッ
チなことをしたクリントンがなぜ、大陪審で恥をさらし、弾劾
を受けようとしているのか、なにをさばかれようとしているの
か、私のアホ頭にはよくわからないが、空港を造って誰が設け
ようとしているのかということも、これもまた大きな謎である。

 公共事業という風が吹きさえすれば、もうかる桶屋の一員に
連なることができるという物語が、バブルの崩壊によってすで
に破綻しているのに、なおそれにしがみつかねばならぬほど、
震災後の神戸の不景気はどうにもならないところまできている
ということなのか。

 アメリカは日本人が「貯蓄」にうつつをぬかし、消費をせぬ
から(日本人が「消費」を控えているというアメリカの主張が
本当なら、グリーンピースからもっとほめてもらってもよさそ
うなものである。)アメリカの貿易赤字はいっこうに減少しな
いと批判する。銀行を守るために、公定歩合を下げ続けてなお
「貯蓄」にしがみついていかなければならない日本人のGNPだ
かGDPだかとかけ離れた日本人の生活実態をもっと理解しても
らいたいものだ。

 年金は減り続け、医療費は増え続け、福祉はだんだん薄っぺ
らになり、ありがたくもない平均寿命だけが、あいもかわらず
伸び続けているのである。

 私たち日本人は、生きているかぎり、やがて若者に負担を強
いる大悪人ロージンにならなければならない。そして65才ま
で年金を受け取れなくなる私たちは、政府から自助努力を求め
られ、増え続ける平均寿命の分だけ、自衛(=貯蓄)をしてい
かなければならないのだ。教師の平均年金受給年数は5年だと
聞いたことがある。大悪人ロージン扱いされるわりには、案外
もろかったりするのだ。

 よいロージンと悪いロージンがいて、よいロージンは平成の
高橋是清だとか言われて重用され、悪いロージンは21世紀の
日本経済を破綻に向かわせる犯人だと名指しされるのは、どう
にも納得がいかない。「たら」と「れば」を言ってもしかたが
ないが、銀行もゼネコンもバブルに踊らなければ、貿易黒字で
ため込んだ金で、ロージンの数千万人くらい養うのになんの問
題もなかったはずではないかと、経済が理解できない私などは
思ってしまうのである。

 ノーベル賞をもらう直前の大江健三郎の所得が、私が大学を
出た年にもらった年収と変わらぬか、それ以下であったという
噂を、その筋から聞いて、がく然としたことがある。大江健三
郎はノーベル賞をもらわなくても、十分に知名度の高い文学者
であったはずだ。金を使うべき場所を、公共投資以外に見いだ
さぬかぎり、この国の未来はない。器にではなく、人やサービ
スに投資する方向へ進めば、空港を造らなくても、雇用は創出
できるのではないのか。

 都市博の是非が争点となった東京都知事選のその後を考える
と、自治体の首長選挙を「民意」を問う道具だと考えるには、
どうも無理があるような気がする。空港問題にしても、都市博
にしても、それが任期中に行われる行政のすべてではないのだ
から、前回選挙で獲得した27万票のうちのどのくらいが、笹
山市長の空港問題への立場を是としたかを判断することはでき
ない。空港問題のような単品を考えるには、住民投票が補完的
な役割を担うと考える方が自然である。

 朝日、毎日、読売、日経、神戸と新聞各紙を空港問題に限り
読み比べてみると、地元紙ということで、神戸が一番紙面に占
める割合が多かったが、全国紙では毎日である。毎日は住民投
票の会の活動を追いかけると同時に、賛否両論を連日載せていた。
朝日にしても読売にしても日経にしても、どれもこれも似たよう
な記事ばかりだ。

 空港問題で反対派から問題にされているのは、情報公開の不
十分さだ。どの新聞を見ても、「賛成派」の意見は同じで、「反
対派が根拠のない(あるいは間違っている)数字をあげて疑義を
唱えている」という「賛成派」の反論を載せているが、双方が意
見の根拠にしている「数字」を自らの足で取材し、検証した記事
はひとつもない(と思う、少なくとも読者である私には見えてこ
ない)。

 どこやらの県で、記者発表をすべてインターネットに載せるこ
とになったとニュースで聞いた。役所も警察も、みんな記者クラ
ブは廃止して、記者クラブに配付していた資料をインターネット
に載せ、新聞記者以外にも見せるようにすればよい。新聞の紙面
にある記事が、「記者発表」を適当に加工しただけの記事だとい
うことがわかって、もっと読者に笑われる必要がある。

 ニュースで月に何度か、「**が独自の取材で得た情報によりま
すと」というアナウンスではじまることがある。考えてみると、
あとはみんな「独自」の情報なんかではなく、聞き書きを「伝言
ゲーム」しているだけなのだ。

 今回の署名運動で、目覚めかけている市民がいる。あとはメデ
ィアが目覚め、きちんとした取材をするようになり、行政が情報
を隠匿、あるいは操作できないようにすれば、「民意」を問うた
とはっきり言える選挙ができるようになるのかもしれない。

 参議院選挙で投票率がわずかにあがって、自民党が大都市で惨
敗し、都市型市民の反乱みたいな言い方ををされたが、今度の空
港問題は、その動きが本物かどうかを見極める、きわめて重要な
もののはずだ。

 私の住む灘区で署名簿を持ってうろうろしていたのは、そこら
にいる普通のおじいちゃんやおばあちゃん、おばちゃんたちで、
労働組合や政党の鉢巻きをしめている人ではなかった。
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