ガサッという音と共に草が揺れる。
「アイリス!?」
ギルバートの大声に狸が驚き、逃げていった。
「大丈夫やて!元気に戻ってくるんちゃう?」
うつむくギルバートに、ナデシコが努めて明るく話しかける。ただし目を見ていない。
ギルバートもそれに気づいていたが「そうだな」とだけ返す。
さっきから風や動物で草が揺れるたびにギルバートはアイリスの姿を探し、そしてナデシコが慰める。
だが、元気なはずがないと一番分かっているのは最後にアイリスを見たナデシコだ。
目を見てギルバートに嘘をつくなんて、とてもできなかった。
「でな、そのときのリーリア師匠やけど……」
ナデシコがなんとかギルバートの目を見て、強引に話を世間話に戻す。
とりあえず今は二人の師匠の話。
他愛も無い話だが、重さも無い。
「あ、あぁ。魔法が暴発したんだったよな?」
それは一つ前の話だ。なのにナデシコはそれを言わず「そうそう、魔法が暴発してな……」と同じ話を繰り返す。
自分が同じ目にあったら、どれだけ苦しいか……集中なんてできるはずがない。だから少しでも楽に。
ギル様の気が紛れれば何でもいい!ナデシコはただそれだけを願って話し続ける!
「でな、アルタイル師匠がとばっちりを……」
次々話を進めると、少しずつだが雰囲気が柔らかくなっていった。
だが、また草が揺れ、一瞬にして空気が凍りついてしまった。
二人が周りを見渡しても、アイリスはいない。
冷たい風が頬に当たる。
なんだ……違うのか……。そんな言葉が聞こえてきそうだ。
二人がそれを言わないよう口を閉ざすと、更に空気は重くなっていく。
「……つ、次は最高やで!何と言ってもウチと師匠たちの出会いやからな!」
「あのできの悪い師匠とはどんな風に出会ったんだ?」
「できの悪い師匠でも、腕はええんよ!あの時」
突風が吹いた。周りの草ががさがさと揺れる。
やはりアイリスはいない。
またか、そう思った二人に影がかかった。
影の主は、
『アイリスが!』
降り立った瞬間、慌てて加えていた物を降ろす。
ぐったりと力なく横たわる、衰弱しきったアイリスを。
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