第5章:守りたい


 これは何だ? 今俺の目の前にあるものは……。
 そっと手で触れてみる。石像だ。何かに絶望した顔の石像だ。誰の作品だろう……よく出来ているじゃないか……
 まるで今にも、動き出しそうだ………違う……動いていた。動かなくなった。
 少し前まで動いていても……今は石像だ。
 背には翼、腕にはグローブ。芸術的なまでの細く美しい体は、本当に芸術と成っていた。
 村人が何で間違えたのかずっと不思議だったが、こうやって羽の色を無くすと、天使にしか見えない。
 俺を見かけるたび走りより、時には自分のサイズを考えず俺に飛びついて押し倒し、速さだけは誰にも負けない。
 こいつは動く事が得意なのだ。
 いくら暗闇が苦手だからって、逃げる事は出来たのだ。
 「嘘だろ……なぁ! 何でだよ!? 危険なのは俺だろ!?」
 答えるものはその場にいなかった。いや、いるのだ。ただ……今話せないだけで……。
 これから話すことは出来るのだろうか……。あの明るい声を聞くことは出来るのだろうか。
 これから先……
 「くそっ!」
 落ち着け! 石化は死とちがう!
 砕けた時が死。まだ助かる! また俺は押し倒されるし、また話す事だってできる。
 アイリスとフィソラがいない……。二人は無事だろうか。
 「ありがとうな。ゆっくり休んでてくれ」
 重たい石像を抱え上げ、絶対倒れないよう狭い路地に立てた。

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