「ワイスン! 見つかったってホントか!?」
部屋に駆け込むが早いか、ギルバートが事務机の向こう側に座るワイスンに尋ねる。
「まぁね。でも正確には、似た人物を見かけたってだけでまだ彼と断定できてはいないんだ」
ワイスンが任務の紙を差し出す。
ナデシコがその紙をひったくる様に取り、ぱらぱらと目を通し、手が止まる。
「間違いない!」
たった一枚の写真を見つめているうち、ナデシコの手には力がこもり、紙にしわがよった。
「だそうだ」とギルバート。
「そうか、なら良かった。全部その紙に書いてあるが一応任務について説明しておこうか?」
「ああ!」
「分かった。まず分かっているとは思うが、任務の内容は犯罪者の逮捕。
場所はビーストガーズ自治区からほんの少し北の国に入った辺り。ほとんど国境上だ。
寒い事で有名な北の国だが、この辺りはまだ比較的暖かい地域だから今のままでも大丈夫だろう。
そこの村の宿屋に泊まっていたみたいなんだ。この情報は昨日入ったものだからもしかしたらまだいるかもしれない」
「宿のオーナーからの通報ですか?」
アイリスだ。話を聞きに行く必要があると思ったのだろう。
「いや、私にも情報網があってね。伝手を辿っていると引っかかったんだよ。残念ながら、捜査の許可はもらったけど手配する許可はもらえなかった」
ビーストガーズの上層部は、事が大きいだけに決断を出せないでいた。一部ではワイスンが予想したとおり、隠蔽する動きさえある。
以前にその話を聞いていたギルバートは、『くそ! やっぱりか!』と悔しい思いを感じながら、拳を握り締めていた。
「そうですか」
「じゃあ話を続けよう。
魔獣の扱いについてだけれど、操られた魔獣を正気に戻す方法は文献を調べてもわからない。だからもし、魔獣と君たちどちらかに万が一のことがあったら、君達の命を優先する事になった」
それを聞いた途端、アイリスが少しの間だけ苦しげにうつむいた。
「もちろんアイリスのエリクシールを使えば催眠は解けるはずだし、無事に森に戻せるようならそうして欲しい。
あと、操られた魔獣をサンプルとして連れてくる必要は無いそうだよ。その場で解放するんだ。
……こんな所だね。何か質問が有れば」
「十分だ」「ありがとうございます」「OKや」と三人ともが強く答える。やる気のこもったいい返事にワイスンが満足げに頷く。
「じゃあ頼むよ。それともし老人に出会えたら、逮捕よりマジックアイテムの破壊を優先して欲しい。
それで今まで操られていた魔獣も全て解放されるはずだからね。
それとギルバート……はいこれ!」
机の上に小さめの箱が置かれた。
「何だ?」
「君は以前の戦いで目をつけられたみたいだから護身用に作ってみたんだ。持っていきなよ」
「ありがとうワイスン」
「どう致しまして。じゃあ、三人とも頑張ってね」
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