おかしい。今みたいに猟が禁止されている時期は壁がひび割れ柵は破れと、散々な状態になるはずだ。なのになんなんだこの小屋は?
 壁は二重構造、柵は有刺鉄線。手入れが行き届き劣化した箇所がまったく見当たらない。まるで砦だ。……今でも管理されているのか? もしかしたら何かの目的で使い続けているのかもしれないな。
 「頼むからハズレの密猟者と鉢合わせ、なんて落ちは辞めてくれよ……」
 そう願いつつ足音を消して小屋に近づくと、物音がした!
 剣はいつでも抜けるよう構えておいた。とはいえ開けた途端に猟銃でズドン、なんて事になったら剣じゃどうしようもない。とりあえず声をかけておくか……。
 「誰かいるのか?」
 返事は無い。一般人が警戒しているとしたら……。
 「俺はビーストガーズのギルバートだ。密猟者や殺人犯で無いならもちろん捕まえたりはしない。休ませてくれないか?」
 身分を明かしても返事が無い。やっぱり密猟者か? いや、それにしちゃ変だ。逮捕する可能性が有ると言ったってのに、全く敵意を感じない。
 とりあえず犯罪者でもなさそうだ。……そもそもネズミか何かだったのかも知れないか。なんにしても、戦わずに済んで良かった。
 それにしても目が覚めたな。やっぱり気が引き締まると違う。
 だが、とりあえず仮眠を取ってから村に戻ろう。眠くなくても寝るのは好きだし、後々眠くなるだろうし、今のうちに!
 「お邪魔しまーす! ………お邪魔しましたー!」
 急いで外に出て扉を硬く閉ざす。あれが何でここにいる!?
 四本足で毛が生えていて、体はきゅっと引き締まり、群れで行動するあれだ。襲われれば熟練の戦士でも苦戦する頭脳を併せ持つあれがうようよと……?
 大丈夫だ。大丈夫。放って置く訳にいかないし、俺なら襲われても対処できる。熟練の戦士ってのはせいぜい各国の正規軍所属兵士とかだ。
 強いやつはみんなビーストガーズに入ってしまって力不足が叫ばれている昨今じゃないか。
 意を決して扉を開けた。
 中には鎖で縛られた数十体の狼。……鎖で縛られてるのか……。剣をしまって周りを見渡す。
 一言で言えば変な小屋だった。
 天井には無数の止まり木。そこには小さいのから大きいのまでさまざまな鳥が止まっている。狼の隣には虎やライオンといった肉食動物が並び、ほんの少しの草食動物もバッファローなど危険なのが多い。
 「よく喧嘩しないな……。ん!?」
 なんか引っかかる。
 もともと狼や虎やライオンが人間を見てじっとしているのも変なのだが、俺が感じたのはそういう事ではない。見るたびに妙な感覚が湧き上がってくる。
 何が変なんだ? 怪我をしている獣はいない。暴れまわっている者もいない。
 「くそっ!」
 目が変なんだ! 生気も何もあったもんじゃない! こいつらは老人に操られている!
 つまりここは老人の本拠地ってことだ。森に来ていたのはここに用があったからかもしれない。なら老人はどこに行った!? 俺がここに来ている事に気が付かないなんて事は無いだろう。
 老人はあえて俺を無視したのだ! 何か訳があって、そうしたに違いない!
 あの老人が好む事は殺しだ! そしてこの辺りで動物以外に殺す者は、村の人間だ!
 村には誰がいる!?
 ―――最悪だ。
 落ち着け、考えろ……。ここに戦力を残しているのは何でだ? 虐殺ならできるだけ多くの動物を連れてくんじゃないか?
 そうだ。森には自然な動物がいた。つまり手放しているってことだ。
 必要ない。だからここに置いて行った。
 ……くっ!
 ここには何が居る?
 鳥、狼、虎、ライオン。
 もっと捜せ!
 蛇、毒虫、トカゲ。
 魔獣は一体も居ない!
 アイリスが言っていたじゃないか! 時間を与えるデメリットの一つは魔獣だけの部隊を作ること。そして虐殺が目的ではない。
 「そうか! くそっ!」
 村の何かを狙ってる。今は朝、あいつが村に向かったのは!?
 ドアを蹴破って飛びだした!
 「生きててくれよ!」
 遠く離れた俺には、信じてもいない神に祈るしかなかった。

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