「バカな!? 生きているはずは無い!」
老人が顔を引きつらせ魔獣の奥へと逃げるようにさがる。
その様子を見ることもなく、アイリスは俺に手を差し出していた。
「大丈夫!?」
「……ああ……」
その手を握り、起き上がることができた。ここは幽霊が出る世界だが、アイリスには実体がある。まして魔法も使った。
少なくとも幽霊じゃないって事だ。生きてる?
「何で避けなかったの! あれくらいなら簡単に動けたでしょ!?」
いつもの調子で、全く同じ調子で、正しく言うならいつもよりちょっと怒った調子でアイリスが話している。偽者にしては上手すぎだな。
「ああ、けど………動く気が無くなって、た……って言うか…………」
アイリスが「何なのよそれ?」と頭を抱えていたが、抱えたいのは俺のほうだ。
何が起こっている? まずアイリスはバジリスクの毒に触れた。間違いない。つまり死! あれ? 簡単だ……でもアイリスは生きてる。
偽者? いや、偽者にしては行動が本物過ぎる。
「キュアバブルは? 要る?」とアイリスが心配そうに尋ねてきた。これ以上無いほど、いつもの調子だ。
「……大丈夫だ。このまま戦える」
俺は全然いつもの調子じゃない。言葉もなんだか棒読みに聞こえた気がする。何が起こったのかわからず、無い頭で考えれば考えるほど事態が混乱してゆく最悪の状態だ。
「無視をするでない!」
そう大声を出した老人の声は震えていた。まるでありえない物を見ているかのようだ。まあ実際その通りなんだが……。
そういえば、元の世界で幽霊が出たときはみんなこんな反応になったなぁ……。少し懐かしい反応だ。あれ……ってことは幽霊? 実体有ったよな?
「そなたはバジリスクの毒を全身に浴び、さらに首筋の動脈に直接毒を流し込んだはずじゃ!」
それじゃあ生きていないだろうな。でも目の前のアイリスは動いている。
「え! ギルバート! どうして大丈夫なの!?」
「……お前の事だって……」
「え? ……ちょっと見て」とアイリスが髪を捲し上げて俺に首筋を見せた。そういえば老人の話だと気絶してたんだったな。首筋には二つ穴が開き、その周りが少し腫れている。
「噛まれてるな……」
「嘘!?」
アイリスが喚いていた。とりあえず本当だと信じてくれたのか?
「なぜ生きておる!?」
あ、初めて老人と同じ意見だ……。
「生きてるんだから仕方ないでしょ!?」
「そ……そうだけど、それで済ますな!」
あっ、なんか今ので余計なモヤモヤが吹っ飛んだな。えっと今の状況は、っと……アイリス生存!
「生きてたんだなアイリス!」
「今更なの!?」
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