「守れなかったのぉ。仲間は皆、わしが殺した」
 「……石になっただけだ……」
 老人が隣の路地から現れる。
 「1人違う。じゃろ?」
 ギルバートにとっては、生かして捕らえるなんて事はもうどうでもいい。剣を振り上げる!
 だが老人の前に大量の魔獣が現れた。
 「くっ!」
 魔獣は操られただけだ。何の罪も無い。思考の止まった頭でも、アイリスが悲しむことだけは理解できた。
 だが思いっきり蹴りつけ、強引に道を開けさせる。所々牙が食い込み肉が噛み千切られたが、それでもギルバートは老人に剣を向ける。
 「やれやれ、傷物ではこの後の勝負に響く。やはりここは……」
 一斉に魔獣がギルバートから離れた。そして一体だけ小さな蛇が残り、ギルバートにゆっくりと近づく。
 綺麗に磨かれた剣を、ただ地面に突き立てた。これがバジリスクを倒す方法。視線を何かで反射させれば、石化するのは自分自身。
 細く脆い小さな石像は、倒れた拍子に二つに割れた。
 「知っておったか。まあ良い、バジリスクは毒か石化によって相手を殺す。
 血を撒き散らせ臓物をえぐる事をせんのじゃから、わしの好みでは無い」
 ギルバートが剣を引き抜き、構える。もう一度無数の魔獣がギルバートを取り囲む。
 勝てるはずは無い。ならばその前に知っておきたい事がある。そして引き分けでいい、ただ老人を殺せれば。
 「なんでアイリスを殺したんだ! 石化で捕虜にする事だってできただろ!」
 「あまりに楽しかったのでな」
 吐き気がしながら、ギルバートが魔獣の背を蹴って老人に迫る。奥から飛び掛った魔獣がギルバートを跳ね飛ばす。受身を取る事もできず背中を地面で打ちつける。
 「エリアディフェンションじゃったか? あれを破壊しようとバジリスクを乗せたところ実に愉快な現象が起こった」
 大きな声で笑う老人に、ギルバートは吐き気を覚えた。
 もはや正気でいるだけで精一杯の中、作戦などあるはずが無い。だからギルバートにできることは老人に近づく事。
 目の前の魔獣の背を蹴り老人に迫る。
 殺せ! 殺せ! と頭の中が喚いていた。

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