……俺のせいか……。
 俺の読みが浅かったから、こんな事になったのか……。
 置いていくべきじゃなかった。
 まるで路地を塞ぐように、大きな石像が置いてある。
 白い鱗は輝きを失い、ただの石と化している。最後まで抵抗したのだろう、何枚も剥がれ落ちた鱗が石の周りで煌めいていた。
 首を高く上げ、本人のコンプレックスであったクリッとした大きな瞳は体の後ろを見つめている。
 体はもはや立ち上がり、最も弱い腹部を見せ付けているような姿だ。
 「なんでだ……お前の力なら、勝てただろ?」
 理由は分かっている。守ったのだ。
 そのためにここを動けなかった。自由に動けなかったため、狙い撃ちにされた。卑劣な奴によって。
 だが、それでも守りきったのだろう。俺が見る限り、立ち上がったこいつを超えるには空を飛ばなければならない。奴が空を飛ぶ魔獣を用意していたなら俺がもっと早く気づいていたはずだ。
 「……お前は、最高の守護者だ」
 ひびなどで脆くなっていないのを確かめ、そっと体をよじ登って奥の路地を覗いた。
 守りきっているならば、この先には無事なあいつが居るはずだ!

 見なければ良かったのかも知れない。

 服は何かで溶けたようなぼろぼろの状態で、ほとんど半裸とも言える姿だった。
 うつ伏せになってぐったりとし、胸元には何かを抱えている。たぶんあのブローチだ。ローブが丸めて捨ててあるのを見れば、なんとなく拾って持っていることは想像が付く。
 顔は見えない、怪我の様子を見ることもできない。だが、そのほうが良いのだ。
 見れば俺は、生きてはいられない……。
 石化、毒、フィソラに勝つ魔獣。
 まだ手がかりはある。
 溶けかけたローブ、劣化した鎖、少し気持ち悪くなる空気の臭い。
 全てを持つ魔獣は一種しかいない。
 バジリスクだ。何一つ抵抗出来なかっただろう。俺なら一人でも勝てる相手だってのに……。いなかった。
 バジリスクの毒は、触るだけで致命傷となる猛毒だ。服がほとんど溶けているのだ、もはやアイリスは生きていない。
 ……心臓の鼓動が止まった事も、呼吸が止まっている事もまだ確認していない。
 生きている! そう信じたい! バジリスクでさえなければ……。

 俺に出来る事は、何なのだろう。仲間を失って、俺には何が出来るだろう。ただただ呆然ともぬけの殻の村を歩きまわった。
 メインストリートに出て、気が付いた。
 殺せばいい。
 簡単な事だ、こんな事をした者をこの世から消せばいい。
 「……そんな簡単な話じゃねぇよ……」
 老人を殺したところで誰も戻って来ない。アイリスも、殺す事なんて喜ばないはずだ。
 そんな事分かってる。気の迷いだ。
 そんなことは、許されない。そうした者を捕まえるのが、俺の仕事だ。
 駄目だ……殺しては……。
 
 「その様子じゃと、全て見たようじゃな」
 ――ぶっ殺す!
 

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