第4章:夜間。絶望の戦い


 時はギルバートが事態に気づく数時間前。ナデシコが妙な気配と音を感じた時に遡る。
 全力で走り始めたナデシコを、アイリスは必死で追いかけていた。ナデシコはまだ羽を出していないというのに、脚力を強化するクイックウインドを自分にかけても未だに追いつくことが出来ない。
 「ナデシコ。目の前!」
 「大丈夫や! 近づいたら見える!」
 壁にぶつかるぎりぎり手前でナデシコが道を曲がった。あとはメインストリートなので障害物はあまり無い。
 安心したアイリスが、走りながらほっと胸を撫で下ろした。
 「ねぇっ! いきなりどうしたの!?」
 「どうしたもこうしたもえらい事になっとるやないか! フィソラの方が説明上手そうやし聞いてみ!」
 「何かあったの?」
 フィソラからは何も返事が無い。
 「言いたなくても言ったほうがええで!どっちでもウチは止まらんし、アイリスにも説明する」
 「どういうこと?」
 『戻れ。アイリス』
 だがアイリスは立ち止まりもしなかった。フィソラの言う事も気になるが、何も見えていないナデシコを放っておく訳には行かない。
 『何かが村に迫っている。それも複数だ。殺意まで感じる』
 「……それって……」
 老人が来たのだ。そうとしか考えられない。
 だがあの老人はギルバートを狙っているはずだった。以前の戦いでギルバートの丈夫さに興味を持っていたことは、それを防いだアイリスとナデシコ自身がよく知っている。
 だが今の状態から導ける事は一つだった。老人はギルバートを狙わず村に来ている。
 魔獣を操るという事は、とうぜん何体もの魔獣で監視しているはずだ。いくらなんでも気が付かなかったという事はありえない。
 「わざと、ギルバートを無視してるって事……?」  『勝てるはずが無いだろう! 不利な条件に加えてギルバートとの戦闘による疲れもあるのだぞ! 戻るべきだアイリス!』
 「………」
 「どないするんや? 大方予想はつくけど逃げ帰る? それとも……」
 メインストリートを走りながらナデシコが一点を見つめる。騒ぎに気づかない明かりの点いた店。
 そこには店主がいて、その店主には家族が居るのだろう。その家族はおそらく村の外側に住んでいるのだ。傷つけさせはしないと思うと、気合が溢れてくるようだった。
 ナデシコが道を曲がって路地に入った。ここまで来ればもう少しというところまで来ていた。
 「できるだけの事やるん? ウチは選べたで!」
 
 考える必要なんて無かった。
 「ナデシコ!」
 「行く事にしたんやな!?」
 「戻るわよ!」
 ナデシコがずっこけて止まった。

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