「絶対に!駄目?」
「ええ!絶対!安静にしていてください!」
俺の目の前の女性。昨日の女性ではない。
白衣とナース帽。手には紙と、それを書くためのボード。
俺の担当医は医療班最高責任者。
ワイスンと同じぐらいの偉さで、詰まるところ組織のトップ10だった。
「そこを……」
「もしも無断で行動したら、停職でしょうね」
駄目だ……この人騙されるような玉じゃない。とりあえず話を変えよう。
「アイリスはいつ目を覚ますんだ?」
看護士が手元の紙をめくり、目を通す。
その後でアイリスにつながった計器を見る。俺が見ても良く分からない機械ばっかりだ。
「明日か明後日でしょうね。ただ、この方も同じく安静にしていただきます。
変身魔法で代理になってもらうというのも通じませんよ」
具体的だな。変身魔法を使えたら間違いなくやった。
そこまで具体的ってことは……。
「以前に誰かやったのか?」
「リーリアさんはご存知ですね?」
あいつこんなところでも……。
「あの人のおかげでありとあらゆる対策が敷かれました。
この看護室の異名を知っていますか?」
「そんなのがあるのか!?」
「世界一の牢獄、あなたはここが初めてですから知らないでしょうけど、この名前のせいで……」
白衣の天使が持つボードがミシミシ言い始めた……。
備え付けの机をドンと叩き、俺をキッと睨む。
「誰一人ここに来たがらないんです!
看護士はあなた方の怪我を治すためにここに居るというのに!こんな話がありますか!」
「そ、そんなこと俺に言われても!」
看護士が俺の顔を見て、はっと我に変える。
「すいません、取り乱しました。
ですが、あなたのように傷を負っても隠す人が多いんです。
魔法も万能ではありません。時すでに遅しでは話にならないんです……」
「あ、ああ」
「聞いた限りあなたはよく怪我をするそうですし、今後はここもきちんと利用してください」
誰も来ないんじゃあ確かに問題だよな。
だが、これ以上この話をされるのは勘弁だ。
「そもそも医療班はあなた方の傷を治すため、ビーストガーズが出来た頃から……」
積もり積もった長い愚痴を聞くのはちょっと……。
「面会は何人来てくれたんだ?」
「面会謝絶です」
「それでも何人か来てるだろ?」
朝随分と騒がしかったからな。10人は来てるだろ。
「4人来られましたがお引取り願いました」
あれ?意外に少ない。まあ入院一日目ならそんなもんか。
だが、それなら朝の騒ぎはなんだったんだ?すぐ外の廊下だったんだけどな……。
「『私は魔力を渡した関係者でしょうが!』と言い張って、帰っていただけない方にも帰っていただきました」
あいつも来たのか、てっきりめんどくさいとか言ってるかと。
「それにしてもあいつが良く帰ったな!
さっきの話だと、まるで天敵みたいだし大変だったんじゃないのか?」
「そうでもありませんでした」
お!これまた意外な!
考えてみれば昨日の普通の看護士もリーリアが何をするか分かっていた。
いつもよっぽど苦労させられてるんだと思ったんだが……。
「ファイアボール30発」
「…………」
「どんな状態になっても対処できますから、遠慮なく」
遠慮なくいつでも来てくださいか!?それとも遠慮なくぶちかましたのか!?
……本当に医療班か?
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