魔術処置室の重々しい扉が開き、最初にリーリアが出てきた。
その後ろから、白衣の女性に押されてゆっくりと担架が姿を現す。
完全にでるより早くギルバートが駆け寄り覗き込む。患者は眠っていた。
すやすやと安らかに、時々小さく笑う。さっきまでの苦しげな様子が、嘘のようだ。
それを見たギルバートは体中の力が抜け、膝から崩れ落ちた。
「貸し一つ、貸し一つ」そんなリーリアの声も届かない。
崩れ落ちたギルバートを見て、「魔力を分けてもらいました。
少しかかるかもしれませんが今は快方に向かっています。もう大丈夫ですよ」と白衣の女性が声をかける。
女性の言葉を聞き、ようやくギルバートはアイリスが無事だという実感がわいてきた。
ぐったりしたアイリスを見たときは心臓が止まるかと思った。なんとか助けようという思いと、もう駄目だという思いが交錯していた。
大丈夫だ。アイリスは無事なんだ。そう思ったギルバートの目に涙が浮かぶ。
「あ、あの〜、すみません、できれば後にして差し上げたいのですがそういう訳にも行かなくて……。
あなたは大丈夫ですか?」
泣き崩れていたギルバートがギクッとその言葉に反応した。涙を袖で拭い、ようやく力が入るようになった足で立ち上がる。
「アイリスを診てくれてありがとうな!本当に助かった!」
「え、ええ。どういたしまして。
それよりも服が破けているようですよ。
何か傷跡のような物がちらちらと見……」
「本当にありがとう。この恩は一生忘れないぜ!」
「い、いえ、そんな……当然のことをしただけで。それに仕事ですし」
「やっぱりアイリスは入院だよな?
完全に直るまで診てくれるんだから、安心だぜ!
とりあえずぼろぼろの服を着替えるついでに、アイリスの着替えを取ってくる!」
ギルバートが自分の部屋に走ろうとした。まるで何かを隠すように、服を抑えたままだ。
「あ!待ってくださ……」
「そうだ!ナデシコだ!あいつも早く診てやってくれ!
じゃあ、頼んだ!」
「はいストップ!」
いつの間に近くにいたのだろうか、ナデシコが驚いたギルバートの一瞬の不意をつき、服を抑えた手を払いのける。
お腹と背中に大きな傷痕。一応塞がっているのだが、某世紀末救世主伝説の方々よりも大きな傷跡だ。
「やっぱし!ギル様が先やな。
連行してください!ウチは元気なんでなんぼでも待ちます」
言い終わるが早いかリーリアがギルバートに足払いをかけ、ストンと座り込んだギルバートが事態を把握する前に看護士がどこからか取り出した包帯を投げつける。
包帯は生きた蛇のようにギルバートの手首を、足を、拘束した。
二人とも達人技だ。どうしてお互いの手が分かっていたのだろうか。
「お、おい!ナデシコはいいのか!?」
「何であなたに任せたと思ってんの?」
身代わり地蔵である。
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