「任務だよギルバート」

ワイスンが机の上にあった紙を差し出す。

5枚ぐらいの資料、内容としては少ない方だ。比較的簡単な任務だろう。

ギルバートがパラパラと紙をめくり、簡単に目を通す。

「密林のパトロールか、大した事無さそうだな」

「一応油断はしない方がいいよ。任務がパトロールなだけに何が起こるかわからないからね」

それでも、全体的に見れば楽な任務と言える。

他の任務が問題の解決なのに比べて、問題自体に出くわさないかもしれない任務だ。

それにもし問題に出くわしても魔獣の喧嘩だとかその場で片付けられる問題なので、大した事にはなりにくい。

難しそうに言ってはいるが、ワイスンもそれは承知の上だ。

「今回は初任務の新人も同行するしね」

「やっぱりそうか」

「なんだ知ってたのか。君達には余裕だとは思うが、研修も兼ねてるからこれぐらいの方がいいと思ったんだ」

微笑みながらそう言う。こういうことに気を使ってくれるあたりがギルバート達にとっては信頼の対象である。

新人に任務を与えるのは案外難しいのだ。

相性を見ずに組ませると大喧嘩して任務に支障が出たりもする。

一つの部署に人が少ないためその中でパートナーを組ませるのは難しい。仕方ないとも言えるだろう。

ワイスンはそれが誰より上手く、そのうえ早い。

難易度、相性、任務にかかる時間。それらを総合的に考え適切な判断を下す。

これは以外に難しい。最適な人がいても、他の任務で出はらってしまっている事だってよくある。

最後の紙で手が止まった。

ギルバートが始めてみる少女。その胸元から上を、前後左右から撮った4枚の写真。

顔はやや細く、全体が整っている。目はパッチリで瞳は黒く、意外にも純粋でまっすぐな印象を受ける。

リーリアの弟子なのにな、と思ったギルバートが小さく笑う。

「どうかしたのかい?」と聞いたワイスンを見て「まあな」と返し、もう一度写真を見た。

髪は黒く短い。前からだと耳が隠れるが、横からだと完全に見える。

その程度の長さなのに、後ろで結んでいる。いわゆるポニーテールだが小さい。

本来不釣合いなそれが似合っているのは、元がいいからだろう。

写真の下には「ナデシコ」と書いてあった。

「こいつがリーリアの弟子か?」

紙に印刷された写真を指差してワイスンに見せる。

「そうだよ。この間入団試験受けに来てたんだ。あの二人の弟子なだけあってさすが、という感じだったかな」

「へぇ〜、あっ!……悪い、ワイスン。ミッションの前に言わないといけない事があった」

「なにかな?」

笑みを浮かべたまま、ワイスンが聞き返す。

ギルバートが、平手を額の前に持ってきて、

「悪い!リーリアが寮の部屋の壁を壊しやがった。俺が行ってる間に頼む!」

「……え?」

ワイスンの笑顔が固まった。

いくら強者ぞろいのビーストガーズでも、壁が壊れる事なんてめったに無い。

まして個人に貸している部屋が壊れると……。上司にも責任が……。

「……まあ、壊れた物は仕方ないな……、どうしてそんな事に……?」

ギルバートが話し終わると、ワイスンは困り顔で頭を抱えた。

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