第5章:決意を守るための決意
真っ暗な夜。騒ぐ者は誰もいない。
そんな中……
ドン!
「開けてくれ!おい!」
ビーストガーズの受付、そこにはめ込まれた強化ガラスを力の限り叩く男が居た。
ドゴ!
「聞こえないのか!?怪我人がいるんだ!」
魔法のガラスだ。防護に防音それらは当然のように組み込まれ、盗賊などの招かれざる者を決して中に入れることは無い。
だがそれは今、ギルバート達をも締め出していた。
「開けろって……言ってるだろうが!!」
自分の手が傷ついていくにも構わず、ギルバートが懇親の力を込めてガラスに拳をぶつけにかかる。
下手をすれば拳の方が砕ける速度だ。分かっていてもやるしかない。
ガシャア!
大岩をぶつけても壊れないガラスが砕け散り、雪のように煌めいた
じりりりりりりり……とけたたましく警報が鳴り響く!
だが、あとの事は考えない。そんな暇は無い!
ギルバートが間髪いれず「マリアンヌ!いるんだろ!?」と奥の部屋に呼びかけた。
これでいなければ、もっと強力な魔法がかけられたビーストガーズの玄関扉を破らなければならない。
もちろんギルバートはアイリスのために首を覚悟でそうする気であったが、傷ついた今果たしてそれが出来るかどうか……
「……ん?……ギルバートさんですか?」
返事があった!それと同時に警報が鳴り止み「今のは事故です」とアナウンスが流れる。
「待っていて下さい、すぐに」
「怪我人だ!早くしてくれ!」
奥の部屋の電気がつき、それに続いてカウンターにも光が灯る。
すぐに扉が開き、パジャマ姿のマリアンヌが出てきた。
眠そうにしていたが、突然その目が見開かれた。
「こ、これは一体!?」と砕け散ったガラスを呆然と見つめる。
「そんなのどうでもいいだろ!さっさと医療班を読んでくれ!」
「え?」とマリアンヌがギルバートを見る。
「必要なさそうですね」
「何だと!?」
「その拳の怪我はただ切っただけのようですから、この時間に医療班の方を起こすことは出来ません」
「俺を見てどうするんだ!」「マリアンヌさん、怪我人はこっちや!」
マリアンヌが体を傾け、ギルバートの向こうにいる、ナデシコを見る。
ハッと息を呑む。
フィソラの上に乗っているナデシコは、ギルバートと同じく切羽詰った顔。
そしてその腕の中にはアイリスがいた。ぐったりと力なく横たわっている。
顔色も悪く、息遣いも荒い。
「い、今すぐに医療班の手配を!奥に入っていてください!」
いつも冷静なマリアンヌが、珍しく慌てた様子で部屋に駆け込む。
これだけの重症を負って帰るなんてそうそう無いため、電話も奥にしかない。
言われたと同時に大きな木の扉が開き、駆け込んだ。
魔獣も入れるように大きく設計されているので、フィソラもそのまま入る事ができる。
右側には団員専用の寮への階段。
左側にはトレーニングルーム。
一番大きな正面階段は事務系の団員の職場で、寮とは渡り廊下でつながっている。
その階段を1人の女性が走り降りてきた。
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